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呪いの装備というやつをご存じだろうか?
呪いの装備というものは、呪われた武器や防具のこと。
主に呪術によって誰かしらが生み出したものがほとんどで、稀に魔物や魔族を倒した時に恨みの残留思念的なものが移ってしまいできるものもある。
それらの中にはその代償と引き換えにより大きな力を生み出すものもあり、冒険者なんかの力が物を言う仕事をしている者の中には、好んでそれを使う者もいるらしい。
代償の中には、生命力、魔力を奪うというもの、またひどいものだと多くの生け贄を差し出すというものなども存在し……とまあ、それらの中では、マインの装備したら、取れなくなるというものは軽いものには違いない。
……と、それが原因でパーティーを辞めさせられたりしなければ思うのだろうか?
…十二年である。
生まれ育った孤児院でイタズラでこの仮面を着けて、取れなくなってから。
幸い浄化作用でもあるらしく、ずっと着けていても中は汚れたり、蒸れたりということはないのだが、この悪趣味なデザインのそれを着けて、ずっと過ごすというのは苦痛以外の何物でもない。
「へ、変態っ!!」
一体何度変質者に間違われただろう?
「き、貴様っ!!何者だっ!!怪しい奴めっ!!」
一体何度職質されただろう?
「よお、兄弟。今日ここでな。人間皆殺しパーティーがあるんだよ。お前も来ないか?」
…一体何度魔族に仲間だと思われたことがあったか?
あはは…ヒーラーなのに教会出禁になったこともあったっけ?アハ…アハハハハハ…。
……幼馴染たちはこの辛さをわかってくれていると思っていたのに。
なんで…なんであんなにひどいことを…。
パーティーを無理矢理脱退させられ、悲嘆に暮れていたマイン。
「ゴクゴクゴク…………ひっく……。」
そんなマインは今……酒に溺れていた。
この街で出会った友人であるオーク似のおじさんであるオイクとばったり会い、昼間にも関わらず酒場へと連れて行かれたのだ。
マインは酒など呑んだことがなかったので、遠慮していたのだが、オイク曰く、とりあえず呑んで忘れちまえと進められ、いつの間にやら手にはワインが握られていた。
それからしばらく、マインに付き合ってくれて、話を聞いてくれていたのだが、オイクはパーティーメンバーに呼ばれて確認事項があるとかで、呼び出され、オイクを待つ間、マインはちびちびやっていた。
しかし、こんな仮面を着けている者に話しかけてくるものなどおらず、自然とペースが徐々に上がっていき、今ではウワバミの如くなっていた。
誕生日前日にパーティー追放なんてひど過ぎるのでさもありなんと言ったところだろうか?
キ〜キ〜と地面と接着面のない浮いた両開きの扉が揺れ、聞き覚えのある重量感のある足音が近づいてくる音がした。
どうやらオイクが帰ってきたらしい。
「おい、マイン。マイン!」
「……ん〜?どしたの、オイク?には♪ニハハ♪」
不気味な仮面から出る笑い声。
それはもう営業妨害と言っても過言ではない。
「あ〜…全然いつものマインじゃねえ。ダメだこりゃ…完全に酔ってやがる。」
2樽開けたあたりでようやく酔いが回ってきて、楽しくなってきたのだ。そんな気分になったばかりだというのにどうして飲むことをやめられようか?
「やれやれ……って!おい!!お前こんなに呑んだのかっ!?ワイン三樽目じゃねえかっ!!奢るって言ったが、これは予想外だろ!!割り勘だからな!!割り勘っ!!」
「いいよ〜♪ニハハ♪」
「…ったく…仕方がねぇ…俺も呑むか…。おばちゃん、蜂蜜酒!!」
「あいよー!お得意さん!!」
「…ハハハ…はあ…。」
不気味な仮面男を咎めもせず、金づるを見つけたとホクホク顔のおばちゃんに、オイクは苦笑いを浮かべ、そっとため息を吐いた。
それからも酒盛りが続き、他のお客たちで賑わったあたりで、マインを適当な宿屋へと放り込み、オイクは自分の泊まる常宿へと帰ったのだった。
パキッ!
そんな音が夜中、人知れず鳴った。