表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/54

38、作戦決行

アモンが機内で作戦の概要を説明する声が響く。


「今回の作戦だが、空中からの強襲は私とシーが担当する。チェイサーとレックは先見部隊として地上から動いてもらう。」


シンプルだが的確な指示だった。アモンの冷静な声が、揺れるヘリの中でもしっかりと全員の耳に届く。


「それからもう一つ。人はなるべく殺すな。無力化でいい。」


その言葉に、シーが振り返り、にやりと笑う。「さっすがアモン君。お医者さんは命の大事さがわかってるねー。」


アモンは淡々とした口調で答える。「ああ。もし敵がうちの病院に来たら、治療費は安くしてやろう。」


その言葉に、チェイサーがすかさず突っ込んだ。「まあな、加害者が俺たちだしな。」


軽い冗談のようなやり取りが続く中、レックは無言で肩をすくめた。何も言わないが、その仕草から「しょうがないな」とでも言いたげな空気が漂う。


機内には緊張感と、それを和らげるような軽妙なやり取りが混ざり合っていた。まるでこれが彼らにとって日常のような、そんな不思議な空気感だった。


チェイサーがヘリの開いたドアに足を掛けると、軽く振り返りながら手をひらひらと振った。「叔父さんたち、先行くからなー。」


そのままレックと共に、ためらう様子もなくヘリから飛び降りた。


高度を落としているとはいえ、地上までの距離はざっと20~30メートルはある。常人ならばためらうところだが、彼らにとっては日常茶飯事のようだ。


「やっと二人きりだね。」シーが隣で軽口をたたく。


だがアモンはそれに反応せず、冷静な声で言った。「冗談を言っている暇はないぞ。私たちも行く。」


「冗談じゃないのに……」シーは不満げに口を尖らせたが、それ以上何も言わなかった。


ふいに、チェイサーたちが降りて10分もしないうちに、銃声が聞こえてきた。続いて、暗闇の中で激しい閃光が散る。それは上空からもはっきりと見て取れた。


「そろそろ出番だね。」シーが静かに言う。


アモンは短く指示を出した。「パイロット、予定の時間までポイントで待機していてくれ。」


それだけ言うと、彼はためらうことなくヘリから飛び降りた。


「はやっ!」シーは慌てて叫び、すぐにアモンを追うように身を投じた。


二人は空中で降下していく中、船のシルエットをはっきりと視界に捉えた。それを目指しながら、姿勢を整え、速度を落としていく。


夜風が耳元を切り裂く音だけが響く中、二人の緊張感が空気に混ざっていた。


先見部隊の二人――チェイサーとレックは、既に甲板で敵との交戦に入っていた。もっとも、「交戦」というよりも、彼らの能力を駆使した一方的な制圧に近かった。


チェイサーは敵の弾丸を見切り、信じられない速度で瞬時に敵の懐へと入り込む。そして急所へ正確な一撃を放ち、相手を昏倒させていく。その動きは流れるようで、まるで一瞬のうちに何人もの敵を無力化していくかのようだった。


一方のレックは、飛び交う弾丸の雨をものともせず、静かに敵に近づいていく。そして、相手を抵抗する間もなく締め落とす。無駄な動きひとつなく、その冷静さには不気味ささえ漂っていた。


上空からそれを眺めていたシーはぽつりとつぶやく。「……これ、私たちいらない系じゃない?」


その声に気づいたのか、チェイサーが振り返りながら軽く手を振る。「シー、そいつら倒れてるやつら、適当に縛っとけよ。」


「適当ってなによ。」シーが少し不満げに返す。


チェイサーは敵を避けながらさらりと続けた。「そこの角にも5人くらい倒れてるから。まとめてお願いなー。」


「雑用係か私は。」シーはため息をつきながら、アモンにちらりと視線を送る。アモンは黙ってその様子を見守りながら、船内への進入経路を見定めているようだった。


「はいはい、縛ればいいんでしょ。」結局シーは肩をすくめ、甲板に散らばる無力化された敵たちの処理に取りかかった。


アモンは静かに状況を整理し、レックに向き直った。


「レックさん、敵のヘリコプターが上空に見えました。退路を断つ必要があります。そちらの対応をお願いしてもいいですか?」


レックは無言で頷くと、ゆっくりとその場を離れて歩き出す。弾丸の雨をものともせず、彼の背中には揺るぎない自信が漂っていた。


アモンはその背中を一瞥し、今度はシーとチェイサーに向き直った。「シー、チェイサー。君たちは僕と一緒に船内だ。」


そう言うと、アモンは手に持っていたアタッシュケースを開いた。その中には、5~6センチほどのナイフのような形状をした無数の小型ドローンがぎっしりと詰まっていた。


「これで船内を監視する。」


そう言った途端、ドローンは一斉に羽ばたくようにケースから飛び散り、船内へと吸い込まれていく。その様子は、まるで鋭利な刃が意思を持って動いているようで、どこか不気味さすら感じさせた。


チェイサーはその光景を見て口元を緩める。「アモン坊ちゃん、医者辞めて傭兵に転職した方が似合ってるんじゃないですか?」


アモンは冷静なまま肩をすくめる。「医者でいる限り、僕は命を奪わないで済む選択肢を探せる。傭兵じゃそれはできないだろう?」


その言葉にチェイサーは苦笑しながら、「まあ、それもそうですね」と短く返した。


一行は緊張感を保ちつつも、一歩ずつ船内へと足を踏み入れていく。ドローンの映像がアモンの端末に次々と送られ、複雑な船内の構造と敵の配置が徐々に明らかになっていった。


「捉えた。」


アモンが低く呟いた瞬間、彼は一気に船内へ向かって駆け出した。迷うことなく狭く入り組んだ迷路のような通路を進む彼の後ろを、シーとチェイサーが追いかける。


「よくわかるね、これだけ複雑なのに。」シーが息を切らしながら言う。


アモンは振り返ることなく答える。「ドローンが全ての道をスキャンしている。進むべき道も敵の配置も、もう頭に入っている。」


駆けながら、アモンは簡潔に説明を続けた。「シオン以外にも複数の敵影が確認された。奴らは別の出口からヘリポートに向かっている。」


「それってレックさんが向かったほう?」とチェイサー。


アモンはすぐに通信を開き、短く指示を送った。「レック、配置にはついているか?」


返答はない。


「……喋れよ!」チェイサーが眉をひそめ、通信に向かって突っ込んだ。


「気にするな。彼のやり方だ。」アモンは冷静に言い切ると、さらに速度を上げた。


船内の奥へと進むにつれ、銃声や怒号が微かに聞こえ始める。アモンは端末を操作し、ドローンが映し出す映像を確認しながら走り続ける。


「急げ、ここからが本番だ。」


その声に、シーとチェイサーも気を引き締め、彼の背中を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ