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37、強襲作戦

アモンの端末が短く震え、画面に着信の表示が浮かび上がった。発信者の名は「マチルダ」。彼が信頼を置く情報屋であり、かつて戦場カメラマンとして名を馳せた女性だった。アモンはすぐに応答し、軽く微笑みながら声をかける。


「やあ、マチルダ。シオンについて何か新しい情報は入ったかい?」


画面越しに現れたマチルダの顔には、いつもの自信に満ちた表情が浮かんでいる。彼女は淡々と話し始めた。

「アモンさんの読み通りよ。やっぱりシオンさんはグラルコーポレーションの助けを借りようとしているみたい。」


その言葉にアモンは少しだけ目を細めた。やはり予想は的中していた。


マチルダは続ける。

「たぶん、この前の街で起きた警官とタクシー運転手の殺害事件もシオンが関わってるわね。街であのタクシーを拾った女の子が目撃されてる。」


アモンは腕を組み、しばらく考え込むように視線を落とした。予想していた展開ではあったが、事態は少しずつ厄介な方向へ進んでいる。


「グラル叔父様と事を構えることになりそうだな……」アモンは呟くように言った。「兄を私利私欲のために利用するのが目に見えている。」


そう言うと顔を上げ、マチルダに指示を出す。

「付近のグラルコーポレーションの動きを調べてくれ。」


マチルダは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑った。

「言うと思って、すでに調べておいたわよ。この近くなら、グラルコーポレーションの貨物船が港に停泊してるわ。」


その報告に、アモンの表情が険しくなる。グラルがこんな近くで動いているということは、計画がかなり進行している証拠だ。


マチルダはさらに続ける。

「私のジャーナリストの血が騒ぐ。いろいろ掘り起こしたくなるところだけど……どうする?」


アモンは一瞬思案するも、すぐに冷静な声で答えた。

「君の得意分野だ。引き続き調査を頼む。ただ、深入りしすぎて危険な目に遭わないようにな。」


「わかってるわ。」マチルダの声は軽やかだったが、そこには経験豊富な者特有の慎重さも感じられた。


通話を切ったアモンは、再び端末を見つめながら椅子に深くもたれかかった。シオンの動向とグラルの陰謀が交錯する中、次の一手を慎重に見定める必要がある。彼の表情には決意の色が浮かんでいた。


アモンは端末を閉じると、深く息を吸い込み、部屋のインターホンに手を伸ばした。短い呼び出し音の後、すぐに応答がある。


「シー、チェイサー。すぐに作戦会議だ。」


しばらくして、シーとチェイサーがアモンの執務室に入ってきた。アモンは二人を見渡し、声を低く落として話し始める。


「状況を整理しよう。シオンの確保が最優先だ。そして、シオンが頼ろうとしているグラルコーポレーション……これも、敵対組織として扱うしかない。」


シーはすぐに理解した様子で頷いたが、チェイサーの表情には少し迷いが浮かんでいる。彼は腕を組みながら、低い声で言った。

「……自分たちの戦力だけで、グラルとまともにやり合えるかどうかだな。誰を連れていくか慎重に選ばないと。」


アモンは冷静に答える。

「元々の国境警戒地域には、ヘックスとエウを派遣済みだ。そっちは彼らに任せて大丈夫だろう。」


「じゃあ、今ここで手が空いてるのは……」シーが少し考えた後に、ぽつりと言った。「レックさんくらいですね。」


チェイサーは渋い顔で言った。

「レックがいれば頼もしいけど、問題はグラル側の兵力だ。彼らはこっちの動きを把握してるかもしれない。油断はできない。」


その言葉にアモンは軽く頷いたが、次の瞬間、表情を引き締めて続けた。

「今回は私も行く。」


その言葉に、シーもチェイサーも驚いて顔を上げた。


「アモン君が?」シーが確認するように尋ねる。


「そうだ。」アモンは静かながらも強い意志を込めて答えた。「グラルとの対峙が避けられない以上、ここで私が後方に留まるのは得策ではない。現場での判断が必要になる場面が多いだろうし、シオンが相手なら、可能性があるのは私だ。」


チェイサーは腕を組み直し、少し考えるような表情をした後、口を開いた。

「まあ、アモン坊ちゃんが前線に出るのは久しぶりだろうけど……シオンに対しては確かに適任だな。ただし、危険な場面では後方に下がってもらいますよ。」


「もちろんだ。」アモンは落ち着いた口調で答えた。「ただし、必要とあらば危険も顧みない覚悟で臨む。」


その言葉に、シーとチェイサーの間に短い沈黙が流れる。


「わかりました。」シーが一歩引いて頷く。

「アモン君が同行するなら、私たちも全力でサポートします。」


アモンは軽く頷き、話を続けた。

「準備を整えたらすぐに出発する。各自、それぞれの役割を全うしてくれ。」


その指示を受け、シーとチェイサーは短く敬礼をし、部屋を後にした。アモンの同行が決まったことで、作戦の重みがさらに増したのを、全員が感じていた。



すぐに召集がかかり目の前には、ずっしりとした重量感と堅牢なデザインが特徴的だった。外見だけでなく、その内部も広々としており、作戦に必要な人員と装備を十分に収容できる軍用ヘリがあった。


「これなら余裕だな。」チェイサーがヘリを見上げながら感心したように呟く。


目的地の港まで半日もかからない見込みだった。アモンは装備を軽装に整え、その上からフード付きのロングコートを羽織っている。手に持ったアタッシュケースは、今回の作戦における何か重要なものが収められているのだろう。その表情にはいつもの冷静さが宿っていたが、どこか普段よりも張り詰めた雰囲気を纏っている。


「全員、準備はいいか?」アモンが振り返り、メンバーを確認する。


シーとチェイサーが頷き、少し離れた場所にいるレックも軽く手を挙げて応える。


「それじゃあ、行くぞ。」アモンはヘリコプターのパイロットに目を向け、冷静な声で指示を出した。「上昇しろ。」


エンジンの低い唸り声が次第に高まり、ローターが勢いを増して回転する。ヘリコプターは地面を離れ、静かに空へと舞い上がっていった。


機内では、各自がそれぞれの準備に集中していた。シーは端末を手に情報を確認し、チェイサーは装備の最終点検を行う。レックは座席に深く腰掛けながら、持ってきたガジェットを一つずつ確認している。


アモンは窓の外に視線を向け、何かを考えているようだった。その横顔からは、計画の全貌を把握している者だけが持つ冷徹な決意が垣間見えた。

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