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48話 魔王と平和の街2

イグニスの手引きという名の強引な先導により、一行が王宮の入り口に差し掛かったところ。


「姫様。この者たちは?」


槍を持った龍人の戦士たち。硬い鱗に覆われた肌、口から漏れる炎の余韻。


それは街中で出会ったものたちと変わらず無機質ではあるが、静かな殺気が込められた瞳が一行を射抜く。


「えっと・・・誰だっけ?」


結局、自己紹介する間もなくここまで来てしまった。しかし、門番たちの反応を見るに、このお姫様が起こす騒動としては、それほど珍しいことではないのかもしれない。


「私はアーク=ヴァン=エクリプス。この山の王に会いに来た」


アークの言葉に、戦士たちの表情に微かな動揺が浮かんだ。


(おーまさかの正面突破、、、)


リリスが小声でつぶやく。


(回りくどい手を打って事態が好転するわけではない。だが、予想が正しければ…)


アークも小声でリリスに返す。


「ヴァン=エクリプス……。失われたヴァンパイア族の王家が何用でここに?」


警備隊長らしき、一番翼の大きい龍人が問いかける。


「よもや、ドラゴン族との因縁を忘れた訳ではあるまい。」


敵意が膨れ上がり、一触即発の空気になる。


ヴァルガスが右手に持っていた鞄を剣を握れるように左手に持ち替え、ベルはポチを抱き抱えたまま誰にも気づかれないように影に馴染んでいく。だが、その時。


『――通せ。』


脳に直接響くような、重厚な声が空間を震わせた。 戦士たちは一瞬の躊躇いも見せず、言葉通りに道を開ける。


警備隊長らしき獣人と絶妙な距離と緊張感を保ったまま、一同は王宮の最奥、玉座の間へと通された。


巨大なステンドグラスから差し込む光の中、龍王バハムートが静かに佇んでいた。


人の姿をしているが、背中に巨大な翼と、燃えるような赤い髪を持つ男だった。

ドラゴン族とヒト族のハーフにして、この国で最もドラゴンの血が濃い者。


「……ヴァンパイアを見るのは久しぶりだな。

よく来た、彷徨える弱き魔王よ。」


「初めまして、龍王。歓迎に感謝する」  


龍王の背中には、世界を背負うほどの哀愁が漂っている。


その声は重く、そして疲れていた。


「我が娘が世話になったな。……して、何用か」


「真実を知りたい。50年前の『滅龍戦争』について。


わが父王ゾルタークと先代にして叔父のヴォルグは、ドラゴンと争ったという。私は、その真実を確かめにここに来た。」


アークの問いに、龍王は長い沈黙の後、重い口を開いた。


「…悲しきことだ。


龍人族でも、もはや若い者たちは偽史しか知らないが、当事者である当代魔王ですら龍魔の誓約を忘れるとは。」


迂遠な言い回しに若干の苛立ちをアークが見せると、バハムートは深いため息をついた。


「いずれにせよ、ドラゴン族は歴史から姿を消した。そして、龍人族は生きた幽霊として暮らす。


我らは歴史の墓標の下で、息を潜めて生きることを選んだ。それが事実であり、平和を保つための決まりごとなのだ。」


龍王は悲しげに告げた。


「真実を知らぬのであれば、其方と話す価値はない。この街を去られよ。」


「……ふざけるな、それが王の務めだとでも?」


アークの声が、玉座の間を震わせた。


「それは平和ではない。歴代魔王がお前たちをどう扱ったとしても、彼らはもういない。


だが、龍人族は生きている。歴史に縛られ、恐怖に怯え、可能性を閉ざし、ただ死ぬのを待つだけの毎日に、何の価値がある?」


「……若き魔王よ。其方は、我々にとって魔王というシステムがどういう存在なのか、分からないのだろう。」


龍王は立ち上がり、窓の外――死んだように静かな街を見下ろした。


「見よ。誰も傷つかず、誰も争わない。我々は『龍』であることを捨てることで、種としての存続を選んだのだ。


……これを平和と呼ばずして何と呼ぶ。」


「自らの民から種族という誇りを奪い、尊厳を奪い、ただ心臓が動いているだけ。緩慢な虐殺と何ら変わりないではないか。」


「だが、そうしなければ多くの命が失われる。

魔王システムの真髄を知らないから無責任なことを言えるのだ。」


龍王の言葉に初めて力強さが宿る。


「それでも私は嫌ッ!!」  


そこに割り込むように叫んだのはイグニスだった。彼女はその翼を大きく広げ、父を睨みつける。


「そんなの生きていることにならない! 私は龍よ!


空を飛び、火を吐き、傷ついても自分の足で立ちたい! 何もしないまま死ぬなんて御免だわ!」


「イグニス……お前はまだ幼い。世界の残酷さを知らぬだけなのだ。」


「なら教えてよ!


私は檻の中の安全より、荒野の自由が欲しいの!」


親子の断絶。それは「停滞」と「変化」の衝突だった。


アークは一歩前に出る。


「龍王バハムート。本題に移ろう。


私は魔王朝ユニの再興を目指すつもりはない。

暴力により勝ち取った平和も、権力のための魔王城も要らない。


ただヒトがヒトらしく、エルフがエルフらしく、それぞれの種族が尊厳を持って生きて死ぬ世界を作りたい。


そのために龍人族の協力が欲しいのだ。」


「抜かせ、若造!


貴様の父も同じことを言って何も成し遂げなかったではないか!魔王など僭称せず、初めからあれを壊してしまえば良かったのだ!!」


龍王バハムートの全身から、膨大な魔力が噴出した。


空気が軋み、ステンドグラスが震える。大陸最強の生物としての「格」が、物理的な圧力となってアークたちを押し潰そうとしていた。

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