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60、夢

「夢」は、いつも同じだった。

それは、自分のものではない、けれど紛れもなく「自分」として感じる意識が漂う場所。

戦場だった。

耳慣れた、破裂と轟音の交響曲。それは恐怖を誘うはずなのに、不思議と心がざわめくことはない。

自分ではない、確かな確信がある。それなのに、体躯を貫くのは、奇妙な高揚感。アドレナリンが熱となって全身を駆け巡る。

握られた両の手。その感触は、どこか冷たく、固い金属のそれに馴染んでいた。

サブマシンガン。

弾倉を撃ち尽くす度に、連続して薬莢が排出される。その律動的な振動が、掌の皮膚に心地よく刻み込まれる。自分ではないのに、まるで長年の相棒であるかのように、その反動は手に馴染みきっていた。

この心地よさ。

冷たい殺意が、心臓を支配していく。狙いを定めた敵が、鮮やかな血飛沫を夜空に散らし、音もなく地に臥していく。

自分ではない。なのに、どうしようもなく。

ただ、ただ、心地いい。

その感覚だけが、夢の核心として、少女の深い意識に、いつもこびりついていた。


意識は戦場を駆けていた。

少女は走る。軽やかに、獲物を追う獣のように。アスファルトを踏みしめるブーツの音も、周囲の爆音にかき消されてしまう。

彼女の耳に届くのは、自分のものではない、けれど、確かに自分の喉から零れていると感じる、乾いた笑い声。それは狂気にも似た歓喜の表出で、戦場の喧騒の中で、まるで彼女自身を鼓舞する鬨の声のように響き渡る。

周囲の音――銃声、爆発、仲間の叫び――その全てが、彼女の意識の奥底で、一つの明確なリズムを刻んでいる。「進め、殺せ、生き残れ」と、全身の細胞を奮い立たせる。

次の瞬間、少女は地を這うように、体を身をよじる。

無駄のない、最低限の動き。まるで流れる水のように、彼女のすぐ横を、鋭い銃弾が空気の膜を裂いて通過していく。わずかな風圧が、露出した肌をひりつかせる。その切迫した感覚が、彼女を今、この瞬間に繋ぎ止める命綱だった。

自分ではない。この冷徹な判断力も、反射的な回避行動も、自分のものとして積み上げてきたはずの記憶にはない。

けれど、確かに感じる。

この「自分ではない経験」の中で、彼女は何度も戦場に身を置いた。

数多の血と硝煙の中で、生と死の境界線を綱渡りしてきた。

何度も、何度も、何度も。その繰り返し。

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