1.1
「マイン、お前を追放する。」
「……はい?」
「……。」
「アルト…君、もしかして今、僕のことを追放するって言った?」
「……ああ。」
「いやいや、なんでさっ!僕なにか問題行動した?それともこのパーティーについてこれないほど実力不足?そんなことないよね?だって、この前のスケルトンジェネラル戦だってかなりの活躍したと思うけど!!」
「うっ…そ、それはだな…。」
アルトが返答に窮していると、魔法使い然とした小柄な少女、ミリアンが口を開く。
「そんなの!パーティー内に不和を生み出しているからに決まってるでしょ!!」
「……は?意味わかんないだけど…。」
「だって、そうでしょ!!あんたヒーラーのくせに前線で敵をボッコボコにして!それは武闘家のメイリンの役割なのに…見なさい!!あの子あんなに縮こまっちゃって…。」
ミリアンの指差す方、部屋の隅っこには確かに武闘家の女の子、メイリンがどこかびくびくした様子でこちらを窺っていた。
そんな彼女を少し哀れに思っている間も、ミリアンは調子が出てきたのか、感情的にマインのことを責め続け、こちらの事情も知らずにそんなことをしてくる彼女に苛立ちを覚えたマインはボソリと呟く。
「……でもそれはメイリンが僕を使えないヒーラーとか言ったからだよね?」
そう、彼女は駆け出しの頃はそうではなかったのだが、才能が開花し、自分が力をつけた中級冒険者となったあたりから、調子づき始めたのだ。
そして、ある時、『ぷ〜くすくす。ざっこざこなヒーラーのマインくん、なにもしてないじゃ〜ん。君、この勇者パーティーにいる価値な〜し。才能ないんじゃな~い?男として恥ずかし〜い。生きてる価値もな〜し!!キャハハ♪』などと言われ、その頃の扱いもあって、マインはとうとうブチキレた。
それから武器も貸してもらえずヒーラー単騎で魔物と戦うことになり、見世物のような視線を向けてくるパーティーメンバーの前で、数体の魔物を相手に拳を振るった。
それからしばらく後、喧嘩をふっかけてきたメイリンと拳で語り合った結果…マインの一方的な勝利となり、メイリンが今のような状態となったわけだ。
ミリアンもそれを見ていたはず…あれは誰の目から見ても自業自得だろう。
「……それは…その…。」
「…それにさ。あの頃、君たちもヒーラーの僕のこと、馬鹿にし始めてたよね?パーティーの雑用を押し付け出したり、僕のクエストの分け前を減らすように話しているのも聞いちゃったんだけど…。正直、幼馴染がそんな話をしているの聞いて泣きそうになった。」
「なっ!?…そ、それは…あの…その……ごめん。」
「しかし!!しかしだな!!お前がパーティー内の不和を生み出しているというのは事実!!」
「……どこにそんなものがあるのさ。」
「そ、それはだな……そ、その仮面だ!!」
「「「っ!?」」」
それは禁句。
マインは拳をテーブルに叩きつけ、真っ二つに割ると、何事もなかったかのように部屋を出ていった。
「…そんなに僕が嫌いかよ…。」
仮面から一筋の雫が流れ、彼のそんな呟きを聞いたものはいなかった。