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どうか夜明けがきませんように

作者: 夜明青

なんちゃって中華風です






大好きだったから、貴方に何でもしたかった。

でも私が出来ること、あげれる物は、これしか無かったの。


愚鈍な第四皇女、それが私。

お兄様とお姉様は私よりも出来が良くて、何よりも正室である皇后様の実子。


第二皇女と第三皇女、つまり他の姉は私が産まれる前に夭折してしまったらしい。

皇后の侍女が皇帝のお手つきになり産まれたのが双子の第二皇女と第三皇女だったが、その母親である侍女もすでにこの世にはいない。

犯人は誰もが解ってるが皆何も言わない。



私は側室の娘。しかし母は高貴な家柄でもなく、商家の生まれである。

国が貧しているときに母の父、つまり私の祖父は皇帝と取引をし、沢山の持参金と引き換えに母を側室にした。


金と引き換えに後宮へ入った下賎な女。

それがここでの母の立ち位置である。


母が強い人ならば良かっただろう。

でも、母は心も体も弱い人だった。

皇后は勿論のこと、宮仕えの下女にすら陰で笑われて馬鹿にされ、祖父から男児を産むようにと強く言われていた母は、産まれたのが女の私だと解って壊れてしまった。


今は日がな一日、窓の近くに座って外をながめて過ごしている。

私が声をかけても振り向いてくれたことは一度もない。


この後宮という豪華な檻は人の醜さで溢れている。

そんな中、私に貴方は優しくしてくれた。


いつものように嫌がらせで転ばされた私。

そんな時、差し伸べてくれた手。

たったそれだけの事で恋におちた。


少し調べたら父親が早くに亡くなった事で異例の若さで当主となり更には有能さを認められて皇帝に気に入られ、側近の1人になったと解った。


そして結婚の相手が決まっており、その方ととても仲睦まじいことも知った。

解ってた、あんな素敵な人だもの。

そして家柄も良い人だもの。

当たり前のことだわ。


でも、たまに見かけるたびに目でおってしまう事だけは許してほしい。

誰にも言わないから、死ぬまで秘密にするから。


そんなささやかな幸せすら私には許されていなかった。

皇帝である父によばれて、告げられたのは我が国と冷戦状態にある隣国へ嫁げという命令。

つまりは死ぬ覚悟を決めろ、人質になれ、とのことだ。


それに何て返事をして、どうやって自分の住まいに帰ったのかよく覚えていない。

ただ、皇女である以上、いつかはこの国の為にどこかへ嫁ぐ覚悟はしていたが、その相手は国内の貴族や豪族だろうと思っていた。


我が国は尊い皇帝の血筋を外へ出すことを嫌うからだ。

つまり私は、皇帝の血筋としてみなされていないか、切り捨てても良い存在だと実の父から言われたのである。



言われた輿入れまでの期間はあと半年もない。

つまりは彼の人を見れるのも、もう僅かである。

他国へなんか嫁ぎたくない、せめてこの国にいさせてほしい。

絶望で何日も部屋に閉じ籠っていたら母が家からつれてきた侍女に紙を渡された。


それは祖父からの手紙だった。

通常、後宮へ出される手紙は検閲されてから届く。

しかし、こうやって渡してきたという事はこの手紙は正規できたものではないという証である。



祖父からの手紙の内容は私にとって恐ろしく、そして魅力的なものであった。

私が彼のことを好きなこと、他国へ嫁ぎたくない気持ちは解る、良い方法があるからお前を助けよう。と締めくくられている。


私の気持ちが祖父にばれていた。

きっと祖父は金の力で私のまわりに人を置いていたのだろう。

それでも、これまでは一切母の事も私の事も助けてくれることはなく、きっと今も助けるのではなく利用するために私を使うつもりなのだろう。


それならば、私は。




※※※※※※※※※※※※※※



結果として、私は祖父からの提案にのることにした。

そして話を聞くと、なんと祖父は簒奪を考えていたのである。

皇帝の血をひく私を残して他の皇族を殺せば私が王位を引き継ぐことができる。

祖父は私を通してこの国の全てを手にするつもりなのだ。


その為の準備も私が産まれた時からすすめていたのだと。

その話を聞いて、心のなかで笑ってしまった。

私と母の不幸はこの人のせいであるのに、この老いぼれはそれを見て見ぬふりして自分の幸せを追いかけてきたのだ。


そんな自分勝手な人間の血が私にも流れている。

私もきっと幸せになれない、いや、なってはいけない。

何故なら、吐き気を催すほど嫌悪してるのに祖父と話す私は笑顔だからだ。

こんな嘘つきがいてはならない。



祖父の計画は順調にすすめられた。

まず母が毒で死んだ。

そして皇后様付き侍女の部屋から毒と、母と私に向けた呪詛が見つかった。


勿論、母を殺したのは祖父であり、侍女の部屋に隠したのも祖父だ。

ただ、私が隣国へ嫁ぐ前におきたこの出来事は見過ごされる事はなく調査の結果は皇后様の侍女の独断でやったこととなったが、ある噂が広がった。


皇后が側室を殺した、という噂だ。

側室の娘が隣国へ嫁げば力をつける可能性があるから、それを恐れて側室とその娘を殺そうとしたと。

後宮にも市井にも、その噂は不自然なほど広がっていった。


皇帝は噂を消すために、その話を口にしたものを厳しく罰した。

それが余計に噂に拍車をかける。


皇帝は皇后をかばっている。

殺したのは皇后だと知っているのに、それをもみ消そうとしている。

いや、皇帝自ら皇后のために側室を殺したらしい。

そしてその娘も呪詛で殺そうとして失敗したんだとか。

後宮にいる私ですら、そんな話を聞くようになるくらい噂は広まっていた。


次に兄が亡くなった。

狩りの最中に乗っていた馬が急に暴れだし、落馬した際に首の骨を折ったらしい。


次世代の皇帝が亡くなり国中が喪に服す為、私の婚儀は先延ばしになった。

そして更に嬉しいことに今回のことを調査する為に、あの人がよく宮廷に来ているようだった。

だから、私はよく後宮の庭にいるになった。

もしかしたら、あの人を遠くからでも見れるかもしれないと思ったからだ。


さて、唯一の皇子を亡くした皇帝、皇后の嘆きは凄まじく。

皇帝は酒に溺れて政を疎かにするようになり、皇后は倒れて臥せってしまった。


そんな彼らにかわり、皇女と皇帝の側近達が国を治めるようになった。

その側近達も大半が祖父と繋がりがある者であり、優秀といえまだ若いお姉様は彼らを率いる力は無く、周りの者達が良いように国を動かしていく。


あの人が皇帝に兄の馬の鞍から毒針が飛び出す仕掛けを見つけたと報告したのはそんな時だった。

でも、もうすでに遅かった。

皇帝はその話を聞いても、何か出来る状態ではなかったのだ。


祖父は皇帝に出される酒瓶の中に、薬を入れてたのである。

それは不安を取り除き、一見とても良い薬ようにも思えるが、暫く接種すると思考力が低下し、その薬に酷く依存してしまう恐ろしい薬だった。




皇帝と皇后は静養の為、離宮へと移ることとなった。

残ったお姉様は慣れない政のせいか日に日に窶れていく。

そして、そんなお姉様は皇帝の器ではないでは、と言われるようになった。

本当は祖父が食べ物に少しずつ毒を盛っているのにね。



宮廷での私の扱いも変わった。

祖父のおかげであろうが、今では馬鹿にされることもなく、それどころか色んな人がご機嫌伺いとして手紙と一緒に贈り物をしてくるのである。

美しく染められ刺繍も素晴らしい絹の布、翡翠と銀細工の簪、金の腕輪、そんなの前まで一度も無かったのに。

それらの贈り物を見てると虚しさだけが募って、笑いが込み上げてくる。




ある晩、私はある所へ人をよび出した。

宮殿の前の広い石畳、私はそこが一番好きだった。

そこの真ん中に立つと、この檻から出れる大きな門を見ることができ、逆を見れば宮殿を一望出来るからだ。

いつかあの門の向こうへ行ってみたいと思ってた時もあった。

でも、それはいつまで思ってたのか今はもう思い出せない。



待ち人は約束通り来てくれた。

微笑みながら相手に話しかける。

最初で最後の会話だと思うと少し寂しいけど、言葉を交わせるだけでも私は幸せだ。


彼はやはり祖父のことを疑っていた。

いや、疑ってるというよりも確信しているのだろうが証拠がないのだろう。

私がよんだ目的を探ろうとして、笑ってない目で私を見つめている。


暫く実のない会話をしていると、ある方向から火の手が上がった。

彼の人がそちらを見て走り出そうとするのを腕を掴んで引き留める。


もう遅い、離宮には油が撒かれいるはずだから今さら皇帝も皇后も助ける事は不可能だろう。

そう告げると、逆に私の腕を掴み何故そんな事を知っているのだと聞いてくる。


だから私は螺鈿細工の箱にいれた祖父から貰った手紙と、祖父と他の人達のやり取りを掠め取った物を渡した。

それらは祖父とその周りの人を追い込むのに充分な証拠であるはず。



※※※※※※※※※※※※※※※



今晩、いよいよ計画が大詰め段階に入るらしい。

私は絶対に外に出ないようにと祖父から言われていた。

だから、あの人をよび出した。


武具を身に付けて部下を伴ってあらわれたあの人を見たとき、来てくれたことが本当に嬉しく泣きそうになった。


引き留める為の意味のない会話も貴方が頷いて聞いてくれるだけで嬉しかった。

このまま夜が明けなければいいのに。

そう何度も思った。


でも、無情にも時間は過ぎていき祖父の計画通り離宮は燃える。

私の幸せもここで終わりだ。


隠し持っていた母が飲んだ毒の残りを飲み干してなるべく綺麗に見えるように笑う。

祖父の優しさのか母が飲んだ毒はそんなに苦しまずに逝けるものだった。


あの人が私が倒れる私を抱き止める。

ああ、こんな幸せでいいのかしら。

どうか私を忘れないで、どうか私の最期を目に焼き付けて。


「私、貴方の事をお慕いしていました。」


毒が回って、ちゃんと言えたか解らない。

ずっとこの瞬間が続けばいいのにと思ってしまう。

こんなに貴方が近くにいてくれてるのに顔がよく見えないの。何も聞こえないの。



本当はお姉様と貴方が結ばれたあと、二人が治める国を見たかった。

だから祖父がお姉様に毒を盛っていると知った時、料理人に金を握らせてもっとバレにくく良い毒だと嘘をついて痺れ薬にすり替えた。

あの愚かな皇帝でもなく、残酷な皇后でもなく、賢いが容易く人を切り捨てる冷たい兄でもなく、優秀で優しいお姉様と貴方が治める国はきっと素晴らしいだろうから。

でも、私はもう戻れないところまできてしまった。


他所へ行くのを嫌がり、自分の欲の為に母様を見殺しにした時点で私は人では無くなってしまったから。


このまま朝なんてこなくていいのに。

そしたらずっと貴方の腕の中にいられるの、に、ね。






そうして陽が登り、全てが終わった。














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