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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
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7-17

 みなに促されると、ワロは佐治の方を向き、おずおずと言い出した。


「わしはフッタチで魂が見えるんじゃ。お主、元々何の生き物じゃったか、言ってもいいかの?」


 すると、佐治の代わりに、乞除が答えた。


「佐治は、自分の正体を知っておる。この里には他にもフッタチがいるからな」


「そうか……」


 ワロは改まった顔をして、又旅と四蛇の方を向いた。


「この憑き物は、人間じゃ」


 四蛇は器を取り落とすところだった。憑き物の中身が、人間?


 まじまじと佐治を見つめる。佐治はまっすぐ前を見つめたまま、指一本動かさない。これが、元は人間だったと言うのか。憑き物に野干の魂がついているのを知った時とは異なり、ひどく動揺した。同じ種族だったことで、自分の身に起こってもおかしくないと思ったからかもしれない。また、深く同情してしまったからかもしれない。

 佐治は、憑き物になってから、人を殺めたのだろうか。

 一気にそこまで想像が進み、四蛇は考えを振り払った。四蛇は、自分がひどく怯えていることに気づく。


「なんと……、人間だった頃のことは、覚えているのか?」

 又旅が尋ねると、乞除が首を振った。


「いや、憑き物になってからの記憶しかないらしい」


「そうか……」


 四蛇は気分が悪くなってきた。


「五馬も……もしかしたら……」


 言葉にするのが恐ろしくなって、四蛇は口をつぐんだ。五馬も、もしかしたら、蒼羽隊ではなく憑き物にされた可能性があるのだろうか?


 顔色を変えた四蛇を横目に、又旅が「それは分からないだろう」と首を振った。


「憑き物にされる人間と、蒼羽隊にされる人間がいるなら、どういう分け方をしているんだろう」


 四蛇の疑問に対してワロは何か言おうとしたが、迷った末に口を閉じた。みんながワロに注目すると、「顔付きになる前のことも、お主の魂を見れば分かるんじゃ。もし知りたければ、教えるが」とだけ、佐治に向けて言った。


「他のフッタチにもそう言われたが、まだ知りたくないらしいんじゃ」

 代わりに乞除が答える。


「蒼羽隊にいると思っていた五馬は、憑き物にされた可能性が出てきた。そして幸いにもそうではなく蒼羽隊にいる場合だとしても、顔が変わっている可能性がある。本人に記憶もないから、見つけるのは絶望的、というわけだ」


 四蛇は身振りを交えて、投げやりに言う。


「もし、五馬と思われるやつを見つけたら、わしが魂を見てみよう。長く妙丸の里を離れる気はないが、もし煙羅国などに行ける良い機会があれば、五馬探しに付き合うこともできるかもしれない」


 ワロの申し出に、四蛇は素直に感謝した。


「例えば、わしらがなんらかの方法で魂を見ることはできんか」

 又旅が提案する。


「日常的に魂を扱う呪術を使っていれば、やがて見えるようにはなるかもしれない」

 乞除が答える。


「魂を扱う呪術……」


 四蛇はいったいどんな恐ろしい呪術がそれに含まれるのだろうと、眉を顰める。又旅があることに気づいた。


「待て、そうか。蒼羽隊の、甘依の術がそうかもしれない。六鹿から聞いた話だが、蒼羽隊が憑き物を殺す時に使う呪術らしい。芯石の上で、何かを縛るような仕草をするんだと。それって……」


「ハカゼにしているということだろうな」

 乞除があとを引き取って言った。


「ああ。その術を使い続けていると、頭の上に、何かが見えるようになるらしいが、魂が見えるようになるということだろうな」


「何度も呪術を使い、より深く理解し、可視化されるまでに至ったということだろう」


 又旅の推理は当たっているようだったが、五馬を見つける助けにはならなさそうだ。


「蒼羽隊をひとりずつ半殺しにして、アヌ人形が冷たくなるかどうか確かめるという方法は、どうかな」


 みな、真面目な顔をしていて四蛇の冗談に笑わなかったが、乞除だけが「そりゃいいな」と笑った。


 茶々は話に飽きたのか、喧々と机の下で追いかけっこを始めた。あまりの騒々しさに、乞除は彼らを叱り、家の外へ叩き出した。又旅は喧々のことを心配したが、乞除が大丈夫だと言うので、大人しく椅子に座った。


「そういえば、蒼羽隊はわしらのように、ばらばらになっても元に戻るんかの?」

 ワロが尋ねる。


「そうか、蒼羽隊もワロドンののど骨を使っているってことは、憑き物みたいに再生する力があってもおかしくない。俺は、そんな話聞いたことないけど」


 四蛇はそう言ってしばらく考えていたが、何か思いついたのか「いや」と言った。


「関係ないかもしれないけど……、六鹿から聞いた話がある。翠羽隊の、ものすごく良く効く薬があるらしい。希少だから蒼羽隊にしか使われないそうだ。スムヨアともう一人の副総督の、リアという人物の呪術で作っていると言っていたかな。それを使うと、普通よりもずっと早く傷口が塞がるらしい」


「つまり、そんなもんは嘘っぱちで、普通の人間より傷が治るのが早いのは、蒼羽隊の魂がワロドンののど骨に紐づいているから、とも考えられるということか」


 又旅が話を整頓する。


「でもさ、憑き物との戦いで、致命傷を受けることもあるだろ。そういう場合は、救助を諦めてその場に残して逃げることや、死んだと判断して遺体を持ち帰ることがあるかもしれない。それがまた生き返ったら、大騒ぎになるんじゃないか」


 又旅はそれもそうだ、という顔をしたが、しばらく考えてから答えた。


「致命傷を負った蒼羽隊が残された場合は、前にわしらが見たように、憑き物に飲み込まれて連れ去られるんじゃないか。そしてノウマの手によってハカゼにされる。あと、本部に持ち帰られた遺体は、スムヨアの元に運ばれるのだとしたらどうだ。彼女なら、生き返る前に庵或留に引き渡したり、もしくは何らかの方法で本当に殺したりできるのかもしれない」


「うーん、それでもどこかで綻びが出そうな気がするけどなあ」


「たしかにな。もしかしたら、スムヨアの記憶喪失の呪術は、わしらが考えるより日常的に使われているのかもしれん。蒼羽隊について知るほど、その構造は杜撰で、呪術と運頼りのように思えてくるんだ。誰が作ったのか知らんがな。それより、わしにも気づいたことがある。さっき四蛇の言っていたリアという人物。それが、わしが地下で会った、ヘドリアを名乗る女だと思う。どこかで見たような気がしていたが、前に、名曳とスムヨアと一緒に新聞に写っていたのを見たわい」


 又旅は茶で唇を湿らせて、また苦そうな顔をした。


「憑き物にかかっている呪術を見たとき、魚冥不が生きている可能性について話しただろう。四蛇が言っていたように、あいつ自身ものど骨を使って、別の身体で生きているのだとしたら、ヘドリアを名乗る女が魚冥不なのかもしれない」


「それは、確かにありそうな話だ」


「どうしてヘドリアを名乗るのか、分からないがな。似せる気もまるでないようだし」


「ヘドリアは、優しい子じゃった」


 乞除が呟き、ワロと又旅が静かに頷いた。

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