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「「……。」」
しばらく、大きなダブルベッドの端と端に腰を掛けるマインとマリア。
マインがアニタに抗議の声をあげたものの、やはり上手くいかなかったのだ。
どれだけと抗議したわけではないが、一言それを口にすると、アニタに楽しそうな笑顔で「間違えちゃった♪」と自分の非を認めているのか認めていないのかわからない様子を見せられ、結局彼女の部屋が満杯なのでと言う言葉に流されて、マインは帰ってきてしまった。
今、マインは顎に手を当て、どう寝たものかと悩んでいた。
しかしながら、もう片方の端へと座る人物はまた違ったことを考えているらしい。
―
ど…どうしよう…。
いや、どうしようもないことはわかっている。
ああ、わかっているのだ。
いつかこうなる…いや、こうしようとは思っていたのだから。
しかし…これはいくらなんでも…。
チラッ。
なにやら真剣な顔で考え事をしているマイン。
一体あんなに真剣な顔でなにを考えているのだろう?カッコいいな…
…って、も、もしかしてこ、今夜のことかっ!?
い、いけないぞっ!!ご主人様っ!!
そんなはしたないことはっ!!
そういうのはもう20年はお互いをお付き合いしてからで…でも、もう15年くらいでも…いやいや、やはり20年の壁はやはり…。
メリッサにご主人様呼びは男のロマンだからとなんとも俗っぽい理由で呼び方を変えたマリア。
彼女はそんなカビが生えそうなほどに古風なことを考えていたのだが、ふとメリッサに言われたことを思い出した。
『あんた、そのままにしてたら、いつまでも未通女だろうから、ちゃんと性奴隷としても契約しておいてあげたから。』
この爆弾発言。
もちろん、このことにマリアは酷く怒った。
それはもう!メリッサを殴り飛さんほどに…。
これは自分でもポーズだとはわかっていて、付け加えるならばメリッサにも見透かされていただろうが…。
本音を言えば、照れていたのだ。物凄く。
内心、寧ろよくやったと称賛すらしていた。
なにしろ、マインも男なのだ。自分が彼の性奴隷などという存在だと知れば、もう大変なことでズッコンパッコンだろうと…。
「…はぁ……。」
…まあ、今は日和って、自分が性奴隷でもあるなんて、そんなことを知らないマインに口にすることを迷っているのだが…。
「…はぁ………。」
ため息は今とさっきの2度のみではない。その何度目かのため息。
そんなマリアの何度目かわからないため息に、彼女が不安なのだと勘違いしたマインは決めたらしい。
「マリアは今日はここに泊まってくれるかな?」
「……え?」
あまりにも予想外の言葉にマリアの口から出た言葉はこれだけ。
「だから…明日向かえに来るから、今日はここに泊まってって。」
これが続いてマインの口から出た言葉。
マリアはその言葉の意味を理解するなり、驚愕の声を上げた。
「…はいっ!?」
マリアの言葉のチョイスが悪かったのだろう。マインはこの言葉を了解と受け取ったらしく…。
「じゃあ、僕は近くの宿に泊まるから、ちゃんとアニタさんたちにお願いしておくから、安心してね。」
…そう口にすると、まっすぐドアの方へと歩き出した。
「ちょ、まっ、待ってっ!?」
その言葉ではマインは止まらない。
マインとしてはこの部屋を離れ、マリアを安心させたいという思いに支配されていたから。
マリアは急ぎ足で部屋を後にしようとするマインをなんとか引き留めようと後ろからマインへと抱きついた。
「…マリア?」
疑問符を浮かべるマイン。
「……っ!?」
そして、マリアは再び現状を理解し、なんてはしたないことをしてしまったのかという後悔までを加え、さらに頭の中をぐるぐると混乱させ、マインを引き止めるにはどうすればという彼女の現在の至上命題に従い、ある言葉を口にした。
「…寂しいんだ。慰めてほしい。」
ひしっと抱きつき離さないとばかりのマリア。
彼女はマインの声がまず耳に届くだろうと思っていた。
しかしながら…。
「……何やってるの、あんた…。」
マリアの耳に届いたのは底冷えするような嫉妬する女の声。
アニタに事情を聞いたアンがやって来たのだ。
これ以来、アンはマリアを完全なる敵と認識したらしい。




