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10話 梟の夕食

青空を切り裂くようなファンファーレ。 王都ヘリオスのメインストリートは、花吹雪と歓声で埋め尽くされている。


「勇者様ー!」 「黄金の夜明け万歳!」


きらびやかな白銀の鎧を纏った『第1大隊 アウロラ・アウレア』の面々が、白馬に跨り優雅に手を振る。大隊といっても、身分上そう呼称されるだけで、第1は僅か5名しかいない。


先頭を行く男の笑顔は、太陽そのもののように眩しい。ヤマト=ライオス。ジョブ「勇者」を持つ数十年ぶりのヒト族。


すでに魔王として君臨していたヴァンパイア族が滅んで数十年となるが、いまだエルフ族などとの小競り合いが続くなかで勇者ライオスは「王国の希望」という二つ名を冠する。


そうして彼らが王城に正門から入場している一方、泥と血にまみれた集団がひっそりと倉庫に向けて歩いていた。 『第9大隊 ペシェシュエット』である。


「……なんで俺たちが、生ゴミを運び出してるようなところから一緒に入らなきゃなんねえんだよ」


ゾラが足元の小石を蹴り飛ばす。軍服はツギハギだらけだ。


およそ同年代で、戦士と魔法使いという対比からライバル意識すら芽生えているメラが口を尖らせて言う。


「仕方ないさ。僕らは『凱旋』に値しない汚点部隊だからね。それに見てごらん、こっちの方が空いててスムーズだ。」


レノは欠伸を噛み殺しながら、最後尾を歩いている。


「大隊長、前を見てください。歩きながら寝てはいけません」


「今日は一段と厳しいなぁ、ミラ。……おっと」


レノがふらりとよろける。その先には、生ゴミを漁る野良犬が一匹。


「やあ、同志。君も腹ペコかい? 残念ながら、僕のポケットには夢と希望すら入ってないんだ」


悪びれるどころか、本心からそう言っている姿に、ミラは視線を少し下に落とした。


そうして第9が案内のままに到着したのは、王都の隅にある廃倉庫だった。 屋根には穴が空き、床板は腐り、カビが舞っている。


「ふざけんな! これが最前線で戦ってきた部隊への扱いかよ!」


誰かがそう叫んだ。さらに、補給係が持ってきた「夕食」が火に油を注いだ。 木箱に入っていたのは、緑色に変色した肉と、石のように硬いパン。どう見ても廃棄処分品だ。


「……殺す。あの豚貴族ども、全員喉笛食いちぎってやる」


ゾラが斧に手をかけたその時、レノがパンパンと手を叩いた。


「はいはい、注目。ラナ、出番だよ」


けだるげなヒーラー、ラナが前に出る。


「……へいへい。浄化ピュリファイ


ラナが肉に手をかざすと、ドス黒い瘴気のような煙が抜け、肉がピンク色(に近い灰色)に戻る。


「げっ、ラナ。お前、教会の聖女様が見たら卒倒するような使い方するなよ……」


メラが呆れたように言うが、その目は信頼に満ちていた。


「文句があるなら食べなくていいわよ。毒素と細菌を魔力分解して、タンパク質を再結合させただけだもの」


「素晴らしい。熟成肉エイジングビーフの完成だ。メラ、弱火で頼むよ。強火だと繊維が崩れる」


レノはナイフとフォークを取り出し、その肉を優雅に切り分けると、躊躇なく口に運んだ。 部隊全員が息を呑む。


「……ん、意外といける。スパイスはないけど、空腹は最高の調味料ってね。さあみんな、食べよう。怒りで腹は膨れないし、死んだら負けだ」


レノは微笑んで言ったが、実際はゴムを噛んでいるような食感で、喉を通る時には砂のようなざらついた不快感があった。 だが、指揮官が顔をしかめれば、部下の心は折れる。


その姿に、ゾラは毒気を抜かれたように舌打ちをした。


「……テメェの胃袋はどうなってんだ。死神じゃなくて悪食王に改名しろ」


レノが食べたのを見て、ゾラが「けっ、俺だって!」とガツガツ食い始めると、それを見たメラが対抗心で無理やり詰め込んでみたが、すごい勢いでむせていた。


腐った肉を囲み、獣人たちが笑いながら食事を始める。 それは、彼らなりの「生」への執着と、ささやかな抵抗の宴だった。

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