9 吟遊詩人見習いのサーニカ
今から200年前くらいのむかし、ヨーロッパの小さな町の公園で、ブックバンドでとめられた教科書を手にして、泣いている12才の少女がいました。
少女の名前はマーヤ。マーヤは学校の友だちとケンカして、帰り道のこの公園で泣いていました。
そこに、リュートを下げ、赤い山高帽を被った少年が現れました。少年の名前は、サーニカといいました。
サーニカは、泣いているマーヤに声をかけました。
「おいらは吟遊詩人見習いのサーニカ。どうして泣いているんだい?」
マーヤは、顔を上げました。
「吟遊詩人見習い? 何をする人なの?」
マーヤは、サーニカの赤い山高帽を見て訊ねました。
「吟遊詩人って、いろいろな国を旅して、その時に思いついた言葉や詩をこのリュートに乗せて、お客様に贈っている。でも、おいらはまだ見習いだけど。今ここにはいないけど、おいらの父ちゃんが師匠だ」
「へえ、何か言葉をください」
マーヤはたちまち涙が治まって、笑顔になった。
「じゃあ、一節。
闇の扉は愛の光で開かれる
でも、愛の光では開かない闇の扉もある
(ベン、ベン)
君の闇はどっちだい?
(ベン、ベン)」
マーヤは不思議に思いました。でも、闇ってなあーに? 夜のことかな? あっ!
マーヤは、話出しました。
「今日、学校で仲良しのナターシャとケンカしたの。この前、お父さんと一緒に、旅芸人のお芝居を見たと言ったら、ナターシャが急に怒りだして。訳わかんない」
サーニカは思い当たることを聞いてみた。
「ナターシャって、旅芸人のお芝居が見たかったの?」
「さあ?」
「じゃあ、お父さんはいる?」
「あっ、ナターシャのお父さんは昨年、病気で亡くなったわ」
マーヤはポカンとしました。
「そうだわ。だから」
「君の闇の扉は、愛の光で開けられる!
(ベン、ベン)」
「サーニカ、ありがとう」
「どういたしまして。でも、愛の光で開けられない闇の扉もあるって、父ちゃんが言ってた。おいらはよくわからないけど」
「ふーん。これから、仲直りに行ってくる」
と、マーヤは駆け出し、公園を後にしました。
吟遊詩人見習いのサーニカは、その元気な後ろ姿を見て、嬉しくなりました。
でも、待てよ、あの子の名前を聞いていなかったと気づきました。
吟遊詩人見習いのサーニカには、もう必要ないことですが。
秋の夕日が、サーニカを後ろから照らした。
後書き
アニメ雪の女王を見ていたら、吟遊詩人のお話を書きたくなりました。即興ですが。
サーニカという名前は、ロシアの児童文学の『こくま星座』という本が好きで、その主人公の名前をいただきました。
マーヤという名前は適当に思いついたのですが、『こくま星座』のヒロインがマーシャという名前でした。
今は絶版になっていますが、『こくま星座』も面白いですよ。
ロミオの青い空などの名作アニメにして欲しかったくらいです。
このシリーズを読んでいただき、ありがとうございます。
自筆のショートショート集はこれで終わりです。
再掲載です。




