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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
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7-18

 これ以上有意義な話が出てきそうになかったため、四蛇は窓から外を眺めた。

 喧々と茶々は、何がそんなに面白いのか、生き生きとした様子で地面を掘ったり、地面を転がったりしている。しばらく眺めていると、それがなんだかとても羨ましくなってくる。


 又旅は、やれることはやっておこうと、乞除への説得を試みた。乞除が憑き物を解呪して無力化することで、多くの生き物の命を救い、憑き物も助けられるかもしれないと言った。ワロも説得に加勢したが、乞除はうるさそうな表情を見せただけだった。


「わしは自分が幸せに生きることが、何よりも大切なんじゃ。油隠のためだとか、自分の種族のためだとかで、命を危険に晒そうとするなんざ、傲慢じゃ。止めはせんがな、巻き込まんでくれ。価値観を押し付け、善意を強要するのは、呪いじゃ」


 又旅は押し黙った。思わず共感を覚えてしまうことを言われ、それ以上の説得する言葉は出てこなくなった。

 四蛇は新鮮な気持ちで、乞除の顔をまじまじと見た。


 話が終わり、喧々たちと一緒に遊ぶのも悪くないと四蛇が外へ出ようとしたとき、不思議な声がした。


「うう、いおあ」


 急に聞こえた唸り声の主は、佐治だった。


「ん?」


 乞除が佐治を促すと、さらに何かを言った。佐治はぎこちなく口を動かしながら、わずかに身振り手振りをする。その声が人間の言葉によく似ていることに又旅は気づき、聞き取ろうとしたが、何を言っているのかは分からなかった。子音を発音できないらしい。


「お人よしだって言うんじゃ」


 乞除の言葉に対し、佐治はまた何かを言った。


「佐治は、なんだって?」


「力になれるかもしれないから、翻訳してくれと言っている」


 四蛇の口から、思わず「おお」という感嘆が洩れた。憑き物と言えど、まともに意思疎通ができそうだったからだ。乞除は気が進まない様子だったが、それでも佐治の言葉を黙って聞き、それを翻訳した。


「憑き物になったあと、ノウマと行動を共にしていた時期があったんだと。それで、気づいたことを伝えたいと言っている」


 佐治が少しずつ話し、乞除が時間をかけてみなに説明した。



「まず、憑き物にかかっている蜃の術についてだが、ノウマは普通の姿に見えるらしい。おそらく、攻撃対象の生き物のみ、化け物に見えるのだろう、と言っている。


 そして……ノウマにも、憑き物と同じ呪術がかかっているかもしれない。ノウマは力が弱いが、憑き物を敵、つまり人間から守るために戦っている、とのことじゃ。


 えー、そして、ノウマは女性らしい。人間によく似ているけど、肌がまだらになっていて、人間と同じ部分と、灰色で毛が生えている部分とがあるらしい……。


 一つ目に見えるのは、仮面をかぶっているだけで、本当の顔は、人間と似たつくりなんだと」



 又旅が器を落とし、木彫りの器は床にごろんと転がった。

 大きな音に、四蛇の心臓が跳ねる。


「ヘドリアかもしれない」

 又旅の言葉に、みな顔を上げた。


「ノウマがヘドリアなら、ノウマにハカゼが使える理由も説明がつく。センポクカンポクの血が流れているからな」


 そう言いながら、又旅は、自分がナミクアへ継承された後のことを思い出した。庵或留の屋敷で、ナミクアの姿をした自分に、ヘドリアは『アノア』と声をかけているのだ。魂が見えているのは確実だった。


 それから乞除は、佐治に詳しく質問して、ノウマが間違いなくヘドリアであることを確かめた。


「魂が見えるなら、他の生き物の魂を見て、化け物じゃないと分かるんじゃないの」


 四蛇が気づいたが、佐治の話によるとノウマは、今は魂が見えない状態らしい。他の生き物が化け物に見えるのとは別で、魂が見えなくなるような蜃の術がかけられているのかもしれない。


「なんということだ」


 又旅は椅子に深く座り、途方に暮れた。蕪呪族の村で自分の家に帰ってきた時と同じような、悲しみを深く刻んだ顔をしていた。


「なんと残酷な……」


 又旅はすっかり元気をなくしてしまったようで、何もしゃべらなくなった。


 やがて日が傾き、ワロは自分の集落へと帰った。又旅と四蛇は、乞除の家の表にテントを張り、今夜はそこで眠ることにした。茶々は遊び疲れたのか、一番初めにテントの中へ入ると、すぐにすやすや眠った。


 喧々は佐治のことが気になっている様子で、佐治の足元から離れようとしなかった。喜ばしいことに、喧々は蜃の術が解けたことで、随分人懐こくなったようだ。

 夕飯の席で、喧々を引き取ることを乞除が提案し、又旅はその言葉に甘えることにした。人間の近くで暮らすのは、喧々にとって不自由で危険だと思ったからだ。それに、ここに喧々を預けておけば、又旅自身も自由に動けることになる。


 夕飯の後、四蛇はテントに籠り、六鹿に宛てて浮文紙を書いた。今日は報告する事が多い。四蛇は手が疲れるほどの長い文章を書いた。


 翌朝、又旅は四蛇によって、強引に起こされた。


 寝ぼけたまま身体を起こすと、目の前に浮文紙を突き付けられた。そこにはいくつかの文章が書かれていたが、大きく『逃げて ヨアとリアが四蛇たちのところへ向かってる』と書いてあるのがまず目に入った。


「六鹿からだ。ナツメに聞いた情報らしい。これがいつ書かれたものか分からないけど、名曳の術で乗り物に乗ってくるなら、もう、すぐそばまで来ているのかもしれない」


 又旅は跳ね起きて、荷物を乱雑にまとめた。

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