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11話 梟の晩餐

到着した翌日。会議の前日。


全大隊長が集まる会議の前夜に幹部への招集がかかり、ちょっとした軽食とお酒がふるまわれた。


シャンデリアが輝く会場には、着飾った貴族や将校たちが集っている。 その一角に、場違いな二人がいた。 礼服など持っていない第9大隊のレノとミラは、洗濯しただけの野戦服で立たされている。第8の豚少佐はいないようだ。


周囲からは「獣臭い」「野蛮人が」というヒソヒソ話が聞こえる。


小声でレノが話しかける。


「ねえミラ、あのローストビーフ、持って帰れないかな? ゾラたちへのお土産に」


「部隊長、今は黙っていてください。視線が痛い」


ミラは背筋を伸ばして立っているが、その耳は緊張でピリピリと震えている。 その時、会場の空気が凍りついた。 人垣が割れ、第1大隊のメンバーが現れる。


白いドレスのような軍服を来た少女。無表情ながら、巨大な戦鎌を背負っている。


「あれが我が国の序列5位、白銀、レイカ=アルヘントですね」


「じゃあ隣がロートフィルトの?生き別れた兄弟とか。」


軍服の襟をだらしなく開け、虚ろな目で宙を見つめている赤い髪をした青年。


他のヒトには聞こえないような小声での会話にも関わらず、その青年が返事した。


「あーそうだよ。おれがレンジ=ロートフィルト。家名で呼ばれるのは気に食わないけどなぁ。」


レンジがレノにガンをつけているなか、レイカが、ミラの目の前で止まった。


「……ねえ、レンジ」


レイカの声は鈴のように可愛いが、抑揚がない。


「この耳、本物?」


レイカの手が伸びる。ミラが反応するより速く、その冷たい指先がミラの獣耳に触れた。 ゾッとするような殺気。ミラの本能が「動くな、動けば死ぬ」と警鐘を鳴らす。


「……っ!」


「あったかい。……ねえ、部屋に飾りたい」


レイカの瞳には、悪意すらなかった。あるのは純粋な興味と、対象を「モノ」としか見ていない冷酷さだけ。 レイカが懐からハサミを取り出す。ミラは金縛りにあったように動けない。


「やめときな、レイカ」


レンジが面倒くさそうにレイカの肩を掴んだ。


「ここ、絨毯張り替えたばっからしい。血ぃ流したら、クリーニング代請求される」


「……じゃあ、外でやる?」


「団長に怒られるだろ。」


「ん-でもやっぱり気になる」


助け船ではない。「汚れるから」という理由だけで、レンジは興味なさそうに通り過ぎようとする。


そのすれ違いざま、レンジの身体から漏れ出た熱気が、ミラの肌をジリジリと焼いた。魔法ではない、ただの漏れ出る余剰魔力だけで、呼吸が苦しくなるほどのプレッシャー。


(これが……王国の最高戦力……)


ミラが膝から崩れ落ちそうになった瞬間、 レノのふわりと軽い手が、ミラの肩を支えた。


もう片方の手には皿いっぱいのカナッペを持っている。


「……誰?」


「第9大隊のレノです。以後お見知り置きを……と言いたいところですが、覚えなくて結構です。どうせすぐ死ぬ消耗品ですから」


レノは微笑をはりつけながら、レイカとミラの間に割って入る。


「ところで。このカナッペ、かなり美味しいですよ」


レノは手に持っていたカナッペを、レイカの口元に突き出した。 一瞬の静寂。 誰もが、レイカがレノの首を刎ねてしまうのではないかと危惧した。


「……変な人」


レイカはカナッペをパクりと咥えると、興味を失ったように背を向けた。


「……ふーん」


レンジは少しだけ目を見開き、レノを一瞥した。その瞳の奥には、値踏みするような光が宿っていたが、すぐにまた虚ろな目に戻る。


「行くぞ、レイカ。……うちの妹が邪魔したな、"死神"サン」


その圧倒的な嵐が過ぎ去った後、ミラは肩で息をしながらレノを見上げた。 レノの背中は汗でびっしょりだったが、いつもの飄々とした笑みを崩していなかった。


「……ふぅ。寿命が3年縮んだよ。やっぱり今日は帰ろうか、ミラ。ここは空気が悪い」


レノは震えるミラの背中をポンと叩き、出口へと促した。 その目だけは、去りゆく黄金の背中を、氷のように冷たく見据えていた。


だが、会場をあとにしようとする二人を引き留めるものがいた。

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