8-11
「そうだ、これを見てくれ」
四蛇が鞄の中から巾着を取り出すと、机の上で逆さにして中身を出した。ごろんと、木製の何かが二つ転がる。
「アヌ人形なんだが」
四蛇は、アヌ人行について、改めて説明をした。今日の四蛇の話にも登場したものだ。
句朗がその人形を覗き込むと、襟元から木偶がことんと落ちた。その二つのアヌ人形には、それぞれ『五馬』と『六鹿』と書かれている。四蛇の話によると、呪術をかけられた対象者が死ぬと、アヌ人形は粉々になるらしい。
「じゃあ、古井は生きてるんだ」
入がほっとしたように言った。言葉にはしていなかったものの、既に命を落としている可能性も、考えていたのかもしれない。
「六鹿の方は、一度だけ、ちょうど六鹿が捕まった数日後に冷たくなったんだ」
「冷たくなるのは、どれくらい危険なときなのかしら。例えば、足の骨が折れた時とか、高熱でうなされている時とか、そういう時にも冷たくなるのかしら」
傘音が尋ねたが、四蛇は分からなかったのか、乞除を見た。
「命に危険がある時だけじゃの。だから足が折れただけじゃあ冷たくはならんが、出血が多いと冷たくなるじゃろう。あとは高熱で死にかけたら冷たくなるじゃろう」
「古井さんの時は、どれくらい冷たくなったの」
「握っていると手が痛くなるくらい、冷たくなった」
限りなく命が危険に晒されたということだ。入と句朗は暗い顔を見合わせた。
「古井に、何があったんだろう」
「話はそれだけじゃないんだ。六鹿のアヌ人形が冷たくなる直前に、五馬のアヌ人形も冷たくなったんだ。偶然かもしれないけど、なにか関係があるのかもしれない。それに、五馬のアヌ人形は、その十日後くらいに、もう一度冷たくなってるんだ」
みな一斉に難しい顔をした。
句朗の木偶が、二つのアヌ人形の横でかたかた揺れている。
「どういうこと?」と傘音が言う。
「五馬の時も、六鹿の時と同じように、氷みたいに冷たくなったんだ。意味が分からないし肝が冷えたけど、それが少なくとも生きているという証だとは思ってるんだ」
「そんなにしょっちゅう死にかけることあるかあ?」
鼓童が怪訝そうに言う。
「古井さんが捕まった時や、その少し前に、危ない目にあった蒼羽隊はいるかな」
史紋の言葉にまたみんな首を捻ったが、思い当たる節はなかった。
入が何か覚えているのではないかと、句朗は彼女の顔を見たが、入はみなの頭上に注意を引かれているようだ。魂を見ようとしているのだろうか。
「どうかした?」
句朗が尋ねると、しばらくそのまま宙を見ていたが、腑に落ちないような顔で「なんでもない」と呟いた。
「あと、気になっていたんだが、ハルバはなぜ襲われたんだ」
史紋が四蛇に意見を求めたが、四蛇にも分からない様子だった。
窓の外から、きれいな笛の音が聞こえてきた。
緊張がゆるんだのか、傘音が小さくあくびをすると、みなつられてあくびをこぼした。




