7-22
六鹿は、四蛇たちのことが心配で仕方がなかった。
四蛇に危険を知らせた後、これまで何度も捨てるか迷ってきた、潮への浮文紙にも、助けを求める連絡をした。潮には頼りたくなかったが、四蛇たちの命には代えられない。
同時に、この絶好の機会を逃すつもりもなかった。スムヨアたちが屋敷にいないことは、確実なのだ。
六鹿は、蒼羽隊本部で暮らすようになってからできた、小さな友人二人を連れ、屋敷に忍び込んでいた。
どういうわけか自分を慕ってくれる友人二人を、六鹿は危険にさらすつもりはなかったが、彼らは自らの意思で、協力を申し出てきた。
二人には見張りをしてもらい、六鹿は単身、例の屋敷の地下室へ潜りこんだ。忍び込む際は、シャグで購入した解呪の道具が大いに役立った。
何時間もかけ、丁寧に地下室を調べた結果、ずっと追い求めていたそれを、六鹿はついに手にした。
蒼羽隊員と、その元の人間の名前が書かれた名簿だ。
六鹿は震える手でそれをめくる。名簿の枚数はそんなに多くなく、五馬の名は、すぐに見つかった。
『文五馬』の名の横には、蒼羽隊の友人の名が書いてあった。
友人の内一人は地下室への階段の上におり、もう一人は、屋敷の入り口付近で見張りをしているはずだ。六鹿は傍にいる方の友人の名を呼んだ。彼は地下への扉からこちらを覗き込み、「なに?」と言った。
「あなたが、五馬だった。私の弟だった」
声が震えた。
興奮のあまり、彼の気持ちを配慮する余裕はなかった。
「な、なに?イツマ?」
五馬の魂が紐づけられた彼は、戸惑っている。
ずっと探していた五馬が、こんなに傍にいたなんて。
驚きのあまり、六鹿は名簿を手に、呆然とした。思えば彼の傍にいて、やたら五馬を連想することがあった。朝が弱いところ、字が汚いところ、誰とでもすぐに打ち解ける、人懐こいところ。気づけば彼の顔を穴が空くように見つめており、彼は六鹿の様子に困惑しているようだった。
六鹿は、気持ちを切り替える。
「すぐにここを出ないと。先に屋敷の出口まで行って、外を見張って。あとで全部説明するから。いいね。ここを元に戻してすぐに追うわ」
「待ってよ。弟が、なんだって?」
六鹿に説明を求める友人を、押し出すようにして出口の方へ送り出すと、六鹿は部屋の中を元の状態に戻す作業をした。忍び込んだことは、ばれない方が良い。
荒らした状態のまま、名簿を握りしめて逃げたっていいが、煙羅国から逃げられるとは思えないし、友人二人にも迷惑がかかる。何もなかった状態に戻すのが得策だと考えた。しかし、この名簿を書き写す時間はあるだろうか。
そこでやっと、自分が屋敷に侵入してから随分時間が経っていることに気づいた。
「何をしているんです?」
急に後ろから聞こえた声に振り返ると、疲れ果て白い顔をしたヨアが、こちらを見下ろしていた。恐怖でうまく息を吸い込めない。
遠くから、屋敷の入口を見張っていた方の友人、入の声が聞こえた。
「古井!句朗が!」
額に翳されたヨアの手のひらを見つめながら、六鹿の意識は遠のいていった。
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