優しい君とこの夜と
もう会えなくなった友達のことを思い出すと、胸の奥が静かに乱れる。
悲しいとか寂しいとか、そういう単純な感情じゃない。
もっと曖昧で、もっと厄介なものだ。
そんなとき、自分は元カノに連絡する。
悩みを聞いてもらう、なんて言い訳をつけて。
実際は、精神安定剤みたいに使っているだけだと分かっている。
仕事がうまくいかないこと。
夜になると理由もなく不安になること。
そして、もう会えなくなった友達の話。
自分の言葉はまとまりがなくて、同じところを何度も回る。
彼女は黙って聞く。
相槌を打って、たまに短い言葉を返す。
それだけで、呼吸が少し楽になる。
心拍が落ち着いて、世界の輪郭が戻ってくる。
効いているな、と思う。
同時に、最低だな、とも思う。
彼女はもう恋人じゃない。
それなのに、自分が限界に近づくたび、ここに戻ってきてしまう。
優しさを知っている場所に、勝手に避難している。
通話を切ったあとの部屋は、やけに広い。
さっきまでの安心感は、すぐに薄れていく。
飲み直しのできない薬みたいだ。
効き目は確かにあるのに、持続しない。
友達はもういない。
彼女も、もう隣にはいない。
それでも、過去にいた人たちの存在だけが、今の自分を支えている。
「過去に縛られすぎてるな」
そう呟く。
反省でも決意でもなく、ただの事実確認として。
前に進んだ方がいいのは分かっている。
でも、前に進むって言葉は、今の自分にはまだ重たい。
だから今日も、過去に手を伸ばす。
壊れない程度に、誰かの優しさを借りながら。




