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31、それぞれの想い

アモンは椅子に腰掛けたまま、ラファに視線を向けて優しく問いかけた。


「ラファ。まず、君はシオンの何を知っている?」


その質問に、ラファは一瞬言葉を失った。


確かに彼女はシオンと行動を共にしていたが、その時間は決して長くはなかったし、シオン自身、あまり多くを語るタイプではなかった。何かを知っていると言えるほど、彼について理解しているわけではない。


ラファは口を開こうとしたが、結局何も言えず、視線を落として黙り込んだ。その反応に気づいたアモンは、小さく頷くと、静かに話を続けた。


「そうだろうね。兄は多くを語る人間じゃない。でも、僕には分かる。彼はいつも自分の研究に没頭していた。幼いながらも、その研究は驚くべき成果を生み出してきたよ。」


アモンの声はどこか懐かしむようであり、誇らしげでもあった。そして、その表情にはわずかな悲しみが混じっているようにも見えた。


「兄の研究の中でも、とりわけ凄かったのが義手や義足、人間の代替品を作る技術だ。彼は革新的な発想を持っていてね。ただの機械じゃない。患者自身の記憶を読み取って、その記憶を基に義手が動くようにしたんだ。これによって、生身の腕と全く遜色のない――いや、違和感すら感じさせないものを作り上げたんだ。」


その言葉を聞いて、ラファはふと思い出した。


「あ、それって……シオンが言ってた。アモン、あなたの『ギアモード』じゃないの?」


無邪気な質問のつもりだったが、その一言にアモンの眉がピクリと動いた。


「僕の、あんなお粗末な技術と一緒にしないでくれ。」


普段の穏やかな口調とは一転、わずかに苛立ちをにじませた声が部屋に響く。


「兄の技術は僕なんかの比じゃない。そんな風に、彼を侮辱するようなことを言うのはやめてくれ。」


アモンの鋭い視線に、ラファは息を呑んだ。彼の言葉の端々には、兄への深い尊敬と同時に、自分への苛立ちが滲んでいるように感じられた。


しかし、ラファも引き下がる気はなかった。


「別に侮辱したつもりはないわ。でも……」


そう言いかけたところで、アモンは手を軽く挙げて彼女の言葉を遮った。


「……いいんだ。君は知らないだけだ。」


その声には、どこか自嘲するような響きがあった。アモンは一度深く息を吐くと、もう一度静かに語り始め、アモンは一瞬言葉を切り、ラファの目を真っ直ぐ見つめた。


「兄は多くの人に、その技術と才能を狙われていてね。僕はただ、兄を助けたいだけなんだ。」


その言葉にはどこか切実な響きがあった。しかし、ラファはそれを素直に受け取ることができなかった。


「助けたい?」


彼女は椅子に座ったまま、震える手でアモンを指差した。


「お前もシオンの才能を狙ってた1人なんだろ!」


ラファの声は怒りに震えていたが、次第に涙声になっていった。


「シオンは……シオンは、誰よりも純粋で、ただ自分のやりたいことをしていただけなのに! お前たちみたいな奴が……!」


言葉が詰まり、ラファは悔しそうに俯いた。


その時だった。


「アモン君を悪く言うな!!」


唐突に響いた大きな声に、ラファは驚いて顔を上げた。声の主は、部屋の隅にいたシーだった。彼女は怒りを露わにしながらラファに詰め寄る。


「アモン君は、本当に! 本当にお兄さんのことを――」


その言葉が終わる前に、アモンが手を軽く挙げてシーの口を止めた。


「……ありがとう、シー。でも、いいんだ。」


アモンは静かな声で言い、ラファの方に向き直る。


「わだかまりがあるのは分かる。僕たちを信用できないのも当然だ。でも、まずは僕たちのことを知ってほしい。それからでいい。」


そう言いながら、アモンは腰を屈め、そっとラファの拘束具に手をかけた。


「……何を?」


ラファが驚いた声を上げる間もなく、アモンは彼女の手首を拘束具を解き、続けて足元の拘束も外した。


「さあ、自由だ。これで少しは落ち着いてくれるだろうか。」


アモンの穏やかな声に、ラファは戸惑いながらも手首を擦り、恐る恐る彼を見上げた。


「……なに、これ。私をどうするつもり?」


「どうもしないさ。ただ、君に選んでほしいんだ。」


アモンは微笑むと、少し距離を取って立ち上がった。


「僕たちを信じて、兄を救う手伝いをするのか。それとも、この場で立ち去るのか。」


その瞳には、どこか覚悟を決めたような強い意志が宿っていた。


アモンはラファを見下ろしながら、静かに言った。


「すぐに決めろとは言わないよ。病院の中を自由に歩き回って、僕たちのことを見てから判断してくれて構わない。」


その言葉に、ラファは少し眉をひそめたが、やがて短く頷いた。


「……わかった。」


アモンは満足そうに微笑むと、軽く肩をすくめて続けた。


「ただ、ひとつだけ言っておく。君の私物――特に銃は渡せない。危ないからね。」


「……っ!」


ラファは反射的に睨み返したが、アモンは全く気にする様子もなく、そばに立っていたシーに視線を向けた。


「シー、彼女に警備部のIDを手配してください。」


「了解でーす!」


シーは軽快に返事をし、部屋を出て行こうとする。その背中を見送りながら、アモンはさらに言葉を続けた。


「そのIDがあれば、僕の部屋にだって入ることができる。隠し事をしていると思うなら、遠慮なく調べてくれていいよ。」


アモンの声には、どこか挑むような響きがあった。その言葉を聞いたラファは、一瞬戸惑いの色を浮かべたものの、すぐに唇を噛み締めて黙り込んだ。


アモンはそんな彼女の様子を一瞥すると、再び柔らかい笑みを浮かべた。


「さあ、好きなように動いていい。僕たちの真意を、自分の目で確かめてほしい。」


その場に残されたラファは、解けた拘束具を見つめながら深く息を吐いた。

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