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27、移動するシオン

シオンは必死に走り続け、町外れの駐車場に停めた自分たちのバイクにたどり着いた。息を整える間もなく、荷台に固定していた物資を確認する。簡易の医療キット、食料、そして次の行動を見極めるための地図――必要最低限のものだけを手に取った。


「ラファ……無事だといいけど。」


シオンは振り返り、街の方向を見つめた。一瞬、戻るべきかと迷いがよぎるが、すぐに頭を振ってその考えを振り払う。


「シーは攻撃的なタイプじゃない……ラファを無闇に傷つけたりはしないはず。」


自分に言い聞かせるように呟き、次の行動を冷静に考え始める。


この街は人が多く、包囲網が完全に敷かれるまでにはもう少し時間がある。だが、油断はできない。追っ手が迫る前に、この街を抜け出さなければならない。


幸い、まだ混雑するメインストリートが近い。人混みに紛れて、目立たないように進むのが最善だろう。


「とにかく街を出て……それしかない。」


シオンは意を決して、荷物を抱えて再び歩き出した。騒ぎを避けるために、人通りの多い場所を選びつつ、足早に次の目的地を目指す。



シオンは次の街に向かう方法を冷静に考えた。ポケットマネーを握りしめ、ドライバーを買収することに決める。金で動く人間は信用できない。だが、背に腹は代えられない状況だ。


「目的地まではあと少しだ……ここで止まるわけにはいかない。」


シオンは自分にそう言い聞かせながら、痛む体を引きずるように歩き出した。さっき吹っ飛ばされた際の衝撃が全身に響いているが、休む暇はない。


メインストリートは車の往来が激しく、急いでいる車も多いが、中にはタクシーもちらほらと通り過ぎる。シオンは街灯の下に立ち、手を挙げてタクシーを止めた。


止まったタクシーの運転手は中年の男で、やや疲れた顔をしているが、乗車を断る様子はない。


「どこまで?」


シオンは座席に腰を落ち着けると、ポケットから現金を取り出して言った。


「隣国の国境近くまで行ってほしい。これで足りるだろう?」


運転手は一瞬ためらったが、金額を見て頷いた。


「……足りるさ。ただし急ぐとガソリン代が追加だ。」


「構わない。急いでくれ。」


シオンの返答に運転手はハンドルを握り直し、アクセルを踏み込む。タクシーは夜の街を抜け、次第に郊外へと向かっていった。シオンは窓越しに流れる街の景色を見ながら、心の中で繰り返し目的を確認する。


「逃げ切る。僕はティナを取り戻す……。」


タクシーの車内に沈黙が広がる中、シオンは少しずつ冷静さを取り戻しつつあった。



シオンはタクシーの座席に身を沈め、外を流れる景色を無言で眺めながら、車の揺れに身を任せていた。思考はあちらこちらに飛びながらも、目的だけは揺らぐことなく心の中で繰り返していた。


ふと、ラジオから流れてきたニュースがシオンを引き戻した。


「こちらの事件、銃を使った発報事件として警察が捜査を進めている模様です…。犯人は…」


ニュースキャスターの声が続く中、運転手がちらりとシオンに視線を向けながら言った。


「近くでこんな物騒なことがあるもんだな。」


その言葉に、シオンは表情を変えず、ただ耳を傾け続けた。ニュースはそのまま続き、犯行の詳細が伝えられる。しばらくすると、シオンの耳にとても馴染みのある名前が飛び込んできた。


「…容疑者として報じられているのはアルと名乗る女性、現在逃亡中…」


その瞬間、シオンの心は一瞬だけ止まった。ラファの名前が容疑者として報じられ、続けて流れる言葉が信じられないような思いを抱かせた。さらに、ニュースは続く。


「…現在、この街に張り出されている貼り紙に載っている男の子…」


その瞬間、シオンは何かを感じ取った。運転席のバックミラーから、ちらりと運転手がシオンを見ていた。だが、シオンは動じなかった。


そして、運転手の目が一瞬で硬直したことに気づく。その視線が恐るべきものを見た証拠だった。


シオンは静かに、冷静に言った。


「ジェイソンさん、ドライブの途中でよそ見はいけませんよ。事故の原因になる。」


その言葉が終わるや否や、シオンの右手には運転手に向けられた拳銃が握られていた。


ジェイソンはシオンの沈黙に耐えきれず、機嫌を取ろうとしばらくしてから話しかけてきた。


「いや、あの…気を悪くしないでくれよ、俺も仕事だからさ…」


しかし、その言葉はシオンの冷徹な視線によって打ち消される。シオンは何も答えず、ただ運転席を見据えたまま沈黙を保っていた。その雰囲気に、ジェイソンは少し怯んだようだが、すぐに気を取り直した。


しばらくの間、車内の空気は重く沈んでいたが、突然シオンが口を開いた。


「黙れ。」


その一言が、車内に響き渡る。ジェイソンは一瞬固まったが、シオンはそれに続けて、意外な言葉を口にした。


「暇だから、昔話でもしてやる。」


ジェイソンはその言葉に驚いた。だが、シオンが何を話すのか興味が湧き、無意識に耳を傾けた。シオンは少し間を置いてから、話し始めた。


「昔、ある街で…」


シオンの声は、どこか遠くを見つめるように静かだった。ジェイソンはその話がどこへ向かうのか、心の中で予感を抱きながら、運転を続けた。

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