閑話(14.5話)梟の休日②
14.5話というか、これも入れると14話が長くなりすぎるので本編で割愛した部分です。
レノとミラ、ゾラとメラとラナの王都での休日。
ーーー王都での会議翌日。
それぞれが王都での限られた休息時間を楽しんでいた。
王都の大通り。着飾った貴族やカップルが行き交う中、そこだけ空気が灰色に沈んでいる一角があった。
軍服の襟を少しだけ寛げたレノと、その半歩後ろを完璧な姿勢で歩くミラだ。
「……大隊長。歩く速度が速すぎます。これでは『散策』ではなく『行軍』です」
「仕方ないだろ。王都の物価は高い。無駄にカロリーを消費しないよう、最短ルートで目的の屋台に向かっているんだ」
「本日は休日です。カロリー計算と予算管理から少しは離れてください」
ミラが呆れたように溜息をつく。
二人がやってきたのは、大通りの裏路地にある、脂の匂いが充満した串焼き屋だった。お世辞にもデート向きとは言えない、労働者階級の店だ。
「おやじ、塩2本。あと水」
「はいよ!」
出された串焼きを、レノはベンチに座って齧り付く。
「うん、硬い。だが、この硬さがいい。顎を使うから満腹中枢が刺激される」
「……普通、女性を連れてくるなら、あちらのカフェテラスではありませんか?」
ミラが通り向こうの華やかな店を指差す。
「あそこはコーヒー一杯で銀貨3枚するから…でもたまには行ってみるか」
「銀貨3枚……。やっぱりやめておきます。」
ミラは諦めたように隣に座り、串焼きを口に運んだ。
周囲からは「獣人連れか」「物好きな将校だ」という視線が刺さるが、レノは全く意に介さない。
「ミラ、あそこの服屋。あそこは生地がいい。今度、隊の冬服の補修素材をあそこで買い叩くぞ」
「……デート中に、軍の補給計画の話ですか?」
「デート? 誰が?」
「……いえ、なんでもありません」
ミラは少し拗ねたように串焼きを噛みちぎったが、その横顔は少しだけ緩んでいた。
「でも、悪くない味ですね」
「だろ? 効率と実益。それが俺の美学だ」
レノが口元のソースを袖で拭おうとすると、ミラがスッとハンカチを差し出し、丁寧に拭い取る。
「だらしないですよ、レノ」
「……悪い」
言葉少なに、しかし確かな信頼だけで繋がっている二人。 甘い言葉など一つもない。だが、その無骨な時間こそが、二人にとっては最も安らげる「特等席」だった。
一方、市場エリア。
「うおぉぉぉ! 見ろメラ! あの肉! 俺の顔よりでけぇぞ!」
「うるさいよゾラ。声がでかい。通行人が見てるだろ」
興奮して尻尾をブンブン振るゾラと、眼鏡を押し上げながら周囲にペコペコ頭を下げるメラ。
そして、その後ろをラナが大きな荷物を抱えて歩いていた。
「ちょっと男子ー! 荷物持ちじゃんけん、私が負けたからって全部持たせることないでしょ!」
「悪いなラナ! 手が塞がってると、試食ができねぇんだ!」
「最低!私だって食べたいのに!」
ラナが膨れるが、ゾラは意に介さず武器屋の露店へと突撃していく。
「おいおやじ! この大剣、いくらだ!」
「へい、金貨2枚だ」
「たっけぇ! ぼったくりか!?」
「バカ言え、こいつはドワーフの鍛冶師が打った業物で……」
ゾラが店主と値段交渉(という名の怒鳴り合い)をしている横で、メラは静かに魔導書の古本を漁っていた。
「……はぁ。『初級火魔法理論』か。第4大隊の連中は感覚で撃ってるけど、やっぱり理論値の計算が重要なんだよな……」
メラは薄汚れた眼鏡を拭きながら、真剣な眼差しで本に見入っている。
「メラ、あんたそれ買うの?」
ラナが荷物を持ち直して覗き込む。
「うん。レノ大隊長の作戦は複雑だからさ。僕がもっと細かく魔力制御できれば、大隊長の負担も減ると思って」
「……あんた、真面目だねぇ」
「ゾラみたいに筋肉で解決できれば楽なんだけどね」
そう言って笑うメラの横顔を見て、ラナは少しだけ胸が痛んだ。
(みんな、無理してる。次の戦いがヤバいって、勘づいてるんだ)
「おーい! ラナ、メラ! こっち来てみろ!」
ゾラが呼んでいる。行ってみると、彼は大剣ではなく、小さな「お守り」を3つ、手に持っていた。
「……何それ」
「あ? 店主が『おまけ』でくれたんだよ。ダサいから俺はいらねぇ。お前らにやるよ」
ゾラはぶっきらぼうに、鳥の羽で作られた安っぽいチャームを二人に投げ渡した。
「……ふふ、ありがと。大事にする」
「ゾラにしては気が利くじゃん。でもこれ、カラスの羽じゃない? 不吉だなぁ」
「うるせぇ! いらねぇなら返せ!」
ギャーギャーと騒ぎながら歩く三人の背中。
青空の下、つかの間の「仲間」との時間を噛み締めていた。




