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41、日課のスパーリング

早朝、トレーニングルームから響く鋭い打撃音と声。

それは静かな施設内に軽やかに広がり、活気を運んできた。


事故と称されたシオンの死から、すでに2年の歳月が流れている。


16歳になったラファは、2年間にわたりミーシャから厳しい訓練を受け続けていた。成長期を迎えた彼女の姿は以前の幼さを感じさせないほど引き締まり、大人びた印象を与えている。


その素養の高さもあってか、今ではミーシャと互角に近いスパーリングを繰り広げていた。


「ほんと、よく続くね~。」

ラファを見て、シーが眠たげな声で話しかけた。


目を擦りながら、オフィスの巨大モニターに映る朝のニュースに視線を移す。


ラファは鋭いパンチを繰り出しながら振り返り、息を弾ませて言った。

「シーさんも一緒にどうですか?」


「無理無理。ミーシャが二人になったみたいでうっげーだよ。」

シーはおどけてみせるが、目は明らかに戦闘から逸れる気配のない二人を追っている。


その瞬間、ミーシャが鋭い声を飛ばした。

「よそ見をするな、ラファ。」


次の瞬間、ミーシャの蹴りがラファの腹部を捉える。


「っく……!」

勢いでラファの身体は壁へと弾かれたが、彼女は反射的に受け身を取り、壁を足場に能力を発動。宙を蹴り、ミーシャに向かって一直線に突進する。


「ふん、いい動きだ。」

ミーシャは涼しい顔でラファの連撃を手のひらで次々に受け流すと、隙を見てラファの背後へと回り込む。


「まだ甘い。」

そのままラファを空中へ投げ飛ばした。


――ピピピピッ。


トレーニングルームに響いたアラーム音が、緊張感のある空間に終わりを告げた。


「今日はここまでだ。」

ミーシャが冷静に告げると、ラファは床に背をつけたまま荒い息を吐き、空を仰いだ。


「……了解です、ミーシャさん。」

彼女の声は疲労に滲んでいるが、その目にはしっかりとした覚悟が宿っている。


一方、オフィスから様子を眺めていたシーは肩をすくめ、再びモニターへと目を向けた。

「ほんと、よくやるわ……あたしには無理。」


その呟きは、画面に映る静かな朝のニュースにかき消されていった。


トレーニングが終わり、ラファは額の汗を腕で拭いながら、シーがモニターに目を向けているオフィスへ歩み寄った。


「……何見てるんですか?」

彼女の問いに、シーは片手で欠伸をしながら画面を指差した。


「ニュースだよ。最近よく見るだろ、これ。」


画面には連日のように報じられる「行方不明者」のニュースが映し出されていた。

カメラ越しに記者が話すのは、数日間の間に相次いだ失踪事件についてだ。


「また……ですか。」

ラファの表情が曇る。


「そう、しかもこの辺りでも被害が出てるんだってさ。」

シーは椅子に座り直し、モニターに映る地図を指した。


「……近いですね。」

ラファの視線も自然と画面へ引き寄せられる。赤いピンが立てられたエリアは、彼女たちの拠点からそう遠くない場所だった。


「まぁ、こういう話題が流行るときは大抵おっかないやつが出るんだよな。」

軽い調子で言いながらも、シーの口元には微かな緊張が見え隠れする。


ラファは汗を拭いたタオルを首に掛けながら、真剣な眼差しを画面に向けた。

「……これ、私たちも調べたほうがいいんじゃないですか?」


「おっと。トレーニング終わったばっかでまだ動くの?」

シーはわざと冗談っぽく肩をすくめてみせるが、ラファの目は鋭い。


「……いえ、なんでもないです。ただ、なんとなく気になって……。」

ラファは小さく首を振り、少し引き下がるように呟いた。


シーは彼女の様子を横目で伺いながら、モニターのニュースをじっと見つめる。

静かに流れるナレーションは、次第に不穏な雰囲気を漂わせていた――失踪した人々の人数が着実に増えていることを伝える。


「嫌な話だよな。」

ぽつりとシーが呟いたその声は、どこか低く響いた。





トレーニングルームの扉が開き、ミーシャが姿を現した。冷静な視線をラファに向けながら声を掛ける。

「今日は休日だったな、ラファ。」


ラファはタオルで首筋の汗を拭きながら、にっこりと笑って答える。

「そうなんですけど、お母さんに買い物頼まれちゃって……今日は街に行ってきます。」


その言葉に反応したのは、椅子に座っていたシーだった。

「え、街に? じゃああたしも行こうかなー!」

軽い調子で手を挙げるシーに、ミーシャは容赦なく突っ込む。

「お前は仕事だろ。」


「えーっ!」

シーは誇張した動きで肩を落とし、不満げな表情を見せた。しかしすぐに顔を上げて、口角を上げる。

「でもまあ、車を出すのはほんとだし!送ってくよ、ラファ!」


ラファは思わず笑いながら、小さく頭を下げた。

「ありがとうございます、シーさん。」


「お礼は甘い物でいいよ!」

シーは得意げに胸を張る。


「ほんと調子いいな、お前は。」

ミーシャは小さくため息をつき、軽く肩をすくめた。


「調子がいいのがあたしの取り柄だから!」

シーは明るく答え、ラファに目を向ける。

「よし、準備して待ってて!すぐ車出すから!」


「はい!」

ラファは快活に返事をし、足早に部屋を後にした。


ミーシャは去っていくラファを見送りつつ、シーに目をやった。

「送るのはいいが、甘い物につられて仕事をサボるなよ。」


「わかってるってば!帰りにちゃんと戻るし、ミーシャにも美味しい物買ってきてあげるよ!」

ウィンクをしてみせるシーに、ミーシャは小さく鼻を鳴らして背を向けた。


「どうだか。」

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