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40、ひとときの再会?

シーは物陰でアモンの残ったドローンから位置情報を確認すると、ハクの位置を正確に捉えると、素早く手元の道具を掴んだ。

ワイヤーの先端に手頃な錘を括りつけ、ハクに向けて勢いよく投げ放つ。攻撃方法は、どことなく分銅鎖を彷彿とさせるものだった。


しかし、ハクはその動きに気づくや否や、大げさにあくびをしながら身をひょいと捻った。

「ぬるい、ぬるい~。こんなもんで当てる気?」


錘はハクのすぐ横をかすめ、無力に地面に落ちた。ハクは肩をすくめ、ふざけた調子で続ける。

「ねえ、シーちゃん? もしかして手加減してくれてるの? 優しいなー。」


シーは歯を食いしばりながら再びワイヤーを引き戻し、もう一度投げようと構えた。

「うるさい! こっちは真剣なんだから!」


「真剣でそれ?」とハクが笑いながら煽る中、シーの額には明らかに怒りの筋が浮かび上がる。


次の一投は、さっきよりも速度も軌道も鋭いものだった。だが、それでもハクは軽々と避け、余裕の笑みを浮かべ続けていた。

「もっと頑張らないと、私みたいな天才には当たらないぞー?」


その一方で、シーの唇の端には不敵な笑みが浮かんでいた――攻撃の本当の狙いが、まだ明かされていないことにハクが気づいていないことを確信していたからだ。


「貰ってばっかじゃ悪いからなー。」

ハクは笑いながらサブマシンガンをシーに向け、反撃の体勢に入った。


「やだっ、こっち来るの!?」

シーは錘付きワイヤーを手にしたまま後ずさり、物陰に飛び込む。だが、ハクは軽やかなステップで追い詰めるように射撃を繰り返す。

弾丸が壁や床に当たり、火花と破片が散った。


「ちょっと! 私、まだ何もしてないんだけど!?」とシーが叫ぶと、ハクは愉快そうに笑い声を上げる。

「だから狙ってあげてんじゃん! 楽しいでしょ?」


その間に、アモンは羽織っていたフード付きのロングコートのフードを深く被った。コートの表面が微かに光を反射し、徐々に周囲に溶け込むように姿が薄れていく。


光学迷彩――。

この特殊なコートは、相手からの視認性を極限まで低下させることができる。アモンの姿はまるで霞のように消えかかり、音も立てずに動き出した。


「シー、もう少し引きつけて。」

アモンの冷静な声が通信越しにシーの耳に届く。


「引きつけるって! あの機動力でどうしろっての!?」

シーは焦りつつも、ワイヤーを振り回しながらなんとかハクの攻撃を避け続けていた。


ハクは目の前の標的を楽しむように動き回りながら、背後に迫るアモンの気配には気づいていない。その瞳には、ただ笑顔で翻弄されるシーの姿だけが映っていた。


アモンは、ハクがシーに気を取られている隙を逃さなかった。音も立てずに近づきながら、残っているナイフ型ドローンを手で掴み。迷彩コートの効果で姿はほぼ消えている。


「これで終わらせる。」

アモンは小声でつぶやき、ハクに斬りかかる。


ドローンは静かにハクの死角に回り込み、その小さな刃を輝かせながら一直線に突撃を開始する。同時にアモンもハクの背後に肉薄し、両手に握ったナイフを構えた。


「ぬるい攻撃ばっかりだなー、シーちゃん!」

ハクは余裕たっぷりの笑みを浮かべながらシーを追い詰めていたが、背後から迫る気配に気づくのは一瞬遅かった。


「っち!」

振り向いた瞬間、ドローンの一体がハクの手元を狙って突撃し、片手の銃を叩き落とす。同時にアモンが動き、ナイフをハクの肩口に斬りつけた。


「くっ――! お医者さん、やるじゃん!」

ハクは後退しながらも、その目に光る戦意は消えていない。


「遊びは終わりだ。」

アモンは冷静に次の一撃を繰り出すための態勢を整えた。その背後では、シーが急いでワイヤーを構え、サポートに回ろうとしている。


ハクは口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。

「いいねぇ。こっからが本番ってわけだ!」


「遊びは終わりだ。」アモンが冷静に告げた瞬間、シーがハクを睨みつけながら叫ぶ。


「遊びは終わりって、それ、こっちのセリフだってば!」


その言葉にハクは一瞬だけ目を細めるが、特に気に留めた様子はない。

「おお、いいじゃん。その意気だよシーちゃん。でもさ、どうする気?あたしはまだまだ元気だよ?」

ハクは余裕たっぷりに笑い、軽く肩をすくめて見せる。


しかし、その間にもシーは静かに計画を遂行していた。逃げ回りながら時間を稼いでいた彼女の目的は、ただ単に避けるだけではなかった。


「気づいてないね、ハクちゃん。」

シーは笑みを浮かべながらワイヤーを握り直す。


ハクの背後、沈黙を守っていたアモンのドローンたちはいつの間にか水面近くを滑るように移動し、その下で潜んでいたのは――。


「――レックだ。」


突然、水中から巨体が飛び出す。アモンがドローンに指示を出し、シーのワイヤーを沈めてレックの手元に届けていたのだ。海中に潜んでいたレックはそのワイヤーを掴み、一気に引っ張り上げられる勢いで戦線に復帰したのだった。


レックは無言で歩みを進める。

その視線はまっすぐハクを捉えている。


「ちょっとちょっと、

何これ!釣り上げられる魚かと思った!」

ハクは驚きながらも楽しげな笑みを浮かべる。


シーは満足そうに胸を張る。

「これで状況はこっちに有利!

レックさん、あとはお願いね!」


「ふん、そう簡単にいくかよ。」

ハクは再び構えを取り、挑発するように指をくいっと曲げる。


復帰したレックと、息を整えたアモンとシー。形勢は明らかに変わりつつあった。



「ハク、もういい。」

静かながらも鋭い声が響く。コンテナの陰から発せられたその声に、ハクは舌打ちし、銃口を下げた。


「ちっ、こいつの相手してたら楽しくなってきたのにな。」


声の主がゆっくりと姿を現すことはなく、その気配だけが辺りに漂う。


「お前もいるのか、アモン。前線に顔を出すなんて珍しいな。」

陰から聞こえる声に、アモンは鋭く視線を向けた。


「兄さん……」アモンはその声の方に一歩踏み出し、毅然と言葉を返す。「僕たちと一緒に戻ろう。」


返答は、乾いた笑い声だった。どこか冷たく、ひび割れたその響きは、かつての兄のものとは違うものだった。


「まだ俺のことを“兄さん”なんて呼ぶのか、アモン。」


「当たり前じゃないか!」

アモンの声が思わず熱を帯びた。語尾にこもる感情が、その言葉に宿る揺るぎない思いを物語る。

アモンは慎重に声のする方向へと足を進めた。


ネビアが鋭い視線を戻ってきたレックに向ける。小柄な体をバネにして、強烈な蹴りを繰り出した。その一撃には、さっきの不意打ちでレックを吹き飛ばした以上の力が込められていた。


レックはその攻撃の軌道を見極め、間一髪で体をひねり回避する。だが、回避に成功した瞬間、蹴りが目標を失い、隣接する巨大なコンテナに直撃した。


「ガンッ――!」

鈍い音が船内に響く。


そのコンテナは、声の主が隠れていたものだった。蹴りの衝撃でコンテナは動き、船の壁へと押し寄せていく。その隙間に挟まれた人影の体が避けようもなく押しつぶされていく。


「ッ――!」

幼い断末魔の叫びが響いた。


アモンの目の前で繰り広げられる光景に、

時間が止まるかのような錯覚が襲う。


「兄さん――!」


体がペシャンと潰れたのを見たアモンの瞳が、悲しみと怒りで燃え上がった。その場の空気が一瞬で変わる。


「……貴様ら……!」

低く絞り出された声は、今までの穏やかな医師アモンのものではなかった。


ハクはニヤリと笑う。「おやおや、怒っちゃった?」


ネビアも冷静を保ちながらも身構える。しかし、アモンのその瞳にはもはや迷いはなかった。


「私は……君たちを許さない。」

その言葉とともに、アモンの手元にあったドローンが一斉に飛び立った。

アモンの手元から残ったドローンが一斉に飛び立つ。鋭い金属音を立てながらハクとネビアに殺到するが――。


「おーっと、そんなんじゃ俺には当たらないよ!」

ハクは軽やかにかわし、ネビアも優雅にステップを踏みながら攻撃を無力化する。


その最中、遠くから警察のサイレンが響いてきた。銃声と騒音を聞きつけ、地元の警察がこちらに向かってきているのだ。


「船を襲ってるのはこっちだぞ、アモン坊ちゃん!」

チェイサーがアモンに呼びかけるが、その声は届かない。アモンの瞳はハクとネビアに向けた憎悪で燃え上がっており、周囲の状況など耳に入らないようだった。


「くそっ……シー! 坊ちゃんを拘束してでも連れて帰るぞ!」

チェイサーはすぐにシーに命じる。


「ええ!? アモン君を拘束なんて、そんなの――」

シーが動揺している間にも、状況は悪化していく。


「返すわけないだろ!」

ハクがニヤリと笑い、アモンとシーに向けて銃弾を放つ。


だが――。


「……っ!」

銃声が響く直前、レックが素早く間に割り込み、その巨体で弾丸を受け止めた。


その一瞬の隙を逃さず、チェイサーが声を張り上げる。「飛び込め! 全員だ!」


アモンを半ば無理やり引きずりながら、チェイサー、シー、そしてレックが夜の海へと身を投げる。


水音が響き、暗い海面は静寂を取り戻した。


***


船上に残されたネビアが、コンテナの間で潰れた亡骸を見下ろし、肩をすくめながら優雅に笑う。


「護衛対象を殺してしまいましたわね。

これは失敗ですわ。」


「だなー。」

ハクは弾けるような笑みを浮かべながら肩を回し、落ち着き払った様子で銃をしまった。

「ま、いったん帰ってグラル様に指示を仰ぐか!」


ネビアはため息をつきながら、「呑気な方ですわ」とつぶやくが、特に咎めることもなくその場を後にした。

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