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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
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7-4

「私、エノキに頼んで、翠羽隊に入れてもらおうと思う」


 夕食の場での、その六鹿の言葉に、四蛇はむせた。

 予期していなかった言葉に、又旅も口に運んでいたコップを机に戻す。


「は?」


「エノキなら、斡旋する力があると思うの。蒼羽隊に潜入するのは難しいと思うから、翠羽隊に潜入して、五馬を探す」


「馬鹿だろ」


 六鹿はすでに覚悟を決めているのか、話し合うつもりはないといった態度だ。


「なんでそんないきなり……。他にやり方があるだろ」


「反対ってこと?」


「だって、翠羽隊に入るって、そんな……」


 四蛇は口をぱくぱくさせ、助けを求めるように又旅を見たが、彼女は何も言わない。


「危険だろ。場合によっては憑き物と戦わされるんだろ。いや、そんなことより、庵或留と蒼羽隊が関わってるんなら、それこそ危険だ。単身、敵の本拠地に乗り込むみたいなもんだよ」


 六鹿は、四蛇の言葉に耳を傾ける様子を示したが、それには答えず、意見を求めるように又旅を見た。


「わしは止めない」


 四蛇は困惑し、又旅の顔をまじまじと見つめた。六鹿は二人の意見は分かったというように頷いた。


「私、このままじっとしているなんて、嫌なの」


「そこまで言うなら、例のイクチの巣穴へ向かおうか」

 四蛇はこれで決まりだというように、早口で言った。


「それだったら、翠羽隊に入って五馬を探す方が手っ取り早いじゃない。それに確実な情報が手に入る。エノキに会えるというチャンスを無駄にするなんてもったいないし。まあ、エノキが承諾してくれるとも限らないから、言ってみるだけ言ってみるよ」


「五馬が蒼羽隊にいるんだとしたら、たしかに、入隊して自分の目で探すのが一番早いだろうな」と又旅が頷く。


「ただし、わしはついて行かんぞ。五馬を見つけるのに協力はしたいが、名曳のことも気になるんだ。それに庵或留と蒼羽隊とのつながりも、状況によっては見逃すことができないかもしれない。万が一、庵或留と対峙するようなことがあれば、やつにはわしだとすぐに分かるだろう。魂が見えるからな。ナミクアの身体を危険にさらすことも、できればしたくないんだ」


「うん、もちろん」


 六鹿にも、又旅を誘うつもりはなかった様子だ。又旅は少し考える。


「だが、そうだな……。わしは準備が整ったら、ムネンコの術を使いながら、例のイクチの巣穴の先へ行ってみようか」


 六鹿と又旅の二人の間で話が進み、四蛇は置いてけぼりにされたような形だ。

 何か言わねばと思うが、言葉を形成できない。六鹿を止めるにしても、二人に続いて自分がこれからどうするのか表明するにしても、何か言葉を発する必要がある。

 しかし、どういうわけか、頭の回転が急激に鈍くなっているのだ。


「……俺は……」


「五馬は、又旅と一緒に行動するのがいいと思う。私が潜入するから、二人には外にいて自由に動ける状態でいてほしいの」


 四蛇は、六鹿のまっすぐな瞳と目が合った。


 俺は、翠羽隊に入隊するなんて、考えもしなかった。そして、俺も入隊すると、すぐに言えなかった。それを六鹿に見透かされ、その上、気を使われた気がして、言葉が出てこなかった。顔がかっと赤くなる。


「そんなに危ないことしてまで、五馬を見つけたいのかよ」


「うん」


「俺は、自分の方が大事だ」


 四蛇は、震えを抑えるように両手を組みながら、そう吐き捨てた。その苦しそうな表情を見ながら、六鹿は、自分がそこまで言わせてしまったのだと気づいた。

 昔であれば、すぐに抱き寄せていただろうが、四蛇はもうそんな歳ではない。六鹿はぐっと堪え、四蛇の言葉を待つ。四蛇は、躊躇しながら言葉を続ける。


「それに、俺は、五馬より、今、目の前で生きている六鹿の方が大事だ」


 絞りだすようにそう言うと、四蛇は諦めたように脱力した。


 うなだれた四蛇と、困った顔をした六鹿を見ながら、又旅は目を細めている。


「まあ、わしも寂しいが、六鹿が行きたいなら、止めることはできないのお」

 又旅はのんびりと言う。


「うん、私は行きたい。ぐずぐずしていて後悔するのが、嫌だから」


 四蛇は喉に力を入れ、「分かったよ、分かった」と呟き、食卓を離れた。

 それから寝室に戻り、何度か目を瞬いた。


 自宅へ帰ってきたエノキは、昔会った時と同じ印象のままだった。はじめは二人のことを思い出せない様子だったが、車で九頭竜国から庵霊院へ行った姉弟だと自己紹介すると、「ああ、あの無茶する姉弟か」と思い出したようだった。


「無茶といえば、九頭竜国の若者がこんなところにいるのも無茶じゃないか。いったいどうして、どうやってここに?」


「私たち、蒼羽隊に入りたくて、煙羅国を目指して旅していたんです」


 考えてあった作り話をする。旅の目的が人探しであることはマツとマイも知っているため、二人には口止めしておいた。正直な事情を話すには、蒼羽隊の正体に関する全容も、エノキの立場も、まだ見えないためだ。


「旅してって、そこら中に憑き物がいるのに、一体どうやって」


「危ない目に何度もあって、やっとここまでは来られたんですけど、ここから煙羅国まで行く手段がなくって困っていたんです。エノキさん、私を煙羅国に連れて行ってくれませんか?」


 エノキは口を挟むのを止め、六鹿の淹れた茶を啜った。


「ただ、蒼羽隊に入ったら記憶を消されると、最近知ったんです。私、それだけは嫌なんです。だから、蒼羽隊じゃなくて翠羽隊に入って、蒼羽隊の手伝いをしたいんです」


「……たしかに、私が君を翠羽隊に紹介することはできるが、そもそも、どうして蒼羽隊の手伝いをしたいんだい?」


「弟をノウマのハカゼで殺されて、とても悲しかったんです。他の誰かが同じ思いをするなら、それを防ぐためにできることをしたいと思ったんです。私には、得意なことや才能がありません。夢もありません。でも、どこかの誰かを救うためなら、いくらでも努力できます。私が生き残ったのは、幸運であるというだけでした。私の残りの人生は、人の役に立つために使いたいんです」


 全く本心ではないこともないが、予め考えていた通り、少し大げさな言い方をした。愚直な人間の方が、軍隊に向いていると判断されるのではないかと思ったからだ。エノキは六鹿の熱弁を聞きながら感心したように頷いていたが、その後困ったなあという顔をした。


「ただなあ、二人ともとなると、難しいかもしれない。翠羽隊や蒼羽隊に入りたい若者はたくさんいて、人手は十分らしいんだ。紹介するだけならできるが」


「いえ、弟は、煙羅国へ行くつもりはないんです」


「俺は、憑き物を倒すよりも、ここで暮らしながら呪術の勉強をしてみようかなって」


 エノキはそれを聞いて、相好を崩した。


「なんだ、そうなのか」


「ええ、ここは妙丸の里も近く、面白い生き物が見られます。それに瓜呪族の村は、呪術の勉強をするのにぴったりの環境です。俺は、呪術に取り憑かれてしまったんです。この環境で勉強を続けるのが、俺の幸せなんじゃないかと思っています」


 四蛇は饒舌に、少し演技臭い話をしたが、エノキは満足げな様子だ。


「うんうん、君の気持ちは分かる。むしろ、私と君は気が合いそうだ。私も本当は、国の仕事を忘れて、ここで呪術の研究をしながら隠居したいと思ってるんだが……」


 それから、エノキはべらべらと仕事の愚痴と、呪術の楽しさを話した。


「申し訳ないんだが、お嬢さん一人だったとしても、翠羽隊に入れるかどうかは断言できない。私は関与していないが、試験のようなものがあったはずだ。もし駄目だった時、私の権限では、煙羅国の乗り物を動かして、ここまで連れて帰ることはできないよ」


「それでも構いません」

 六鹿は即答したが、四蛇は不安そうな顔をした。


「分かった。私が帰るときに一緒に煙羅国へ行こう」


「はい!」


「ところで、この子は本当によく躾けられているね。さっきからちっとも真似しない」


 エノキの脇で、茶々に取り憑いた又旅が身体を強張らせている。エノキは何の疑いもなく、それを撫でている。


「ええ、私たちとの旅が長いものですから」


 又旅は、エノキのことをまだ信用できないと言って、念のため茶々に取り憑いておいたのだ。エノキのいる二日間、又旅は村の外れにテントを張って過ごした。

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