表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/55

47話 魔王と平和の街1

南の山岳地帯「神龍アガラムア郡」へと足を踏み入れていた。

ここは、かつて大陸最強の生物と呼ばれた「ドラゴン族」が住処とし、現在はその眷属であった龍人族が守り抜いている聖域だ。


「ね、ねぇ、ここって龍人族の聖地よね?彼らの崇めるドラゴン族って先代魔王が滅ぼしたんだよね?


それって、その、すご~く怒っているかもしれないような」


「いや、予想が正しければ・・・」


そこまで言ってアークは眼下に現れた光景に息を呑んだ。 

白い石灰岩で造られた塔、整備された水路、そして空を舞う飛竜たち。


神話の時代から切り取られたような龍の街アガラムア。


「……綺麗ね。でも、なんか変。」


リリスが腕をさすりながら呟く。


「静かすぎますな。」


ヴァルガスも声を上げる。


街に入ると、その違和感は確信に変わっていく。


龍人族の住人たちは皆、美しい衣服を纏い、穏やかな笑みを浮かべている。


だが、そこには生活の「音」がなかった。

子供が走り回る声も、商人が客を呼び込む声も、職人が鉄を打つ音もない。


彼らはまるで精密な時計仕掛けの人形のように、決められた動線を行き交い、ただ静かに挨拶を交わすだけだ。


街路を行き交う龍人たちは、皆、彫像のように美しく、そして無機質だった。


道端で、一人の幼い龍人の子供が、ふと空を見上げ、背中の小さな翼を広げようとした。


だが、即座に母親がその翼を押さえつけた。叱るのではない。

ただ悲しげに首を振り、無言で子供の目を覆ったのだ。

子供は抵抗することなく、諦めたように瞳の光を消し、俯いた。


そうした異常な日常に慣れ始めたころ。


「……そこの貴方。少し話を伺いたい」


アークが老人の龍人に声をかける。 「王に謁見したい。過去について伺いたいことがあるのだ。」


老人は立ち止まり、穏やかに微笑んだ。


「過去、ですか? 旅人さん、そんなことどうでもいいではありませんか。


今日もつつがなく日が昇り、日が沈む。それだけで十分ではありませんか」


誰もが同じだった。過去を問えば微笑みで躱し、未来を問えば首を振る。

王への謁見に関する方法もやんわりと躱され、会話にならない。


そんな中。


「あーもう! 退屈ッ!!」  


突如、広場の静寂を切り裂くような叫び声が響いた。  


人々が眉一つ動かさずに通り過ぎる中、一人だけ色彩の違う存在がいた。


燃えるような赤髪に、立派な二本の角と大きな龍の翼。


「どいつもこいつも、死んだ魚みたいな目をして! 退屈で死にそうなのよ!」


イグニスが石畳を蹴り飛ばすが、彼女の慟哭は、誰にも届かない。

住人たちは「哀れな病人を労る」ような目で彼女を一瞥し、静かに通り過ぎていく。


彼女だけが、この停滞した世界で唯一、鮮烈な「生」を放っていた。


「……あなたたち、外から来たのね?」


イグニスがアークたちに気づき、目を輝かせて駆け寄ってきた。


「匂いでわかるわ。泥と、血と、トラブルの匂い! ねえ、教えてよ。


外の世界にはもっと『マシな何か』があるんでしょ!?」


「……あるにはあるが、ここより騒がしくて汚いぞ」


この街で初めて食い気味に声をかけられて少し戸惑いながらアークが答えると、イグニスは花が咲いたように笑った。


「最高じゃない! それで、この街には何しに来たの?」


何度も質問が空振りに終わっていたからか、そういえば、とアークが問いかける。


「王に謁見したいのだが・・・」


「お父様に会いたいのね、ほら、着いてきて!」


そう言って龍王の娘ーーーイグニスは走り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ