7-21
彼は、この土地に、小さな生き物が暮らしているということを知っていた。彼らにとって、自分が脅威であることも、想像できた。
この土地を歩く時は、その生き物を踏みつぶさないように、決まった場所だけを踏み、歩く必要がある。これは『透』と名乗った小さな生き物と、昔取り決めたことだ。
透のことを、彼は好いていたが、最近は話す機会がなくなった。元気なのだろうか。彼の方からその生き物を探し出すのは無理なので、つまらない気持ちで歩く。
彼は優しく、温厚で、小さな生き物を傷つけることを望まなかった。そのため、腰をかがめ、薄い雲に目を凝らして、その足を踏み下ろす場所を確かめ、冷静にゆっくり、身体を動かす。
前に踏み出した足に体重を移し、後ろの足を上げた時、彼は、初めての経験をした。
目の前に、自分と同じくらいの背丈の、見たことのない生き物が現れたのだ。彼にとって、初めての出来事だった。
その生き物は老いており、雄だった。
この辺には、自分たちを除いて、この大きさの生き物はいないはずだ。彼には訳が分からなかったが、相手が怒っていることだけは分かった。
思わず後ずさりそうになったが、足を戻すのであれば、決まった場所に踏み下ろす必要がある。迷った彼は、身体を仰け反らせ、その場に踏みとどまった。
老いた男は、こちらを見下ろすように迫ってくる。男の目は吊り上がり、どんどん恐ろしい形相になる。迫りくる男から逃れようと、彼は思わず片足を浮かした。
そして、身体が宙に投げ出される感覚に、恐怖を覚えた。
「岩足が倒れるぞ!」
潮はそう叫びながら、悪夢でも見ているようだと思った。




