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07、追手は…

夜明けの光が辺りを淡く染める中、ラファは古びた車で誰もいない郊外の道をひた走っていた。窓を開けると、冷たい朝の空気が顔を撫でる。荷台の中には再び箱に入ったシオンが息を潜めている。


しかし、静かな道の背後から低いエンジン音が響き始めた。ラファはバックミラーをちらりと見て、眉をひそめる。


「……後ろから誰か来てる。」


それは一台のバイクだった。速度を上げて近づいてくるその姿に、ラファは昨日の男のことを直感的に思い出した。黒ずくめのライダースーツ、特徴的なフルフェイスヘルメット。間違いない。


「昨日の人だ……なんで?」


彼女はアクセルを踏み続け、スピードを落とさず進む。しかし、男は彼女の車の横に並ぶとクラクションを軽く鳴らし、声を上げた。


「お嬢ちゃん、こんなに急いでどこへ行くんだ?悪いが、その荷台の中を確かめさせてくれないか?」


ラファは冷静を装いながらも心臓が早鐘を打つのを感じていた。


「申し訳ないけど、今急いでるので。」


そう答えると同時にアクセルをさらに踏み込み、車は一気にスピードを上げた。しかし、男は追いかけるのを止めるどころか、バイクの左側をラファの車にぴたりと寄せてきた。そして次の瞬間、彼は左手をおもむろに上げ、荷台の屋根に向けた。


「そうか、じゃあ仕方ないな。」


――ゴンッ!


金属音と共に、彼の左手が勢いよく飛び出し、荷台の屋根にガチリと食い込む。ラファは驚き、サイドミラーを覗き込んだ。


「……何、これ……義手?」


男の左手は金属製で、上腕部分が鎖で彼の体と繋がっていた。義手の先端は荷台にしっかりと固定され、ウインチのように鎖が巻き上げられ、男の体が宙を舞いながら荷台の上に引き上げられていく。


「まずい……!」


ラファはとっさにハンドルを大きく切り、車を左右に振らせた。車体はぐらつき、タイヤが路面を軋ませたが、男は荷台の屋根にしっかりと張り付いている。


「落ちる気配がない……どうしよう……!」


その時、小型無線機からシオンの冷静な声が響いた。


「ラファ、大丈夫だ。隣町まであと数キロだろ?そのままアクセルを踏み込んで町まで行ってくれ。」


「でも――」


「いいか、奴は人前では大胆なことはできないはずだ。町に入って、大通りの駐車場でもいい。人が多い場所で車を止めれば、向こうも下手なことはできない。」


シオンの声は冷静そのものだったが、その裏にはラファを信じる気持ちが込められていた。ラファは深呼吸をして、ハンドルを握り直した。


「わかった……隣町まで全力で行く。」


彼女はアクセルをさらに踏み込み、エンジンが唸り声を上げた。夜明けの町が遠くに見え始める。ラファはシオンの言葉を信じ、車を全速力で駆け抜けていった。


車の屋根にしがみついているライダースーツの男が、ため息混じりに呟いた。


「お嬢ちゃん、昨日リストの家を回った時にね、車の下に発信機をつけさせてもらったんだ。おじさんも疲れてるんだよ。」


男の声は妙にのんびりとしていたが、その言葉はラファの神経を逆撫でした。


「悪あがきはやめてくれよ。」


その態度に苛立ちながらも、ラファはアクセルを踏み続けた。


「疲れてるんなら、次の町でカフェで休憩でもしてなよ!」


ライダースーツの男は笑いながら返した。


「君、ぜったいお父さん思いのいい子だろ。

おじさん羨ましいぜ。」


その言葉にラファは内心毒づきながらも、表情を変えずにハンドルを握り直した。この男のペースに飲まれるわけにはいかない。


「なんで私を追ってくるのよ!」


ラファが振り返りざまに叫ぶと、男は肩をすくめ、目線を荷台の方へ向けた。


「言っただろ、嬢ちゃん。」


そう言うと、腰から取り出したハンドアックスを手に、空いた右手で荷台のドアを叩き始めた。


――ガン! ガン!


金属の軋む音が響き、荷台のドアの鍵が見る間に壊されていく。


ラファは焦りながらも冷静に判断し、車を夜明けの町の近くの駐車場に急ブレーキで止めた。タイヤが悲鳴を上げ、車体が揺れる。


「お嬢ちゃん、運転荒いなー。」


男は呑気に言った。


ラファは思わず、「誰のせいだと思ってるのよ!」と叫びかけたが、ぐっと飲み込んだ。この男のペースに乗せられないよう、あえて冷たい声で切り返す。


「なんで私のことを追ってくるの?」


しかし男は答えず、ハンドアックスを振り上げ、鍵が完全に壊される音が響いた。


――ガチャッ。


荷台のドアがゆっくりと開く。中から現れたのは、仁王立ちのシオンだった。


「久しぶりだな、チェイサー。」


その言葉に、男――チェイサーと呼ばれたライダースーツの男は肩をすくめた。


「坊ちゃん。すぐ戻りましょう。俺からもあなたのことを悪いようにしない様に言わせていただきます。」


チェイサーは穏やかに言ったが、その声にはどこか諦めも混じっていた。


シオンは目を細め、静かに頷いた。


「お前ならそう言うと思ったよ。少しこっちに来てくれ。お前に教えておきたいことがある。」


チェイサーは一瞬疑ったようだが、最終的にはその言葉を受け入れ、シオンに頭を近づけた。


その瞬間、シオンは背後からポケットから出したペンチを握り、チェイサーの特殊なヘルメットと首筋を繋いでいる配線を素早く切断した。


「な、何を――!」


チェイサーは慌てて膝をつき、頭に手をやる。その間に、シオンは素早く指示を飛ばす。


「ラファ!一度この町で隠れるぞ!早く走れ!」


ラファはシオンの言葉を聞くや否や、彼を連れて町の路地裏へ駆け出した。


「この騒ぎ、どうやって収拾つけるのよ!」


息を切らしながらもラファが叫ぶと、シオンは振り返りざまに微笑んだ。


「今は考えるな!逃げることだけ考えろ!」


二人は夜明けの町の雑多な路地へと消えていった。背後からチェイサーの苛立った声が響くが、彼らは振り返らなかった。

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