15話 梟の共犯
深夜。
カビ臭い倉庫の個室に、レノ、ラナ、バムの三人が集まっていた。
外では、死を覚悟した兵士たちが、遺書を書いたり、やけ酒を煽ったりする喧騒が微かに聞こえる。
「さて、二人を呼んだのは他でもない。今から『買い物』に行ってきてほしいんだ」
「買い物? この時間に空いてる店なんて、私の知ってる裏ルートの薬屋くらいだよ」
ラナが気だるげにため息をつく。
「店じゃないよ。行くのは兵器庫だ」
レノが地図を広げる。そこには、廃棄予定の装備や、横流しされた物資が眠る倉庫が印されていた。
「……隊長。それは『窃盗』だ。見つかれば銃殺刑だぞ」
古参の狙撃手バムが、静かに警告する。しかし、その目はレノの真意を探っていた。
「人聞きが悪いな、バムさん。これは『現場判断による緊急物資調達』だよ。」
レノの声のトーンが落ちる。
「しかし隊長、こりゃあ……威力が強すぎて味方ごと吹っ飛ぶからってお蔵入りになった欠陥品に、よく使い道の分からないドワーフ製の品だぞ」
バムがリストを読み上げて引きつった笑いを浮かべる。
「使い物にならないゴミ扱いされてたようだけど、使い方次第さ。……エルフの綺麗な鎧を吹き飛ばすには、これくらい品がない方がいい。
もし何もしなけりゃ、どっちにしろ死ぬんだ。それが敵兵より軍法会議の方が、ちょっとだけ長生きできるうえに、楽にいけるだろう。」
バムは一瞬沈黙した後、ニヤリと笑ってライフルの手入れを始めた。
「……了解した。天国の孫への土産話がまた一つ増えそうだ」
「へいへい。鍵開けは任せな。兵器庫は昔やったことあるけど、教会の募金箱よりはだいぶ楽に開けられるから…ってじいさん、天国に行く気でいたの?」
ーー翌朝未明。
出撃準備が整った兵士たちが整列している。空気は重く、誰も口を利かない。
「どうせ死ぬんだ」「盾にされて終わりだ」という諦観が支配している。 壇上にレノが立った。
「おはよう、諸君。顔色が悪いね。昨夜の酒が抜けてないのかな?」
兵士の一人が叫ぶ。
「ふざけるな! 俺たちは捨て駒だろ! 上層部は俺たちを見殺しにするつもりで命令したんだろ!」
怒号が飛び交う中、レノは表情を変えずに待った。静かになるのを待ち、そして口を開く。
「その通りだ。上層部は君たちをゴミだと思っている。盾にして、砕け散ればそれでいいと思っている」
会場が静まり返る。
「……腹が立たないか?」
レノの声は小さかったが、全員の耳に届いた。
「僕は腹が立っている。あの豚貴族どもに、僕の命の使い方を決められるのが我慢ならない。だから、決めた」
レノは、盗み出した大量の物資とレノの後ろにいる見慣れないひょろっとした数人のヒト族を指差した。
「命令は『死守』だ。だが、『死ね』とは言われていない。僕らは生きるぞ。敵を殺し、利用できるものは全て利用し、泥水を啜ってでも生き延びて……全員で帰ってきて、あの貴族どもの驚いた顔を拝んでやろうじゃないか」
それは演説というより、共犯の誘いだった。
そして、その裏でレノはスメラギとの賭けで心なしか包まれていた金貨を使い、王都でくすぶっている新聞記者たちに声をかけていた。
「そして、今回は、命知らずにも我々に同行してくれる新聞記者たちがいる。この戦いで勝てば、王都の主要新聞4社のうち3社が獣人に好意的な記事を出してくれる手筈だ。」
国のためではなく獣人の権利のために戦う。 その卑近で強烈な動機が、獣人たちの心に火をつけた。
「……へッ。上等だ。あの炎野郎の鼻を明かすまでは、地獄の底からでも戻ってきてやるよ」
ゾラが拳を突き上げる。 兵士たちの目に、絶望ではなく、獰猛な光が宿り始めた。




