2.1
暗い森の中、そこに真っ黒な箱があった。
それは一目見れば、大抵の者が禍々しく危険だと感じるほどのもの。
触るな危険の文字など飾られていなくても、普通の者ならば、触れることはあるまい。
もしそんなものに触れる者がいるとしたら、こう呼ばれることだろう…。
…そう、勇者と…。
アルトたちはオークとの戦闘から何度か戦闘をした結果、とうとうメイリンがブチギレた。
何度も。
何度も。
そして、繰り返される、前衛2人をまったく気遣わない、危険なタイミングでの2人の魔術の行使で、傷を負ったのだ。
それはタバサの【ヒール】では到底治らないほどの傷。
アルトが一応とハイポーションを準備しておかなければ、場合によっては一生物の傷となったかもしれないほどの大怪我。
このような目に遭ったメイリンが物凄い剣幕で、パーティーの連携に不安があると口にしたことから、魔物討伐をしつつ、訓練が行われることになったのだ。
今はその1週間目で確かな成果を得ているとは思う。
なんとなくマインがいた時に比べて速さやスムーズさが劣る気がするが…。
「ノロマ武闘家、あんた。ご飯採ってきなさいよ。」
「はぁ?あんたこそ行って来なさいよ、このノーコン魔術師。」
…そして、パーティー間の関係がギクシャクしている気がするが…。
魔術をブチ当てたミリアンと当てられたメイリンの関係が最悪というものになっていたのだ。
「…はぁ…。」
それに当てられて、タバサも居心地悪げ。
イセリアはおそらく森にはいるのだろうが、またどこかへ行ってしまった。たぶんまた剣の訓練でもしているのだろう。マインが抜けてからは、頻度が増えた気がする。
「なによっ!!」
「あんたこそ、なによ!!」
アルトが目を外して少しばかり、ミリアンがメイリンの胸ぐらを掴み、取っ組み合いになりかけていた。
「わかった!わかったって…俺が行ってくるから!!」
アルトが2人を引き離すと、2人は思い思いで逆方向へと。
アルトはより所在無さげとなってしまったタバサに獲物を採ってくると伝えると、トボトボと奥へと2人が向かっていない森の奥へと歩みを進めた。
「…それじゃあ、行ってくる。」
そして、獲物が見つからず奥へ奥へと…。
生い茂った木々の間から差し込む光が無くなりだし、そろそろ明かりの一つでも着けなければとアルトが考え出した頃、アルトはなにやら変なものを見つけた。
「?なんだ…あれは…。」
近づくアルト。
そして、その全容が明らかとなり、一言。
「…箱?」
それは真っ黒な箱だった。
アルトはすぐにピンときた。
「も…もしかしたらお宝かもしれない…。」
「確か本で読んだことがある。太古の賢者や勇者、はたまた国を追われた貴族が隠し財産を森に隠したとか…。」
ちなみにアルトはほぼ本は読まない。かつては読み聞かせてもらい、今もし読むとすれば、冒険譚くらいのものだ。
「…でもマインに宝箱とかには罠が仕掛けられていることがあるから触るなって言われてるしな…。」
これは明らかに天からの警告。
…しかしながら、アルトの頭に浮かんだのは、それを打ち消すほどの望み…ハーレムパーティーを作りたいという欲望。
もしこれで2人が仲直りできて、理想のハーレムに近づくのではないかと思うと、アルトにそれを止めることはできなかった。
「なになに…ここに魔力を注げばいいのか?注入!!…っ!?おお…これは意外に吸われるな…。」
アルトの魔力を吸った箱。そこから黒いモヤが出てきた。
…そして、出てきたのは、一体の小さなボアで…。
「は?これだけ?……おいおい、ふざけんなって…。」
アルトはチッと舌打ちし、その小さなボアを仕留めると、肩を怒らせ、野営場所へと戻っていく。
チッ、一応これで夕飯にはなるからな!!
こうして、ブラックボックスは動き始める。




