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12、過去からの贈り物

車のエンジン音が心地よい振動を伴いながら、ラファはハンドルを握り、眠気と戦っていた。助手席にはサンドイッチの包装が丸められて置かれ、後部の荷台からシオンが目をこすりながら起きてきた。


「ラファ、今どこら辺だ?」と低い声で問いかけるシオン。


ラファは一度肩を伸ばし、眠気を振り払うように首を振って答える。

「街の北側に向かってる。さっき寄ったカフェで聞いたんだけど、狩猟用のガンショップがこの辺りにあるらしいわ。」


シオンは一瞬目を閉じて小さく頷くと、再び荷台に腰を落とした。その表情は相変わらず険しい。


しばらくして

車は街の外れにある麓のエリアに差しかかった。山を背景に、小さなログハウスがポツンと建っているのが見えた。駐車スペースには古びたトラックが一台止まっている。


「ここだな……『ルビーウルフ』か。」シオンが店の看板を確認しながら呟く。


建物は趣のあるログハウスだが、外壁には年季の入った傷や剥がれが目立つ。ラファは軽く眉を上げた。

「なんか……思ったよりボロいわね。でも、目的は見た目じゃないか。」


二人は車を降りてログハウスの扉を押し開けた。中には銃器や狩猟用具が所狭しと並べられ、独特の金属とオイルの匂いが漂っている。


すると、奥から白髪交じりの髭を蓄えた屈強な男性が現れた。彼は一瞬二人を見て目を丸くすると、大きな声を上げた。

「アンジェ!?おいおい、久しぶりだな!」


ラファが驚いて横目でシオンを見た。店主のロジャーがラファの顔をじっと見つめた後、すぐに頭を振る。

「あんた、アンジェじゃないな……いや、それにしてもそっくりだ。」


「アンジェって……私の母さんの名前だけど?」ラファが戸惑いながら言うと、ロジャーの顔に懐かしそうな表情が浮かんだ。

「ああ、そうか。アンジェの娘か。父さんに似てないのは不思議じゃないが、母さんの若い頃をそのまま見てるみたいだ。」


シオンはその様子を無言で見ていたが、ふいに顔をしかめ、何かを考え込むようにぶつぶつと呟き始めた。

「またか……なるほど……多すぎる……」


ラファが聞こえるか聞こえないかの声で呟くシオンに視線をやる。

「また独り言? それ、やめたほうがいいよ。」


シオンはそれに応えず、ロジャーを見上げて小さく首を傾げる。ロジャーは腕を組み、懐かしさと不思議そうな顔を同時に浮かべたまま二人を見ていた。


「アンジェの娘がこんなところに何の用だ?

父さんの友達ってのを頼りに来たのか?」


ラファは苦笑しつつ、「まあ、そんなところかもね」と曖昧に返した。その隣でシオンの目が不意に鋭く光る。


「ロジャー、護身用に使えるものが必要だ。手持ちはどれくらいある?」


その声に、ロジャーは眉をひそめた。

「護身用だと?それにしては目が本気だな。

何か厄介なことに巻き込まれてるのか?」


ラファは肩をすくめながら口を開こうとしたが、シオンが先に口を挟んだ。

「今は多くを話せない。でも、時間がないんだ。早く選ばせてくれ。」


その一言にロジャーは目を細めたが、黙って棚を指さした。

「そこのラックにあるものなら持ち出して構わない。選べ。」


二人は素早く棚の方へ向かい、選び始める。背後では、ロジャーが腕を組んだまま、何かを思い巡らせているようだった。


ロジャーが棚の奥に手を伸ばし、古びた鍵付きケースを取り出した。そのケースを開くと、中には艶消しブラックのハンドガンが丁寧に収められていた。


「そういえばな」とロジャーがぼそりと言った。

「昔、お前の父さんに頼まれて預かってたものがある。長いこと忘れてたが、今思い出した。これだ。」


ラファが驚いた顔でロジャーの手元を見つめる。ロジャーはそのハンドガンを手に取り、軽く眺めた後、ラファの方へ差し出した。


「ラファ、お前の体の大きさじゃ、こっちの方が扱いやすいかもしれんな。」


ラファは一瞬ためらいながらも、そのハンドガンを受け取った。見た目はシンプルだが、どこか特別な雰囲気を持つ武器だ。


「これ、父さんが使ってたもの?」


ロジャーは頷きながら懐かしそうな顔を浮かべた。

「ああ。お前の父さんは、この銃を『相棒』って呼んでたよ。狙撃用のライフルとは別に、いつもこれを持ち歩いてた。手入れもしっかりしてあって、今でもすぐ使える状態だ。」


ラファはハンドガンを軽く持ち直し、その重みを確かめた。思ったよりも軽く、手にしっくりと馴染む感じがする。


「……なんで父さん、これをここに置いてったの?」


「メンテナンスを頼まれたんだよ。でも、何かのトラブルで取りに戻らなかったんだろうな。それっきりだ。」


ラファは複雑な表情を浮かべながら、そのハンドガンをじっと見つめた。すると、隣で様子を見ていたシオンが口を挟む。


「それは助かるな。彼女の防衛力が上がるのはありがたい。」


ロジャーはシオンを一瞥し、少し考え込むような顔をした。

「お前さん、どこの誰だか知らんが……その子を危ない目に合わせるような真似はするなよ。」


シオンは一瞬目を細めたが、ロジャーの言葉には特に答えず、再び棚の方に目を向けた。


ラファはハンドガンを握ったまま、心の中で父親の面影を探すように、静かにその武器を見つめ続けていた。

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