50話 魔王と自由の街
山脈のふもとにある、不毛の大地。 そこに「自由部族連合」と呼ばれる都市国家がある。
表向きは獣人族の国という体裁を取っているが、国を追われた亜人、犯罪者、逃亡奴隷。行き場を失った者たちが多く流れ込む場所でもあり、「権力の空白地帯」として扱われている場所だ。
「……この門の先を想像すると今から胃が痛いわ。」
リリスが、都市の城壁を見上げながら顔をしかめる。
「『自由』とか実力主義と言えば聞こえはいいけど、実態は無法地帯。力のある部族が弱者を食い物にする。私の知り合いが何人もここで身ぐるみ剥がれたらしいわ」
アークは砂埃避けのマントを整え、頷いた。
「我々にとっては好都合とも言えるがな。実は先に依頼書をギルドに送っていたのだが、内容が内容だけにどう扱われているかは分からないな⋯」
アーク一行は、覚悟を決めて関所をくぐる。 すぐに血なまぐさい風と、暴力の洗礼を受けるだろうと身構えて。
だが。
「……どういうことでしょう?」
ヴァルガスが困惑の声を上げた。 門をくぐった先に広がっていたのは、ゴミもほとんど落ちていない綺麗な石畳の道と、整然と並ぶ露店。
そして、武器を持った獣人たちが「巡回」している、極めて平和な光景だった。
「いらっしゃい! 新入りかい? 滞在許可書の発行はあそこの詰め所だ、3日以内に取らないと最悪追放処分だから宿を取ったら早めに行くんだぞ。」
活気はあるが、殺伐とした気配はない。 道端で寝ている浮浪者もおらず、露店に並ぶ商品も適正価格で取引されているようだ。
リリスが目を丸くする。
「嘘でしょ……? 私が聞いてた『自由部族連合』は、もっとこう、汚くて野蛮な場所だったはずなのに」
「……情報収集だ。酒場へ行こう」
アークたちは、大通りに面した一軒の酒場に入った。 店内は多種多様な種族で賑わっていたが、暴れるような輩はいない。
アークはカウンターのマスターに銀貨を弾いた。
「ワインの炭酸割りを。
⋯この街は妙に静かだな。誰が統治している?」
「統治? いんや、王様はいねぇよ。部族長の寄り合いがあるだけだ。」
その言葉を聞いたアークは、胸元から金貨を1枚取り出すと、そっと机のうえを滑らせるようにマスターに渡した。
「……まぁ、裏で目を光らせてる『番犬』がいますけどね」
マスターは声を潜め、壁に貼られた一枚のポスターを指差した。 そこには、猛禽類の紋章と共に、いくつかの禁止事項(殺人、略奪、不当な価格操作など)が書かれている。
「数ヶ月前によそから流れてきた獣人族の傭兵団さ。『梟』って名乗ってる。
最初は馬鹿にされてたが、瞬く間にスラムのボスたちを締め上げて、この街の『ルール』を書き換えちまった」
「梟……?」
「ああ。金さえ払えばどんなトラブルも解決するが、汚い仕事は受けないし、依頼がなくてもルールを破った奴は容赦なく狩られる。
……おかげで俺たちは安心して商売ができるから、評判はいいけどな。」
アークは、その紋章を見つめた。
(この実力主義の街において知恵の象徴、梟か⋯)
「ねぇ!お腹空いたわ!何か食わせて!」
イグニスが騒ぎ始めたのでアークはため息をつくと、一行はいつか食事を頼んで酒場の隅にある8人がけの長机についた。
「気の抜けない場所ばっかりだったけど、この街はだいぶ普通というか、ある意味理想的とすら言えるわね。」
リリスが軽口を叩いて、運ばれてきた料理をつつく。
その時。
「君たちが、例の家に帰れなくなった迷子かい?」
アークの真後ろに座る男から声をかけられ、アークが振り返った。
そこにいたのは、安酒を片手に、退屈そうに書類を眺めている黒髪の青年だった。
軍服のようなコートを羽織り、その瞳は何を見ているのか分からない恐ろしさがある。 隣には、巨大な虎の獣人と金髪の女が護衛として控えていた。
青年はアークと、その背後のヴァルガスやリリス、イグニスを一瞥すると、軽く笑った。
「ずいぶんと派手な連れだね。……例の依頼書、なかなか面白い書き方だったから、依頼主に興味を持っていたんだ。」
その青年が体ごと達に振り返る。
「僕はレノ=モティエ、梟を率いる傭兵団長だ。
『お家に帰りたい』 金貨100億枚のS級クエスト、我々が受注しよう。」
2部完結となります!3部はアークたちが自由部族連合に到着してからの物語で、アークたちとの共同戦線を描く予定です。
2月中には3部再開出来るように頑張りますが、遅いと下旬再開になるかもしれません。よろしければブックマークや評価、ぜひよろしくお願いします!




