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20、過酷な業務

時を同じくして、チェイサーの命令でエウに合流するため車を走らせていたシー。彼女の表情はあからさまに不機嫌だった。


「はぁ、なんで私がこんな雑用しなきゃいけないのよー。てか、坊ちゃん大丈夫かなぁ?」

悪態をつきながらハンドルを切るシーの目に、目的地のガンショップが見えてきた。


だが、そこには見慣れない光景が広がっていた。店の前に救急車が停まっており、救急隊員が慌ただしく動き回っている。


「ちょっと待って。これ、最悪なパターンじゃないの?」

眉をひそめながら車を停めると、急いで外に飛び出した。坊ちゃん――シオンの安否が気がかりでたまらない。心臓が早鐘を打つ中、シーは救急車の近くに駆け寄り、音のする方に向かっていく。


その途中で、呻き声が聞こえた。そちらに目を向けると、地面に座り込んだエウが視界に入った。銀髪が乱れ、目を押さえながら息を荒げている彼女の姿は、普段の冷静さとは程遠い。


「エウ姉さん?何やってんのー……?」

呆然と立ち尽くすシーだったが、事態を把握するためにまず救急隊員に声をかけることにした。彼女は表情を切り替え、わざと柔らかい間延びした声で話しかける。


「こんにちはー、私、総合病院ライトボーンのシーっていいますー。この現場の状況って、ちょっと伺っても良いですかー?」


救急隊員の一人が、少し戸惑った様子で振り返った。シーは笑顔を浮かべながらも、内心では焦っていた。エウの姿とこの騒ぎ、そして坊ちゃんの不在。一体ここで何が起きたの?


救急隊員の一人がシーに説明を始めた。


「この女性と、もう一人の男性がここで倒れているのを通報で見つけました。状況は不明ですが、女性の方は目に何か刺激物を受けたようで、男性は過剰な電流によるショック状態です」


シーはその話を聞きながら、内心でため息をついた。どうやらエウの暴走が原因のようだ、と簡単に結論を出す。


「わかりましたー。この二人はうちの病院の警備部所属でしてー。責任持って引き取らせていただきますねー!」


そう言いながら、シーはにっこり笑ってみせた。救急隊員が何か言い返す間もなく、シーはポケットから端末を取り出して通信を始めた。


「おーい、ヘリさん、降りてきてくださいー!」


その声に反応して、上空に待機していたライトボーン総合病院の救急医療用ヘリコプターが静かに降下してきた。救急隊員たちは唖然とし、目を見開いたまま立ち尽くしている。


「すごい……こんな山中にまでヘリを待機させるなんて……」

誰かが小さくつぶやく。


ヘリが完全に着地すると、シーはのんびりと手を振りながら機体に近づき、スタッフに指示を出した。


「じゃあこのお二人をお願いしまーす。ちゃんと回収して、病院の警備部まで送ってくださーい!」


スタッフたちがテキパキと動き出し、担架を使ってエウとロジャーをヘリに運び込んでいく。シーはそれを眺めながら満足そうにうなずいた。


救急隊員の一人がようやく我に返り、戸惑いながら声をかけてきた。

「あ、あの……でも、私たちの手続きがまだ……」


シーはその言葉を聞き流すように、再び笑顔を見せた。

「ご心配なくー。すべて病院で対応しますからー。こちらは特殊ケースでしてー、普通の対応じゃ解決しないんですよー」


そう言うと、シーはさっさとヘリに乗り込むスタッフたちを促し、無駄なく作業を進めさせた。


やがてヘリが再び上昇していくと、救急隊員たちはぽかんとした表情でそれを見送るしかなかった。

その場には、エンジン音が静まるまでの余韻と、シーの朗らかすぎる笑顔だけが残された。


シーは自分の車に向かってのんびりと歩き出した。振り返ることもせず、救急隊員たちに軽く手を振りながら。


「それでは失礼しますー」


その言葉を最後に、シーは自分の車へ戻り、助手席に転がしてあった飲みかけのコーヒーを拾って一口飲む。


「ふぅ、これでエウ姉さんと被害者さんはお任せっとー。さぁ、わたしも次の指示に移るかなー」


車内のエアコンを調整しながら、

一息ついて、思い出してしまった。


気楽に見送るつもりだったが、シーの目はふとヘリの窓越しに見えるスタッフたちの表情。鼻をつまむような仕草や、露骨に顔をしかめている様子が見て取れる。


「あー……エウ姉さん、玉ねぎとガソリンまみれだったんだっけ」


思い出した瞬間、シーは口元を押さえて吹き出した。

「やばー、あの匂いー、ヘリの中で充満してそうじゃないですかー!パイロットさんたち可哀想ー!」


ひとりで笑いながら、さらに大げさに言い募る。

「いやいや、ほんと会社がブラックすぎません?こんな匂い地獄の中で搬送なんて、絶対労働環境改善してくださいって直訴したくなるやつですよねー!」


シーは運転席に座り込み、ひとしきり騒いだ後で肩をすくめた。

自分の車のエンジンをかける。ヘリが遠ざかっていくのを見て、シーは軽く窓を開けてつぶやいた。


「ほんと、次はもっとマシな現場に行けるように祈ってますよー、ヘリの皆さん。わたしも大変だけど、そっちもお疲れさまー!」


そう言うと、満足げに笑いながら車を発進させ、シーは次の目的地へ向かった。

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