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19話 梟の勝鬨

――セキフ平原の戦場の遥か東。


そこでは、別の「蹂躙」が行われていた。


「つまんない。レンジ、もう帰っていい?」


「命令は殲滅だぞ。一匹残らずやれ。」


第1部隊のレンジ=ロートフィルトとレイカ=アルヘント。


彼らの周りには、炭化した死体の山が築かれていた。 レンジが指を鳴らすたび、花弁のような形状をした炎が舞い、エルフ兵を美しく、そして残酷に焼き尽くしていく。


レイカは無表情で錬金術を行使し、地面から生やした棘で逃げ惑う敵を串刺しにしていた。


そこには戦術も、駆け引きも、熱気すらない。 ただ、事務的な「処理」があるだけだった。


「あっちの第9大隊、なんか盛り上がっとるな」

「へえ。あの死神さんのとこ? ……あの猫さん可愛かった」


彼らにとって、レノたちの必死の勝利など、道端の石ころほどの関心事にもならないようだった。


激戦を超えて、翌朝。


泥と鉄線で作られた「処刑場」と化した平原を、一筋の疾風が切り裂いた。


「小賢しい罠だ! だが、我が魔剣の敵ではない!」


ただ一騎、並外れた魔力を纏った影が飛び出した。 エルフ軍の将軍、ガリアスだ。


彼は途中で馬の脚に矢が当たると躊躇せず愛馬を捨て、自身の足に風の魔力を纏わせることで、泥の上を滑るように駆け抜けていた。


前日の激戦で、もはや前線にそれを止める気力すら残っていなかった。


ガリアスが狙うは本陣。指揮官レノの首ただ一つ。


「貴様さえ殺せば、この卑劣な戦いも終わる!」


ガリアスの剣が真空の刃を飛ばす。レノを守るように展開していた獣人兵たちが、その余波だけで吹き飛ばされた。


レノは椅子に座ったまま、迫りくる死の刃を眉一つ動かさずに見つめている。


「任せたぞ、ゾラ」


レノのつぶやきと同時に、横合いから黒い弾丸のような影がガリアスに激突した。


ガギィンッ!!


金属音が響き、ガリアスの突進が止まる。  剣を受け止めたのは、大斧の柄。そして、獣の耳を逆立たせ、瞳孔を縦に開いた青年――ゾラだった。


「へえ、いい剣じゃん。俺の獲物にしてやるよ」 「獣人風情が……退け!」


ガリアスが剣を振るう。達人の剣技。だが、ゾラはその軌道を紙一重でかわし、むしろ懐へと潜り込んでいく。


「半獣化」、それは最低限の理性を保ちながらも思考を排除し、肉体を野生の本能そのものへと変える力。彼の動きに「タメ」や「予備動作」は存在しない。脊髄反射のみで構成された超高速の殺陣だ。


「遅い。あくびが出る」


ゾラが嗤う。 ガリアスの顔に驚愕が浮かぶ。


「不敗のゾラ」の情報は聞いていたが、これほどとは。 だが、ガリアスも歴戦の将だ。詠唱破棄で至近距離から風魔法を放つ。


「吹き飛べ!」

「邪魔だッ!」


ゾラは魔法を避けない。魔力で強化された左腕で、風の刃を無理やり「殴り」砕いた。肉が裂け、血が舞うが、彼は止まらない。(あの炎野郎の熱さに比べりゃ、こんなの、そよ風だ!)


「レノは俺に『勝て』って言ったんだ!!」


痛み分けで生じた一瞬の隙。ゾラの斧が、ガリアスの喉元を捉えた。 鮮血が舞い、エルフの将軍がどうと倒れる。


静まり返る戦場。ゾラは返り血を拭いもせず、倒した敵将の首を踏みつけ、獣の咆哮を上げた。


それは、第9大隊の勝利を決定づける勝ちどきだった。


それから程なくして、第4のグレン=ロートフィルト、第1のレンジ=ロートフィルト、レイカ=アルヘント、タケル=グレンフィールが敵の側面を突き、エルフ族のセキフ平原方面軍は壊滅的な被害を被った。


数刻の後、中央方面軍は森羅シルフヴェール帝国領まで撤退したとの報がもたらされたのであった。

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