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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第八章 四蛇と句朗
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8-1

 四蛇は、果実を使ったすっぱいジュースを、乞除に差し出した。乞除は一口飲んでせき込み、その透き通った鮮やかな液体をまじまじと見つめる。気に入らなかったのかと思ったが、グラスを少し上げて「あとで作り方を教えてくれ」と言った。


 机には、浮文紙が並べられている。古いくたくたの浮文紙だ。六鹿から聞いている話だと、その浮文紙の相手は、句朗と入という二人の蒼羽隊らしい。

 彼らは、六鹿が『古井』という偽名で翠羽隊に入ってからできた友達だそうだ。


 四蛇は落ち着かない様子で、エノキの家の居間を行ったり来たりする。

 又旅と茶々は、ザムザの方へ行っているため、今は留守だ。


 あの、岩足が転んだ日から、いろんなことがあった。


 一番の気がかりは、六鹿のことだ。あの日から、六鹿からの連絡は途絶えている。情報はほとんどなく、句朗と入との浮文紙のみが、頼みの綱だった。


 幸い、瓜呪族の村と妙丸の里の、岩足の転倒による被害はそんなに大きくはなかった。地震、強風、砂ぼこりくらいのものだったそうだ。

 しかし、ザムザは潰れてしまった。死者も多かった。自分たちのせいだろうか。いや、あれをやったのはスムヨアと魚冥不なのだ。しかし、あれを防ぐため自分たちにできたことは、本当になかったのだろうか。

 四蛇はあれから、なんども自問自答した。


 あの時、おそらくスムヨアか魚冥不のどちらかが、岩足に何かをして転ばせたのだ。そこまでしてでも、又旅と四蛇を逃がしたくなかったのだろう。

 乞除の考えだと、魚冥不の蜃の術を使い、何かの幻覚を見せて、驚かせたのではないかとのことだ。あの時、自分の家から岩足を見ていた乞除は、そのように感じたのだそうだ。


 四蛇と又旅は、生き延びた。地震により遊型車が転倒し、助けに来てくれた九頭竜国の久遠組の数人が怪我をしたが、命に別状はなかった。

 一行は互いに助け合いながら、スムヨアと魚冥不の追跡から逃げ切った。彼女らがあの後どうしたのかは知らないが、おそらく煙羅国へ帰ったのだろう。


 四蛇と又旅は、潮とゆかりのある久遠組の手助けにより、九頭竜国まで逃げてくることができた。目有との再会を果たしたのだ。

 三人はつかの間の幸せな日常を満喫した。目有とは、旅の間も浮文紙のやりとりが続いていたが、実際に顔を合わせて話すのとはやはり違う。特に又旅と目有は、これまで我慢してきたかのように、朝から晩まで言葉を交わした。


 四蛇は、水無町の家にも帰った。久しぶりに帰った我が家は、なんだか小さく見えた。一階の車庫には、相棒がじっと並んでいた。当たり前だが、もう一度走るには整備や調整が必要そうだった。暗い中に長い間残していたのがなんだか申し訳なく感じて、しばらく表の戸を開けておいた。


 せっかくの我が家だが、少しも落ち着かなかった。換気していなかったせいだろうか、空気が重く沈んでいるような気がした。

 一人で居間の椅子に座っていると、五馬と六鹿の不在を強く感じ、気分が悪くなった。四蛇は孤独に耐えられなくなり、目有の家に通った。


 九頭竜国は久遠組と宗方組の二大組織が政権を握っているが、自分たちの育ての親である潮は、久遠組で働いている。実際に政治に関わる場面はなく、ただ、その幹部に気に入られているだけのようだ。

 四蛇は潮が大好きなのでその気持ちも分かる気がするが、いくらなんでも自由にしすぎだとも思う。

 彼は、彼の確固たる信条だけで、とんでもない行動力を発揮する。彼の行動には圧倒的な説得力があり、いつも正しいのだ。


 潮はいろいろとうまい塩梅で手を回してくれているらしく、庵或留と蒼羽隊の関係は、もはや四蛇たちの出番がなさそうなほど、大きな問題へと発展していた。


 九頭竜国へ戻った際、目有は、自分も力になりたいと潮に直談判した。危険を顧みず、スムヨア本人に会って話をしたいと強く主張した。

 ただし、現実的に実現が難しいということは目有も分かっているらしく、潮がマルバの宮へ行く際に同行させることを約束すると、目有は納得した。

 四蛇と又旅は、乞除を再度説得するため妙丸の里を再訪し、そこでワロとも再会した。ワロにも何か目的があるようで、マルバの宮へ行きたがった。

 ワロと目有は共に、潮の用意したマルバの宮にある宿に、今は身を潜めている。


 移動は鳩車や、煙羅国の自衛団の遊型車で行った。とんでもない費用がかかっているはずなので、どうしてそんな権限が潮にあるのかと疑わしく思ったが、自衛団からの潮の人望だけではなく、それだけ九頭竜国がことを重要視しているということかもしれないと思った。


 長いこと分からなかった六鹿の居場所だが、名法師の屋敷の地下に、六鹿が捕まっている可能性があると句朗と入が教えてくれた。又旅と四蛇が以前、イクチの巣穴から行きついた場所ではないかと、推測できた。


 その情報を潮に伝えると、すぐに潮は侵入を試みたらしいのだが、それきり連絡が来ないのだ。それで四蛇は、先ほどから、エノキの家の居間を行ったり来たりしているというわけだった。


 捕まってしまったのだろうか。その場合、助け出せるだろうか。

 蒼羽隊の二人、句朗と入に協力を仰ぐという選択肢も、四蛇にはあったが、六鹿の友人とはいえ知らない人物を介入させるのは、あまり気が進まなかった。


 ただし、蒼羽隊にかかっている記憶喪失の呪術を解き、その正体を本人らに伝えられたなら、大きな進歩だろう。

 四蛇は、句朗と入を呼び出し、乞除に白紙に返る呪術を解いてもらうつもりでいた。

 浮文紙のやり取りから、蒼羽隊の二人がそれを前向きに検討している様子だったため、四蛇と又旅はなんとか乞除を説得して、妙丸の里から、ここ、瓜呪族の村のエノキの家まで連れてきたのだった。乞除が心変わりしたのには、佐治の協力が大きかった。


 四蛇はすっぱいジュースをごくごくと飲み、少しむせる。

 潮には、助けを求める当てはあるのだろうか。

 ワロと目有は向こうにいるが、ワロは目立ちすぎるし、目有は彼女自身が危険に晒されるため、より事態を悪化させる可能性がある。


 四蛇は迷った結果、蒼羽隊の二人への浮文紙に、こちらの事情を書き込んだ。

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