番外1.1
あの後しばらくして、マインたちはメリッサの店を追い出されるようにして、後にした。
なにせ今は陽が赤みを帯びてくるような夕刻、ここまで言えばわかることだろう。
そりぁあ、メリッサもブチギレる。一体何時間人の店で好き勝手しているというのか…。
まあ、そんな長い時間なにをしていたのかというと、マリアはマインに慰めてもらっていたのだ。
マリアが泣き始めると、マインは優しく寄り添ってくれた。
それがあまりにも嬉しく、心地よかったのだ。
よって、マリアは初めて嘘泣きというやつをした。何度もした。
いや、最初の方は本当にそれだったのだが、マインが何度も律儀に慰めてなんてくれるものだから、その甘い汁に酔わされたのだ。
マリアは自分が女性なのだと自覚したばかり、致し方ないことだろう。
さてさて、マインはマリアを伴い、慣れない視線に晒され、ようやく宿へと辿り着く。
「おかえりなさい、マインくん。」
「あっ、アニタさん。ただいま。あの…部屋の方はツインに…。」
そう、マインはアニタに冒険者としての補助をしてもらうための戦闘用奴隷を買ってくるからと、部屋変えをお願いしていたのだ。
「ええ、もちろん。ちゃんと2人で眠れるように大きなベッドを用意しておいたわ!」
バッチリと親指を立ててくるアニタ。
「ふう…良かった…。ここの宿人気だから、もしかしたら駄目かもって思ってました。」
その宿の爆発的な人気は泊まっている人間の男女比率からもわかるように、マイン目当ての客が押し寄せた結果なのだが、それを知らないマインは呑気にそんなことを言っている。
マリアがもし正気なら、それに呆れ顔の一つでも見せたことだろう。
「マインくんの頼みだもの。お客さんを追い出してでも、部屋くらい用意するわよ。」
笑顔でそんなことをのたまうアニタにマインは苦笑を浮かべると、アニタに呼ばれたアンの先導によって、マインたちは部屋へと向かうはずだったのだが…。
「あっ、マインく…ん?……っ!?マインくん、その人誰っ!?」
…アンはマインたちを見るなり、大きく目を見開き声を上げた。
それはアンからすれば当然のことだろう。なにせ自分の想い人の腕に抱きつくようにしている女性がいるのだから。
それはマリアの腕や筋肉が長い間欠損していたことが原因で、(マインとしては)ふらふらとしていたのが危なっかしく、支えていたからなのだが、アンはマリアの内面を的確に見抜いたのか、マインへと必死な様子で詰め寄ってくる。
「その人?…ああ、マリアのこと?彼女は…。」
そんなアンにマインは戸惑いはしたものの、的確に答えを返すのだった。
「彼女は僕のパートナーだよ。」
「ぱ……パートナー……?」
「うん、パートナー。」
その言葉を聞いたマリアは顔を真っ赤にし…。
「ぱ、パートナー…アハッ…アハハハハッ…。」
…アンは真っ白になった。
仕方のない娘ねとどこか楽しそうに微笑むアニタを残し、呆然としたアンに連れられ、マインたちは2階へと上がる。
しかし、部屋の中を見たマインはようやくそのことに気がつき、さらに楽しそうになったアニタに詰め寄ったのだった。




