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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第八章 四蛇と句朗
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8-6

 句朗は、左手に繋いだ入の右手を、自分の右手に繋ぎなおすと、後ろ歩きで遠くを見渡す。


 街はとうとう見えなくなった。


 史紋、傘音、鼓童の口数は少なく、順番に入の荷物を持ちながら、歩みを進める。入は伏し目がちのまま、とぼとぼと歩く。句朗は入を元気づけるように肩を軽く抱き、また彼女の右手と自分の左手をつないだ。


 五人は、ヘビに会うためザムザを目指していた。


 桂班の三人を連れて行くという提案を浮文紙で告げたとき、ヘビは渋った。屋敷から潮を助け出した一件で、互いの信頼はほぼ固まったが、四蛇は知らない人間を拠点に連れ込みたくはなさそうだった。

 しかし、句朗と入の二人だけで、徒歩でザムザまで向かうのは不可能に近い。他の方法として、庵霊院へ行くための鳩車の任務中に、離脱するという方法も考えたが、名法師らに目的地が悟られることは避けるべきだと考えた。他にもいくつかの手段を考えたが、安全かつ目立たないままにザムザに到着するには、いい方法がなかった。

 三人とも、蒼羽隊の正体を知りたいという強い意思があるだろうという句朗と入の予想と、他に手段がないという二つの理由から、ヘビの言うことを必ず聞かせるという条件のもと、ヘビは三人の同行を了承したのだった。


 桂班の残りの三人と、リオコには、これまでのことを全て話した。


 彼らは驚き、少し感情的にもなったが、結局興味津々で句朗らの話を聞いた。特に、ヘビという人物の話には、非常に興味を引かれた様子だった。

 ヘビは、ヨア、リア、名法師の昔のことや、蒼羽隊の出自の秘密を知っていると言っているのだ。興味を持たないわけがなかった。


 それから句朗は、自分なりの意見を伝えた。潮という人物が九頭竜国で、ある程度の地位の人間らしいこと、ヘビがエノキと知り合いらしいことなどから、ヘビの仲間は、句朗らが想像していたよりも、多いのかもしれない。また、ヘビらは憑き物やノウマについても、何か情報を持っているような様子だと話した。


 傘音と鼓童は、句朗の予想通り、白紙に返る呪術を解くことと、自分の正体を知ることに強い関心があるようだった。

 句朗は、四人が自分たちの話をすんなり信じてくれたことに、驚き、感謝した。


 そうは言っても、句朗の持つ情報だけでは、ヘビのことを信用してよいものか、判断できない様子だった。

 リオコを除いた三人は古井と親しかったわけではなく、屋敷での出来事も目にしていない。

 傘音と鼓童は、ザムザへの旅に同行することをすぐに決意したが、その動機は、自分の正体への関心が大きいようだった。リオコは翠羽隊のため同行する必要がないとしても、史紋はすぐに返事をせず、何かを考えていた。


「俺は、自分の過去にはあまり興味がないんだ」

 史紋がぽつりと言った。


「来ないのかよ」

 鼓童は焦りと苛立ちを滲ませてそう言うと、史紋が手を振った。


「そうは言ってない。俺の帰るところは、過去じゃなくて、ここなんだ」


 史紋は優しい顔で鼓童を見る。


「朧と、夜味があんなことになってしまった。俺の帰る場所が、これ以上なくなるのは困る。俺は、鼓童について行くよ」


 そういうわけで、桂班の五人は、隠密に旅の準備を整え、ある日の早朝、蒼羽隊本部を発ったのだった。


 ハルバの件は、絶望的だった。彼の浮文紙宛てに何度か文字を書いたが、返事はないままだった。

 ヘビから聞いた話だと、あの日、ハルバからエノキに、ヨアに襲われている旨の連絡が来たのだそうだ。また、潮が言っていた魚冥不という呪師の幻覚について、その幻覚には触れられないらしいという情報を、ヘビが教えてくれた。

 句朗はあの時、ハルバの顔や血に触れたため、血みどろのハルバは幻覚ではなかったということになる。矛盾しているのは承知の上で、自分がもし触れなければと後悔の念を抱いた。


 ただ、あのわずかな時間に、いったい誰が、どこへ、ハルバの死体を運び出したのだろうか。不気味な疑問だけが残った。


 入の右手を握っていた左手が、ぴんと引かれ、そのまま手が離れた。

 入はとうとう立ち止まってしまった。彼女は歩くのを止めると、立っている必要性がなくなったとばかりに、その場にしゃがみ込んだ。


 句朗が入をおんぶしようとして、入に自分の首に手を回すよう説得していると、史紋が戻ってきた。


「交代だ」


 そう言って自分の荷物を句朗に預け、いとも簡単に入を抱えると、歩きだした。


 彼女は軽度のハカゼにかかっている。初めは、ぼんやりすることが多い程度だった。やがて食欲がなくなり、任務の日も集合場所に現れなくなった。ハカゼになりかけているのだと、句朗はすぐに気づいた。

 きっかけはハルバの件のようだが、原因はおそらく、魂が見えることと、それによって白紙に返ることへの恐怖だと思われた。そのこともあって、一行は旅路を急いでいた。

 句朗は竜胆に、ハルバの件や魂に関する入の記憶をいったん食べるように頼んだのだが、それも上手くいかなかった。入の夢の中で、彼女自身が『獏にあげます』と言う必要があるのだが、それを言ってくれなかったそうだ。


 ヘビの考えでは、白紙に返る呪術を解呪することで彼女の不安が消え、ハカゼも治るのではないかとのことだった。


 本部を発つ頃には既に、入は自発的に歩くことができない状態だった。句朗が手を引きながら、なんとかここまで歩いてきたのだ。ここからは、交代で入を背負って歩くことになりそうだ。

 句朗は、目が覚めたら入が死んでいるのではないかと思い、満足に眠れない日が続いた。ハルバの死体と入の死体が、夢に何度も出てきた。鼓童にひどい顔であることを指摘され、お前がハカゼになったら知らないぞと怒られた。傘音にはよく眠れる薬を分けてもらったが、深い眠りにつくのが恐ろしくて、なかなか飲む気持ちになれなかった。


 煙羅国を出て六日目、蒼羽隊の浮文紙には、無事を確認する連絡に続いて、早く戻らないと厳しい処罰が待っているという旨の連絡がきていた。

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