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22話 梟の品格

逆侵攻を開始して以来、初めて大規模な抵抗を受けた戦闘で、ヒト族は第4大隊の大隊長を含む多くの犠牲を出した。


しかし、それは王国史上初めてのエルフ族の拠点制圧となる歴史的偉業でもあった。


だが、そんな第9大隊によって制圧されたエルフの集落は、奇妙な静寂に包まれていた。


樹上の家々、美しい彫刻が施された広場。住民のエルフたちは、広場の中央に集められ、とりわけ非戦闘員らしい者たちは怯えた瞳で周囲を取り囲む武装した獣人たちを見つめている。


そこへ、散開していて幸いに逃れた第4の生き残りや、この戦争初期に壊滅的被害を被って遊軍と化していた第6の残存兵が遅れて到着し、雪崩れ込んできた。


「おい見ろ! エルフの女だ! 上玉がいるぞ!」 「金目の物もありそうだ。部屋を全部改めろ! 抵抗する奴は殺していい!」


彼らは第4大隊の壊滅による恐怖の反動からか、あるいは勝利の興奮からか、理性を失っていた。 一人の兵士が、エルフの少女の手を強引に引く。母親が悲鳴を上げて止めようとするが、銃床で殴り飛ばされた。


「やめろ! 離せ!」


「うるせえ! 俺たちは勝者だ! 敗者は俺たちの慰み者になるのが道理だろうが!」


兵士が卑猥な笑みを浮かべた、その時だった。


――バンッ!


乾いた銃声が響き、兵士の足元の地面が弾けた。


「……あ?」


兵士が凍りついて振り返ると、広場の入り口にある木箱に腰掛けたレノが、愛用の回転式拳銃の銃口から煙を吹かせていた。


「本集落は第9が接収した。一切の略奪を禁じる。」


「な、何をしやがる! 味方を撃つ気か!?」


「次はお前の股間を撃つ。それでもいいなら続けろ」


レノの声は、氷のように冷たかった。いつもの気だるげな雰囲気は消え失せ、死神のような殺気が兵士たちを射抜く。


「貴様、第9大隊の隊長か! これは正当な権利だ! 命がけで戦ったんだ、これくらいの報酬はあって然るべきだろ!」


「権利ねぇ……。あのな、俺は『効率』の話をしているんだ」


レノは銃の熱を確かめるように指で弄んでいた。


「略奪や暴行を受けた住民は、逃げれば死に物狂いで抵抗するゲリラに変わる。噂が広まれば、次の集落は決して降伏せず、最後の一人まで決死兵と化す。お前らの欲求不満の解消のために、この戦争に負けてたまるか」


「訳わからねぇ、どっちにしろ皆殺しだろう!? 貴様、亜人風情の肩を持つのか!やっぱり獣人族だと同情しちまうのかぁ」


兵士が逆上して剣を抜こうとした瞬間。ドッ、という重い音がして、兵士が吹き飛んだ。ゾラが横合いから蹴り飛ばしたのだ。


「お前ら、聞こえなかったのか? ボスが『やめろ』っつってんだよ」


ゾラだけではない。ミラ、ラナ、そして他の獣人兵士たちが一斉に武器を構え、人族の兵士たちを取り囲んだ。


彼らの瞳には、かつて自分たちを虐げてきた人間への怒りと、そして「自分たちはこいつらとは違う」という強烈な自負が宿っていた。


「ひッ……な、なんだこいつら……」


人族の兵士たちは、獣人たちの圧倒的な圧力に押され、捨て台詞を吐いて逃げ去っていった。


静まり返る広場。 レノは銃を収め、エルフたちの方を見ずに部下に命じた。


「ミラ、住民に危害を加えるなと全隊に徹底しろ。ただし、武装している者は容赦なく無力化せよ。食料の徴発は必要最低限、少なくとも半分以上は残してやれ」


「はっ! ……半分、ですか?」


「全部奪ったら餓死するだろ。死体から疫病が流行っても面倒だ」


それはあまりに下手な言い訳だった。ミラは小さく噴き出しそうになるのを堪え、わざとらしく敬礼した。


「了解しました。……本当に、うちの指揮官は『潔癖症』で困りますね」


「うるさいな、早く行け」


レノがそっぽを向く。その耳が少し赤いのを、ミラは見逃さなかった。


その光景を見ていた集落の長老らしきエルフが、驚愕に目を見開いていた。


(……信じられん。獣人とは、破壊と欲望の権化ではなかったのか?)


彼の視線の先で、黒髪の指揮官が、略奪もせず、ただ静かに部下に指示を出している。  


獣人兵士の一人がポツリと漏らした。


「……俺たちは、あいつら人間よりはマシ、か」


かつて懲罰大隊と蔑まれた彼らが、初めて「誇り(プライド)」を手に入れた瞬間だった。


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