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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
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7-3

 何も行動を起こさないまま、あっという間に数週間が経過した。

 一度、例のイクチの巣穴の横穴まで行ってみたが、何も情報は得られず、村の呪師たちからも、有益な情報は得られないままだった。

 四蛇はここでの暮らしが楽しそうだったが、六鹿は焦り始めていた。じっとしているのが嫌で、なんでもいいから行動すべきだと、二人に何度か訴えたが、六鹿にも、あの巣穴の先へ行ってみる以外の案はなかった。


 この村は、煙羅国の人間が住むザムザとも近いが、妙丸の里とも近い位置にある。そのため、見たことのない生き物が多くいた。瓜呪族の呪師たちは、妙丸の里の生き物とうまくやっているようだが、基本的に、妙丸の里の生き物は人間をひどく嫌っている。

 特に余所者である六鹿たちには危険だった。何度か怖い目に遭い、そのたび六鹿と四蛇はぷりぷり怒りながら家に帰ってきた。


 エノキが誰と暮らしていたのかも、やがて判明した。

 ハルバという、カシャンボと人間の間に生まれた子と暮らしていたのだそうだ。ハルバはもともと妙丸の里で生まれたそうだが、まだ幼いうちにひどい迫害を受け追い出された。混血だったからだ。

 エノキは、それを不憫に思い、父親代わりとして一緒に暮らしたのだそうだ。エノキはハルバの実の父親ではないが、呪術を教え、今では二人とも、煙羅国で活躍しているそうだ。

 四蛇がベッドに寝ころびながら「顔も知らない人のベッドを使うのは、なんだか気兼ねしちゃうな」と言った。


 ある時、テンジという生き物の集団が、村に現れた。テンジらはやかましく楽器を打ち鳴らしながら、不思議な踊りをして村中を回る。

 あまりの騒々しさに何事かと思い、六鹿は慌てて家を飛び出したが、テンジたちがあまりに楽しそうなので、思わず笑みがこぼれた。


「テンジは、仲間が死んだときにああやってお祭りをするんだ」


 又旅の説明に、六鹿の笑顔が固まる。


「彼らの考えは、わしらとは全然違うんだ。死は悲しいものだという点は一緒なんだが、死者をいつまでも想うということはせん。誰かが死んだらすぐに祭りをして、笑うことでその死と、死者を忘れるんだ。そしてはじめからいなかったことにする。死者の身体はすぐに川に流される。死者の家は壊され、死者の持ち物は燃やされる。三人兄弟の一人が死んだら、はじめから二人兄弟だったことにする。夫が死んだら、すぐに新しい夫を迎える」


「へえ、」

 四蛇は好奇心から、それを面白い風習だと思ったが、六鹿の言葉を聞き、その先の言葉を飲み込んだ。


「なんてひどい」


 四蛇は自分が咎められているような気持ちになり、つい文句を言う。


「そういう反応をするの、やめとけば。その生き物にはその生き物の価値観があるんだから」


「私は人間だから、人間の価値観でひどいと思っただけだよ」


 四蛇が言い返してこないのが、妙に六鹿の胸をざわめかせた。

 四蛇とは、揉めたくない。そして、自分自身がこれ以上傷つきたくないと思った。


「ごめん」


「ごめんって言われると、こっちが悪いみたいだ」


 謝ってだめなら、もうどうすればいいのか、六鹿には分からなかった。揉めたくないから謝ったものの、そもそも、私は謝る必要があるようなことを言ったのだろうか。どうしてこんなにつっかかられるのだろうか。


「四蛇は少し、冷たいんじゃないの」


 尻すぼみに呟いた六鹿の言葉を、四蛇はちゃんと聞き取ったようだった。傷ついた顔をして、黙ったまま家を出て行った。


 六鹿は既に後悔し始めていた。言い負かしたいのではなく、苛立たないでほしいのだ。どうしてこう、上手くいかないのだろう。四蛇の言っていることと、私の言っていることと、どちらが正しいかなんてどうでもいいのだ。

 四蛇を冷たいと言った自分の言葉を反芻し、心が冷えていく。彼の柔軟で大らかな優しさを、本気で羨ましいと思っていたのに。今追いかけてそれを伝えても、言い訳がましくなるに違いなかった。


 馬鹿なんじゃないか、あいつ。四蛇は舌打ちをした。

 いつも後ろ向きなことばかり言って、話を停滞させるんだ。せっかく和解しようとしても、すぐに謝るから対等な話もできない。六鹿が困ったり悲しんだりしているのを見ると、平気な自分が悪者みたいな気分になる。

 五馬のことだって、この旅に出るまでずっと一人で抱え込んで暗い顔をして。まるでいつまでも悲しみ続けることが正しいみたいで、俺はすごく嫌だった。


 四蛇は足を止める。俺は、冷たいのだろうか。誰かのためにめそめそすることが優しいとは思わない。でも、死んだとされていた兄の話題や、それを悲しむ姉のことを煩わしいと思う俺は、冷たいのだろうか。

 五馬だったら、きっと上手くやってる。

 四蛇は自分の中の劣等感に気づき、さらに苛立った。


 翌朝、マツが家を訪ねてきた。又旅と茶々が朝食を取っているところだった。六鹿と四蛇は昨晩眠れなかったのか、まだ起きてきていない。


「エノキが帰ってくるそうです」


「本当ですか?」


「一週間後に帰ってきます。二日ほど滞在して、すぐにとんぼ返りするそうで。家を貸していることも伝えたんじゃが、そのまま使っていていいとのことです」


「それは助かるが……」


 その知らせを聞いて、六鹿と四蛇は目を輝かせたが、夕飯の時には、六鹿は思い詰めた顔をしていた。落ち込んでいるというよりも、何かを真剣に考えているようだ。昨日、二人が珍しく言い合いをしていたので、それが原因かもしれないと又旅は思った。


 又旅は、六鹿にナミクアを、四蛇にラドメア、つまり目有を重ねて考えることがあった。目有は、ナミクアが姉で、やりづらいところが多少あったのではないかと思う。

 もちろん、姉のことは大好きだっただろう。ただ、ナミクアの方に、周囲の人間に『自分はちっぽけで冷たい人間なんだ』と思わせるような力があったのだ。

 そう考えると、六鹿は確かに良い子だが、ナミクアよりも、ずっといい意味で人間らしいとも思う。


 そして又旅は、実の娘のナミクアが多くの人間に尊敬され愛されていたという事実を、自信を持って母親面できなかったことへの免罪符のように感じており、そのことが、自分が卑小な人間であることを何より表していると思っていた。


 そういえば、出会ったばかりの頃、六鹿と四蛇のことを似ているように感じたが、最近は個性が目立ってきたように思う。環境や役割が変わって、性格や価値観に違いが生まれたのかもしれない。

 二人は、多少素直な気持ちでぶつかった方が、きっと良い関係になっていくだろう。

 又旅は親のような気持ちで、二人のことを思った。

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