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13話 梟の使命

全大隊長を集めた会議は、王城の豪華絢爛な執務室で開催された。


「君だね、第9大隊長のレノさん」


ヤマトが歩み寄る。その一歩ごとに、床に咲いた花のような香気が広がる。だが、鼻の奥がツンとするような、人工的な甘ったるさにレノは少し気分の悪さを感じた。レノは立ち上がり、敬礼した。


「はっ。お初にお目にかかります、ヤマト様」


「敬語はいらないよ。僕たちは同じ、王国を守る剣、大隊長なのだから」


ヤマトが右手を差し出す。 完璧な角度、完璧な速度、完璧な笑顔。 レノはその手を握り返した。

しかし、レノの鋭い観察眼は、常人には見えない違和感を捉えていた。


本当に私を見ているのだろうか。ヤマトの瞳は美しかったが、そこには「他人への関心」という光が欠落していた。 まるで、精巧に作られたガラス玉が埋め込まれているようだ。


「君のような柔軟な発想を持つ指揮官が必要だ。期待しているよ。……世界のために、ね」


「……光栄です」


そうして着座すると、第8のオルグ少佐が怯えたウサギのような様相で座っていた。


「それで、第8のオルグ少佐には既に通達済みだが、この戦時下において軍法に違反してレノ大隊長及びその麾下を私情により無断で拘束した。この失態を王国は重く受け止めており、オルグ少佐をむち打ち20回の刑とし、代理人の擁立を認めないこととした。」


オルグ少佐がガタガタと震えるが、一言も発さないのは既によっぽど絞られたのだろう。何しろ一番乗りだったのだから。


(それにしても、獣人差別については言及なしか…)


パンっとヤマトが手を叩いて、笑顔に戻った。


「さて、じゃあ些事も済んだことだし、始めようか」


だが、ヤマトが説明すればするほど、先ほどとはまた異なる、重苦しい空気が部屋を支配していった。


巨大な地図の上には、エルフ軍(緑の駒)が王国の防衛ライン(赤い線)を深く食い破っている様子が示されている。


「西のヒライ要塞は敵の援軍が現れてから押し込まれたようで、要塞が半包囲されかけている。東のネシア商業都市も防衛戦線が崩壊。エルフの魔導部隊により、都市の防衛ラインを形成していた4つの要塞が陥落している。」


貴族たちが青ざめ、口々に喚く。


「第1大隊を出せ!」「いや、勇者は王都防衛のために温存すべきだ!」


その喧騒を、レノは部屋の隅で冷ややかに見ていた。


(始まった。責任のなすりつけ合いだ)


「皆さまのご心配も分かります。ですが、話はとても簡単です。まず、ネシア商業都市の侵攻軍が最大の問題です。ここを抜けられれば即座に王都に牙がかかることとなる。


よって、ネシア商業都市が陥落する前に対応する必要がある。ここは我々第1が出ましょう。


次に、ヒライ要塞。ここは第7の担当ですが …援軍なしでどれほど持ちこたえられるでしょうか。」


カイヤ大隊長があごひげをなでる。


「うむ、今の敵戦力であれば兵糧の持つかぎりは、3年は陥落せぬだろうな。」


「つまり、今回の侵攻作戦を挫く要所は、セキフ平原だ。敵の主力を誘引し、撃滅する。」


しかし、セキフ平原を担当する第4大隊長のグレン=ロートフィルトは机を叩いて立ち上がる。


歴代、炎の魔法使いを出してきた軍閥ロートフィルト家の家長であり、その荒々しい感情の波は幾分か部屋の温度が高くなったようにすら感じる熱気だった。


(昨日のレンジのお兄さんだったかな…髪型を変えれば意外と似ているか)


「平原で敵を引きつける?殲滅魔法などの大魔法に長けたエルフの魔法射程内だぞ。そんな自殺行為をうちに押し付けようってか」


グレン=ロートフィルトの視線がヤマトの後ろで座り込んでいた参謀を突きさすと、参謀の視線が、部屋の隅に向けられた。 全員の視線がその先、レノに集まった。


「ち、第9大隊か。……ふん、まあいい。 ドブネズミにはドブネズミに相応しい死に場所があるということだ。名誉あるロートフィルトの魔法使いが泥にまみれるよりは、幾分かマシな采配だな」


グレンは侮蔑の視線をレノに投げ、ドカッと椅子に座り直したが、今度はカイヤが立ち上がった。


「正気か!? 第9大隊は重騎兵がいない。あそこは遮蔽物もない平地だぞ! 全滅させる気か!」


カイヤが机を叩いて抗議する。 しかし、大臣たちは冷淡だった。


「彼らは罪人ばかりの部隊だ。国の役に立って死ねるなら本望だろう」「それに、あの『死神』なら何とかするのではないか?」


無責任な期待と、悪意ある排除の論理。 カイヤがさらに食い下がろうとした時、レノが立ち上がり一歩前に出た。


「――了解しました」


静かな声だった。 あまりにあっさりとした受諾に、カイヤが目を見開く。だがヤマトは、眉一つ動かさず、まるで天気が晴れた程度の関心しか示さなかった。


「そうか。では決定だ。次は補給線の確認をしよう」


すぐに次の議題へ移るその姿に、レノは確信した。ああ、この男にとって初めから自分たちは「捨て駒」として計上されているのだ、と。


「レノ、お前……!」


「命令とあらば、完遂するのが軍人です。」


次の話題に進むなか、レノは手元の地図の「セキフ平原」の布陣予定地を指でなぞる。


(何もない遮蔽物がないからこそ、エルフ族は慣れない平原戦でボロを出すだろう。問題はどうやってボロをつつくか、そして、友軍の支援があるまでどれだけ耐えられるかだが…)


会議が終わると、大臣たちは「面倒な処理が終わった」とばかりに安堵の表情を浮かべた。レノは敬礼すると、カイヤにさえ表情を悟らせぬまま踵を返した。

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