表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/45

32話 魔王と老執事2

大きな野望を掲げた2人の逃避行は壮絶の2文字に尽きた。


有翼族の放った追手は、生物ですらなかった。


天使型ゴーレム。 白磁の肌に、無機質な翼。痛みを感じず、ただ対象を排除するまで追跡を続ける殺戮人形。


その激しい追撃により、何度も傷を負いながらも撃退し、ときに隠れ、ときに休み、短命種族であれば決して耐えられないような長い時間をかけて、アークとヴァルガスは当てもなく南部の砂漠地帯を旅している。


そして、植生は疎らになり、赤茶けた荒野が広がる「渇きの砂漠」。


照りつける太陽の下、ボロボロのマントを羽織った二つの人影が歩いていた。


アークは乾いた唇を舐めた。

魔王といえど、肉体は生物だ。水も食料も必要だし、疲労もする。


かつて最高級のワインと美食に囲まれていた生活は、遥か彼方の夢のようだ。


「三代目、少し休みましょう。この先の岩場なら日差しを避けられます」


「すまない、ヴァルガス爺、私が気を遣わねばならないのに。老人を労われとよくマリアンヌに言われたのを思い出すな。」


「ふ、お戯れを。老人扱いしないでくだされ。」


岩陰に座り込み、アークはボロボロになった地図を広げた。


「我々が持ち出せた資産は装飾品程度、戦力は私とヴァルガスの2名。領土も信用もなく、世界のお尋ね者。


……笑えるほど何もないな」


「ですが、三代目には『血』がございます」


ヴァルガスが何かの生物の皮で作られたであろう水筒の水をアークに差し出しながら言った。


「血、か」


「はい。ヴァンパイア族の王家のみに継承される固有ユニークジョブ。


三代目が『魔王』と呼ばれる所以です」


アークは自分の掌を見つめた。


そこには、複雑な幾何学模様の紋章が薄っすらと浮かび上がっている。


「ヴァルガス爺、講義の続きだ。この力で私は何ができる?」


「はっ。……この世界の生物は皆、生まれながらに『適性』を持っています。


剣が得意な者、商いが得意な者、魔法が得意な者。


しかし、多くの者はその才能に気づかぬまま、農夫や兵士として平凡な一生を終えます」


ヴァルガスは、自身の鎧の胸元を指差した。


「ですが、魔王のスキルは、対象の魂に干渉し、その眠れる才能を『ジョブ』として強制的に覚醒させることができます。


もとは『戦士』という平凡なジョブであった私に『黒騎士』という稀有なジョブを与えたのも、初代…あなたのお父上でございます。」


「……つまり、ジョブ『魔王』が最強たる所以は、仲間の強化ということか」


「左様でございます。ただし、適性のないジョブを与えることはできません。

農夫の才能しかない者に、剣聖のジョブは与えられぬのです」


「なるほど。適性、か…。」


そうしてアークが手のひらをヴァルガスに向ける。

ヴァルガスの身体の上に、半透明の文字が羅列されるのが見えた。


 【名前:ヴァルガス】  【現在ジョブ:黒騎士】  【適正ジョブ:重戦士、近衛騎士、……料理人】


「不思議な感覚だ。ヴァルガス爺、戦士と黒騎士のほかに料理人のジョブもあるようだぞ。」


「父王にはよくそれで揶揄われました。


もっとも、ジョブの付与(上書き)は一度しか出来ないと聞いておりますので、今や選び得ぬ道ですがな」


ヴァルガスは少し寂しげに、しかし誇らしげに笑った。  彼は料理人としての平和な人生よりも、魔王の盾として生きる道を選んだ。


アークは乾いた笑いを浮かべると、水場で出会った隊商から買い上げた地図のある一点を指差した。


砂漠のオアシス都市「ナラク」。 犯罪者や密輸商人が集まる、大陸有数のスラム街だ。


「再起の条件は3つだ。経済力、軍事力、そしてそれらを支える『仲間』」


「ナラクへ向かうおつもりですか? あそこは人の住む場所ではありませんぞ。裏切りと欲望の坩堝るつぼです」


「だからこそだ。まともな国では、私はただのお尋ね者だ。だが、あそこなら身分も過去も問われない。泥の中にこそ、磨けば光る原石が転がっているかもしれない。」


アークは立ち上がった。 疲労はあるが、その瞳には光が戻っている。


「……御意に。」


(…若き日の初代にそっくりでございますな)

老執事は嬉しそうに目を細め、主君の背中を追った。


ジョブ「魔王」ーーーそれは万物を導き、管理する、統治の力。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ