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マインは片付けをしてくれたアンにお礼を言うと、いつものように冒険者ギルドへと向かうことにした。


冒険者ギルドというのは、ある種の仲介組織である。国や貴族、はたまた商人、ものによっては街や村に住む人が依頼人となり、ギルドを仲介し、冒険者にその仕事を割り振ることによって、その依頼内容を解決するというようなものを主な活動としている。


冒険者のメリットとしては、ギルドのランクシステムによって、能力適性に合った仕事を選択できるという点、また依頼人との直接交渉ではないことから、なにか不都合があった場合、ギルドが面倒を見てくれるという点だろうか?


デメリットは、半分強制依頼があること?まあ、ある種の軽い脅しがあること。この依頼を受けないと後でどうなるかしら?といったふうな。


さてさて、そんな愉快な場所へと、マインは向かっているわけなのだが……。


ジージー。


「ん?」


サササッ……チラッチラッ。


「…はあ……なんなんだろう…これは…。」


そう先ほどからずっと道すがら、マインは視線を受けているのだ。


みんながなんでこんなことをしているのか、正直わけがわからない。


いつもならまるでいない者のように視線どころか視界から外し、「ママ、あの人…。」と子供が言えば、「見ちゃいけません。」と手を引いて逃げるようにどこかへと消えてしまうというのに…。


「…はあ……。」


マインはいつもとあまりにも違うそれらにひどく居心地の悪さを感じながら、本当のところは軽く散策でもしたかった、普段通らない通りを少しばかり早足で歩いていく。



程なくして、マインは目的地にたどり着き、逃げるようにして、ギルドの中へと入る。


これでやっと落ち着ける。そうマインは思っていたのだが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。


まずマインがドアを開けた途端、偶々入口あたりを見ていたであろう女性が固まった。


そして、次はその隣で依頼内容を口頭で確認していた女性が、それまた次は受付嬢の1人が…。


そんなふうにマインを見る者が増えていき、遂には男性までも…ある者はどこか興味深げに、またある者は憎々しげにこちらを見てくるではないか。


いわゆる注目の的。


マインはあまりに馴じみないことに内心逃げ出したい思いでいっぱいだったのだが、なんとなく今こうして逃げ出したところで、明日、明後日も似たようなことになるのではと思い、とりあえずと、ちょうど空いていたいつもの受付嬢のところへと向かい、ギルドカードを出しつつ尋ねた。


「はい、とりあえずギルドカード。それとサラさん、なにかいい依頼ない?あったら……?」


「ぽ〜〜。」


頬を赤くし、どこか上の空でマインのことを見つめる、馴染みの受付嬢サラ。


「サラさん?お〜い、サラさ〜ん?」


なにやら様子がおかしいので、目の前で軽く手を振るマイン。


しかし、そんなことをしてもまったく反応がないサラに見かねた隣の受付嬢が軽く脇をつつくと、サラは「わひゃっ!」という声を上げ、ようやくこちらへと気がついた。


「サラさん、いいですか?」


「ひゃ、ひゃいっ!にゃ、にゃんの御用でしょうか?」


サラはいつも見せないようなカミカミを見せてくるが、マインはマナーとして指摘せず、「あっ、今日はですね…。」そう話を進めようとしたのだが、サラはふと不思議そうな顔をして、マインに尋ねてくる。


「あれ?というか、なんで私の名前を?もしかして知り合いですか?あっ、そうですよね?ネームプレートですか…あはは…失礼しました。」


「っ!?……っ…。」


そのサラの言葉にマインは絶句すると、奥歯を噛みしめた。


「……いや、サラさん、何言ってるんですか…そんなふうに言われると正直傷つくんですけど…今、メンタルがとっても弱々なんで…あはは…。」


いつも他の人と別け隔てなく接してくれていたサラがようやくマインに気がついたと思いきや、お前なんて知らないというような対応をしてきたのだ。


それは昨日、幼馴染たちにパーティー追放を受けた身としては、割とマジで笑えない。


それでもサラを傷つけまいと頑張って苦笑いをマインが向けていると、サラは「え?」と本気で驚いた様子を見せた。


「え?え?え?ホントに!まさかのホントに知り合いっ!?え〜…うそ…。」


その言葉にマインの浮かべていた苦笑いが消え去り、自然と目元が伏せられた。


「…サラさん…。」


それには、サラも流石にダラダラと冷や汗を流し始めた。


それはそうである。サラから見れば、絶対に顔を見たことがない人間なのだから。言葉通り()()()()()なのだから、わかるはずもあるまい。


しかし、そんなことをマインは気がつかない。なぜなら、マインは仮面が取れたことなどすっかり忘れているのだから。これは仮面のつけ心地があまりにも良すぎて、その面では大した害となっていなかったため。


よって、マインにあったのは、ただ悲しい。その思いだけだった。


弱ったメンタルのマインの目元には、微かに涙が浮かび始め…。


もう焦りに焦りまくり、いっそのことこの街から逃げてしまおうかと思う程まで追い詰められたサラ。


すると、やはりそこに手を差し伸べてきたのは、先ほども助けてくれた彼女の後輩受付嬢ミラだった。


「…先輩、そこに書いてある……って……えっ?マジ?」


コソコソとサラに耳打ちしてくるミラが指差した先にあったのはギルドカード。


サラがそこに視線を向けると、聞こえてきたのは、いつも落ち着いた、むしろ感情すら死んでいるのではと言われていた後輩ミラの甲高い驚きの声。


そして、サラもそれを目にした瞬間、思わず声が出た。


「…もしかして……マインくん?」


その言葉にマインはようやく思い出してもらえたのだと嬉しくなり、涙ぐみつつ、男でこの表現は珍しいかもしれないが、本当に嬉しそうに花が咲かんばかりの笑顔を見せた。


「はい!サラさんに思い出してもらえて嬉しいです。」


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