7-11
又旅は言っている意味が分からず、ワロの顔を見つめ返した。四蛇とワロの間では、帰りの道中で既に話がされているようだ。
「ナツメの今の顔と、生まれ育った元々の顔が違うんじゃ。それに、あの子には左腕に大きな痣があったようだが、今はそれがなくなっているんじゃ」
又旅はその意味を考えてから、ゆっくり言った。
「庵或留は、ハカゼの患者をそのまま蒼羽隊にしているんじゃなくて、ワロドンののど骨を使って、別の人間の身体とくっつけている。そういうこと?」
「その可能性もあるし、胎児の術で顔や身体を変えているという可能性もある。やつの術は、時間はかかるものの、非常に繊細な表現ができるからな」
「人間の身体や顔を作り変えるとなると、すごく時間がかかりそうだけど」
庵或留の術は、昔何度か見たことがある。大雑把に作り変えるのは短い時間で簡単にできるそうだが、細かい部分まで作り込むとなると、大変な作業になり、その分時間もかかるのだ。
たとえば、巨大なイクチの巣穴を土で塞ぐことよりも、精巧なアヌ人形を作る方が、時間がかかるだろう。
「あいつのことをよく知ってるわしからすると、本物の人間の顔を作るというのが、あいつにとって時間を忘れるほど楽しいことだとしても、違和感はない」
又旅はあることに気づいた。
「ちょっと待てよ、じゃあ……」
「五馬も、顔が違うかもしれないってこと」
又旅の言葉を、四蛇が引き継いで言った。
「……そうなると、見つけるのはかなり難しいな。本人に記憶もないことだし」
「そうなんだよ」
四蛇はくたびれた溜息を吐き、机に突っ伏せるようにすると、浮文紙を取り出した。六鹿へ報告するのだ。
六鹿からの返事は翌日に来た。彼女も落胆しているだろうが、諦めるつもりはないらしい。名簿のようなものを探してみると書かれていた。六鹿の説明によると、蒼羽隊員には、白い手記というものが存在すると説明されているらしい。白い手記は、蒼羽隊に入る前、つまり記憶を消す前に、自身のことを書いておく手記なのだそうだ。その話自体は嘘っぱちということになるが、それに似たものがあるのではないかと、六鹿は期待しているようだ。
「庵或留か誰かが、蒼羽隊にした元の人間の名簿を控えているということ?」
又旅は期待の薄い反応をする。
「まあ、そんなもんはなさそうだけど、五馬を見つけるには、今のところそういうものがある可能性を信じて探すしかない」
仮にそういうものが存在するのだとしたら、庵霊院の中か、蒼羽隊本部の名曳の屋敷だろうとは思う。侵入するのは非常に難しいし、簡単に見つかるはずがない。それに、名簿として控えておく必要性がなければ、そもそも存在しない可能性も十分にある。
六鹿は、いったいどこをどうやって探すつもりなのだろうか。又旅は、六鹿に無茶だけはしないよう、念を押しておいた。
四蛇が筆を置くと、又旅が思い出したように言った。
「あとは、ワロさんに魂を見てもらうという方法があるな」
「それだ!」
魂を見られる知り合いが、四蛇には二人もいる。ワロとどんこだ。
もし協力してもらえるのだとしたら、一緒に煙羅国など蒼羽隊のいるところへ行って、五馬の魂を持つ蒼羽隊を探してもらうのが早いだろう。
しかし、どんこを煙羅国まで引っ張り出してくるのは、ほとんど無理だろうし、全く気が進まない。ワロについても同じだ。蒼羽隊の問題について、危険を冒してまで協力してくれているワロだが、五馬のことはワロ本人には直接関係のないことなのだ。
頼んでみるだけ頼んでみようか。
五馬だと思われる蒼羽隊を見つけ、ワロのところまで連れてきて、その魂を確認してもらうのであれば頼みやすいだろうが、それができれば苦労はしない。四蛇は頭を悩ませた。
ナツメには、名前をはじめ、家族や生まれ育った街のことなど、彼女の身の上の話を少しずつ話した。
機会を選び、顔と、もしかしたら身体も、以前とは異なっている可能性があることも、最終的には伝えた。
ナツメは時間が経っても、口数が少ないままだった。もし自分がナツメの立場だったら、あまりにも普通ではない状況と突飛な話に、いったい何を信じればいいのかと途方に暮れるだろうと、四蛇は思った。
又旅は家の二階に彼女を住まわせ、なるべく自然な生活を心がけて、彼女が十分に考えられる時間を作った。
ある晩、ナツメが四蛇に、助けてくれたことについて感謝の言葉を口にした。四蛇は、勝手な行動から巻き込んですまないと謝りながらも、どこか許されたような、ほっとした顔をした。
時間はかかったものの、ナツメは又旅らの話を信じ、時折笑顔も見せるようになった。特に茶々と仲良くなったようで、二人同じベッドで眠る姿を見かけるようになった。
ナツメがこれからどうするのか、誰も口に出さないまま、時間が過ぎて行った。
四蛇とワロは、瓜呪族の村を拠点に、精力的に旅を行っていた。旅の目的は、情報収集や、人助けなど、五馬の件や蒼羽隊の件に直接関わらないものも含まれた。そして旅に必要な物資や金を集めるため、村に帰るたびによく働いた。
ナツメは結論を出さず、ただ静かに生活を続けた。
又旅は喧々との仲を深めるのに手こずりながらも、ナツメと共に、四蛇の帰りを待つ生活に幸せを感じ始めていた。




