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心の在処

「ごはん♪ごはん♪ミルナさーん今日は何?」

小屋の中ご機嫌な様子でノエリアは尋ねる。

最近ではノエリアも、すっかり人の言葉が板についてきた。


「あたたかいシチューですよ。」


「やったー!」

テーブルに置かれたシチューは湯気を立てている


これはリムロスの提案であった。

暖かい食べ物を食べさせてあげたい。そんな気持ちで提案をした。

ところがミルナは、はじめ提案を拒否した。

自分に情が移ってしまえばノエリアは、きっとミルナの為に

色々とするだろうと考えていた。家の頃から優しい子だった。

下手すれば命を落とすような出来事があっても

私を護るだろうと考えていた。

脳裏に夫の姿が重なる。

リムロスに任せておいた方が、あの子の為なのだ。


「無責任ではありませんか?」

ポリモーフを使っているリムロスはミルナに言い放った。

そうしてしばらく無言の後やむなくミルナは提案を受け入れた。


人は寒ければ暖かい食べ物を欲するし

暖かければ冷たいものを欲するものだ。


リムロスの想像通りノエリアはミルナと、すぐに打ち解け

毎日通うようになった。

みるみる明るい表情を見せるようになった。

血の通った料理は人を楽しませる事を知っていた。


平凡な日々は続き、三者とも充実していた。


それは、ある日突然やってきた。


ノエリアは何時も通りテーブルの椅子に腰かけ

ミルナの料理を待っていた。


ぐつぐつと煮える鍋の中身を混ぜ合わせている

その背中を見つめていると視界が歪む。ブレる記憶。


ドクン!


私はこの光景を見たことがある。

記憶の引き出しから溢れ出る思い出は次から次へと

優しい母を映し出す


「……マ……マ……」

背後から微かに声が聞こえたがミルナは

「もうちょっと待ってね、味がしみ込むから。」


「……ママ。」

今度はハッキリと声を口にする。


ガシャン!!


かき混ぜていた金属のヘラをミルナは落とした。

「……え……。」


「ママでしょう……?」


ゆっくりと振り返ると涙で顔をくしゃくしゃにしたノエリアがいた。

ミルナに背後からぎゅっと抱き付いた。


こんな日が来るのではないかと恐れていた。

情が移るよりもっと怖い事。母親としての身バレであった。

しかし、もうミルナの感情を、せき止める事は出来ない。


「……ごめんね……ごめんね。あの時ぶっちゃって、ごめんね

怖かったでしょう……辛かったでしょう。ごめんね……」

ミルナも涙で顔をぐしゃぐしゃにして抱き合った。


「大丈夫、ノエリアは強い子だから……」


こうして涙のうちに親子の再会を果たした。


母娘として水入らずの食事をした後ノエリアは

弾む気持ちでリムロスの塒へ帰っていった。


その日、眠りに落ちるまでノエリアは母の話題を嬉しそうに

リムロスに語って聞かせた。

眠りに落ちたのを確認して丸くなり腹部で暖め寄り添って眠りについた。



あくる朝



ノエリアは母に会いたくてたまらなかったが

食事時間まで、とても長く感じる時間を過ごした。


『行ってくるね!リムロス!』

『行ってらっしゃいノエリア。』


転移すると、小屋は静まり返っていた。

何時もなら鼻腔を擽る香りに

まな板で調理をしている音が聞こえていた。

小屋は肌寒く暖炉が点いていないようだ。

ノエリアは何時もと違う空気に嫌な予感と不安を感じていた。


ギィ……と扉を開けると、天井から首にかけられたロープに

ミルナがぶら下がっていた。


「……えっ……何……どうして!

嘘……こんなのって……嘘でしょ!!

「マ……ママ……いやだ!こんなのいやだ!!」

踵を返し塒へと転移する


『リムロス!!!すぐ来て!!!』

ノエリアは悲鳴に近い叫び声を出した。

驚き跳ね起きたリムロスは急いでポリモーフで人型となり

魔法陣でノエリアと共に転移した


既にノエリアがロープを切断し

ミルナの血色のない遺体が横たわっている。


リムロスは即座に駆け寄り遺体の胸に手を当て

「命の楔!今ここに戻りて!繋ぎ直せ!リザレクション!!」

蘇生の魔法を試みた。

辺りを包み込む緑色の強い光は徐々に淡くなり無情にも消え去る。

リムロスには、この意味が解っていた。既に魂が別の世界へと行き。

命は戻ることが無いだろう事を。


『やめないで!ママが生き返るまで続けて!!』


結果は分かっていても……

「命の楔!今ここに戻りて!繋ぎ直せ!リザレクション!!」

リムロスは何度も蘇生魔法を唱えた。

眩い緑色の光は何度も灯り消え去る。何度も繰り返された。


『ノエリア……もう……あなたのママは……。』

命の理を知っているだけに俯くしかできなかった。


ノエリアは今まで見せた事もないほど顔を紅潮させ表情には怒気を含んでいた。

『……リムロスの役立たず!!冒険者は沢山殺せるのに

何でママは生き返らせる事が出来ないのっ?!』


『……。』


返す言葉もなかった。このきっかけを作ったのも自分である。

ミルナの思考を注意深く観察していたなら予想できないことではなかった。


『うあああああ!!!やだよぉ!!!ママァ!!!』

遺体の胸部に突っ伏したままノエリアの嗚咽と悲痛な叫びは続いた。


リムロスはそれ以上声をかけられず呆然と立ち尽くした後

塒に戻るしかなかった。

ポリモーフを解き、塒に横たわる。

リムロスはノエリアに対し母の気持ち、母性を感じていた。

通常なら低級種族の事はペットの様にしか思わないはず、が。

関係性は、その域を超えていた。だからこそ何も言い返せなかったし

どうする事も出来なかった。自分の非力さを痛感し。

ノエリアの言葉がガラスの槍の様にリムロスの心に突き刺さっていた。


もはやリムロスには動く気力すらなかった。

もし、この時冒険者が塒に侵入したなら容易く打ち取れたであろう。


外が薄暗くなる頃、フラフラになったノエリアが塒に帰ってきた。

そうしてリムロスの腹部に体を預けると震える小鳥の様に

弱弱しく眠りについた。泣きつかれたのだろう。

羽根でそっと体を覆うと空っぽだったリムロスの思考にも眠りが入り込んできた。


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