02、個包は大切に。
夕方の街は、柔らかなオレンジ色に染まっていた。ラファは古びた自動車の運転しながら、小さな町を抜けていく。荷台にはいくつもの小包が積まれ、その一つ一つが町の人々の日常へと繋がっているのを感じるのが好きだった。
「おーい、ラファちゃん!」
店先で掃除をしていたパン屋のおじさんが手を振る。
「こんにちは、ミシェルさん!今日はいい天気ですね!」
「おかげさまで売り上げも絶好調だよ!届け物ご苦労さん!」
ラファは笑顔を返しながら通り過ぎる。その明るい挨拶に、パン屋のおじさんは微笑ましそうに首を振った。
ラファは、すれ違う人々と軽快に言葉を交わす。町中の人々に愛される彼女の日常は、どこか温かく穏やかだった。
配達先をすべて回り終える頃には、夕日が地平線の向こうに沈みかけていた。ラファは荷台を確認しながら、自宅に向け運転する。だが、荷物の山がすっかりなくなったはずの荷台には、まだ一つだけ箱が残っていた。
「……あれ?これ、どこにも届けてないけど?」
ラファは箱のラベルをじっと見つめた。荷物の宛先は、自分の家。差出人の名前には、見覚えのない文字が書かれている。
「シオン?」
「知らない名前だな……なんでこんなのが紛れ込んでるの?」首をかしげつつも、ラファは気に留めず、母の入院費を稼ぐために日々を頑張る自分を励ますように軽く笑った。
家に帰る頃には、日が完全に沈んでいた。灯りが漏れる古びたアパートの部屋に荷物を運び込むと、ラファは何気なくその箱を床に置いた。差出人の名前をもう一度確認してみたが、やはり心当たりはない。
「お母さん、また懸賞で当てたのかな?」
そんな独り言をこぼしながら箱を触った次の瞬間――
バンッ!
唐突に箱が跳ね上がり、ラファは悲鳴を上げそうになった。だが、口を開くよりも早く、箱から飛び出したのは……10歳くらいの小柄な男の子だった。
白衣を羽織り、髪は乱れているものの端正な顔立ち。彼は床に降り立つと、息を整えながら口を開いた。
「……死ぬかと思った。」
ラファは目を丸くしながら後ずさった。
「え、え、えっ!?なに、どういうこと!?」
突然の展開に頭が追いつかず、ラファは男の子と箱を交互に見つめる。その小さな研究者然とした姿に、彼女の慎ましい日常が音を立てて崩れ始めていた――。