ノエリアの確かな成長
そして更に二年の月日が流れた。
相変わらず野心を持った冒険者は定期的に訪れたが
結果はいつも同じだった。
リムロスの教えによってノエリアの上位古代語は
既にかなりの進歩を見せていた。
『ねぇリムロス!お外の世界を見てきてもいい?』ノエリアは聞いた。
『……確かにあなたは、狭い世界しか知らない。広い世界を見る必要があるわね。』
リムロスが瞬時躊躇したのは、娘を心配するごとき母心だった。
しかし、このまま閉ざされた世界しか知らないのは、ノエリアの為にはならないのだ。
『あなたは上位古代語で、十分世界からの危険や
様々な行動を可能となっています。十分に気を付けて行くのですよ。
それと……最低限週に一度はここへ戻って来て。これは私の願いです。』
『わかった!じゃあ行ってくるね!飛翔!』ノエリアがそう言うと
ふわりと足元が浮き宙に浮いた。
上位古代語は、日常生活での会話もできるが、本来その効果を発揮するのは
口に出した古代語と、脳内のイメージをリンクする事によって
その想像が具現化するという便利な能力にある。
ノエリアはそのまま宙に浮き、山の頂の結界をすり抜け
そのまま山肌に沿って滑り降りる様に下降し、やがて地面に足をついた。
数年前恐怖で命からがら抜けてきた目の前の森も
まるで好奇心を掻き立てる、遊び場の様に感じ取っていた。
しかし少女は迂回をした。実は目的があったのだ。
リムロスから聞いていた自然現象。
暫く歩くと、視界が開けてきた、そして水の流れる音が聞こえてきた。
少女は川縁へ駆け寄ると大量の水が流れているのを見付けた。
太陽の光を受け水面は光が乱反射しキラキラと輝いて見える。
手で水をすくってみる。
ダンジョンの中の水と違い手の中で光が乱反射しキラキラ光る。
少女の心は魅了されていた。
そしてそっと水を戻すと、今度は川縁を歩いた。
咲き乱れる色とりどりの花、それらの香りは鼻腔を擽り新鮮さを体験した。
ダンジョンの中に流れる空気と違い、爽やかな風が少女の頬を撫でる。
何もかもが新鮮だった。
暫く歩くと橋が架かっており、街道と交差していた。
そこでリムロスの言葉を思い出す。
『あなたは先ず自然を体感するといいでしょう。世界が広がります。
ただ、まだ人間と接触するべきではありません。
世の中には良い人間もいれば、あなたも知る悪い人間もいます。
くれぐれも忘れないように。』
少女は躊躇なく引き返した。好奇心をリムロスの忠告が抑えたのだ。
リムロスも果物食べるかな?
少女はリムロスが肉以外に何かを食しているのを見たことが無かった。
少女は森へ分け入り、昔食していた果物を一杯収穫し
その日は早々にリムロスの元へ帰った。
『ただいま!』
『お帰りなさい。早かったですね?』
『あまりリムロスに心配かけたくなかったし。』
そう言うと少女はエヘヘと照れながら笑った。
『そうそう!お土産があるの。果物は食べられる?』
『えぇ、食べられますよ。』
『ちょっと待ってね』そう言うと少女は籠一杯に持ってきた果物を入れる。
そして果実をとり差し出した。
『はい、あーんして?』
リムロスは瞬時戸惑った、エンシェントドラゴンとしてのプライドと
娘からの贈り物。
しかし気が付けば口を開けていた。
コロンと口の中に果物を入れる。
口の中に果物が入ってくるのを認知し咀嚼する。
『美味しい?』少女が聞く。
『とても美味しいですよ。』それを聞いた少女は嬉しそうに得意満面の顔をした。
正直言うと、雑食ではあるものの、肉の方が遥かに美味しく感じるのは事実だ。
しかし、娘の想いの詰まった果物はそれを凌駕した。
結果リムロスは、その全ての果物を全て食べさせられた。
夕食時だ。リムロスはストックしてあった生肉を爪で器用に切り刻む。
それを炎のブレスでじっくりゆっくりと焼き上げる。
香辛料を振り少女に渡す。
『いっただっきまーす♪』
もぐもぐと肉を頬張る少女はとてもうれしそうだ。
『ごちそうさまでした!』完食すると少女はリムロスにお礼を言った。
『おなか一杯になったら眠くなってきちゃったね、ふぁ~』
少女は大きな欠伸をする。
『それでは今日は早めに寝ましょうか。』
『そうだね!』そう言うと少女はリムロスのお腹の下に入り込んで
丸くなった。
ドラゴンも優しく包み込むよう丸まって共に眠りについた。




