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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
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7-14

 いつの間にか、又旅の喧々との生活は、一年以上にも及んだ。

 エノキには、浮文紙で家賃を払わせてほしいと申し出たが、不要との連絡が来た。家を守って使ってくれるので、逆に助かっているとのことだった。


 予想よりはるかに時間がかかってしまったが、喧々との仲は、着実に深まっていた。

 家の外へ連れ出すことはまだできないが、家の中で放しておいても危険ではなくなった。さすがに喧々を出したまま眠るのはまだ怖かったが、なんとなく、喧々の考えていることが分かるようになってきたし、こちらの言っていることをくみ取るようにもなってきた。

 早い段階で、喧々には野干の魂がくっついていると、ワロが教えてくれたのが良かったのかもしれない。又旅は野干に接するつもりで、関係を構築してきた。


 ある日、家に四蛇がいる時に、喧々に対してムネンコの術を試みた。喧々は初め、不思議がってその術を拒んでいたが、何度か試すと、その意味を分からないまま受け入れてくれた。


 喧々に憑いた又旅は、仰天した。


 目の前に化け物が現れたからだ。目を背けたくなるような醜い見た目。凶悪な顔つき。又旅は慌てて術を解き、自らの身体に戻ると、そのまま部屋の隅へ逃げた。


 しかし、部屋の中に残っていたのは、怯えた様子の喧々と、あっけに取られている四蛇だけだった。

 四蛇にたった今起こったことを説明したが、彼の方からはその化け物が見えなかったらしい。


 冷静さを取り戻した又旅は、どうやら化け物に見えたのは、四蛇の姿らしいと考えた。

 怯えた喧々をなだめすかして、もう一度ムネンコの術をかけられたのは数日後だった。再び姿を現した化け物に「四蛇か?」と尋ねようとしたが、喧々に口がないため声は出なかった。こちらの仕草で何かを察したのか、化け物が何やらしゃべったが、その言葉は又旅には理解できず、身の毛がよだつほど不快な音となって耳に届いた。

 喧々と仲良くなるのに時間がかかった理由が、分かった気がした。


 その次にムネンコの術を試した時は、喧々に憑いた又旅が四蛇の鞄に入り、彼に家の外へ連れ出してもらった。


 鞄の隙間から外を見ると、人や生き物がみな化け物に見えた。村の外れの牧場では、身の毛がよだつような、いろんな生き物が見られた。憑き物からは、こんな風に見えていたのか。又旅は憑き物に深く同情した。


「なんらかの呪術だろうな」

 部屋に戻って術を解き、又旅は言った。


「他の生き物に敵意を向けるために、こういう呪術をかけられているのだと思う」


「憑き物全員がかけられているのか?」


「分からんが、もしそうなのだとしたら、こんなに強烈な幻覚の術……わしらは蜃の術と呼んでいたが、これをかけられるのは、あいつだけだ」


 又旅の瞳が陰った。


「もしかして、魚冥不?」


「ああ。死んだはずだが」


 四蛇が勢いよく又旅を振り返った。


「そうだ、魚冥不も、憑き物と同じようにしたんじゃないか?つまり、魂をのど骨に付け替えて、別の身体にくっつけた」


 四蛇は、そうに違いないと思った。


「そうか、ナミクアは最期、ハカゼだったはずだ」


 ハカゼでナミクアの身体に絡まった魚冥不の魂を、庵或留がのど骨にくっつけた。その時に、ナミクアの身体から魂が奪われたことで又旅を継承した。魚冥不の魂がくっついたのど骨は、胎児の術によって別の身体とくっつけられた。そういうことだろうか。


 又旅はしばし考え込むと、椅子に深く身体を沈め、浅く長い溜息をついた。


「あちらに魚冥不がついているとなると、状況はかなり深刻だ。庵或留と違った意味で厄介なんだ。名曳が心配だ」


 四蛇は、自分に蜃の術をかけられたときのことを想像して、興味が湧くのと同時に恐怖した。


「魚冥不が相手となると、あの人を探し出さないことには、どうにもならない」


「あの人……?乞除か」


 乞除は、どうやら生きているらしい。


 随分前に、ワロからその情報を聞いていた又旅だが、喧々を置いて危険な旅に出ることを考えると憚られていたのだ。

 しかし、事情は変わってきた。又旅は乞除を探すため、旅の準備を始めた。


 喧々への愛情から、蜃の術を解いてあげたいという気持ちがあるのも理由の一つだが、それだけではない。憑き物に蜃の術がかかっていることが分かったため、もしかしたら名曳やスムヨアにも、同じような術がかかっているかもしれないと判断した。

 今後魚冥不と対峙することになるかもしれないと思うと、解呪に長ける乞除の力は、強力な味方になる。もし乞除が同行してくれることにならなくても、上手く説得できれば、油隠の憑き物の解呪を進め、敵意や狂暴性を損なわせる活動ができるかもしれない。

 乞除の力は今の油隠にとって、非常に重要な役割があるのかもしれないと、又旅は思った。


 ただし、乞除の性格をよく知っている又旅には、協力してくれる見込みが薄いということも分かっていた。今回の旅では、安否の確認と、今後連絡を取れる状態にすることが、最低限の目標だった。


 そういえば、喧々と茶々はいつのまにか和解し、すっかり友達になったようだ。

 喧々にはまた鞄に入ってもらい、又旅、四蛇、茶々、ワロは、妙丸の里へと出発した。

 ワロが苦心して、やっと見つけてきた情報によると、乞除は、妙丸の里の案外ここから近い場所に住んでいるらしい。

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