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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第七章 六鹿と四蛇
65/124

7-1

 イクチの巣穴に入って、一週間ほど経過しただろうか。六鹿には、今が昼なのか夜なのかすら、分からなかった。


 イクチの巣穴を行くのは、想像していたよりも、ずっと過酷な旅だった。

 巣穴には、暗闇を好み、見た目が好ましくない生き物が多く住んでいたため、はじめのうちはそれに驚いたり逃げたりするので体力を使い、神経をすり減らした。

 これではこの巣穴を抜けることはできないと、見て見ぬふりを決め込んでからは、暗闇との戦いだった。暗闇が、これほど苦しい気持ちにさせるものとは、知らなかった。特に、四蛇はすっかりふさぎ込み、ほとんど無言だった。


 出発の前は、蓑火をうっかり消してしまわないように注意する必要があると思ったが、その心配は不要だった。

 蓑火の明かりだけが頼りのため、うっかり忘れるなんてことは、起こりようがなかったのだ。


「にゃんすー」


「風が吹き込んでいるらしい」

 又旅が茶々の言葉を通訳する。


 しばらく行くと、茶々の言った通り、遥か先にわずかな光が差し込んでいるのを見つけた。

 一行は水を得た魚のように、しゃきしゃきと歩き、洞穴の高いところに、横穴が空いているのを見つけた。三人は泥だらけになりながらそこを上ると、地上へ這い出した。


 地面に寝ころび、陽の光を浴びる。日光浴を楽しみながら、食事の準備をした。風を感じ、陽の光を浴びながら食べる食事は、暗闇で食べるよりもずっと美味しかった。日の高さを見ると、ちょうど昼を回ったころのようだ。


 その場所を離れがたく、ついつい半日ほどそこで過ごしてしまったが、目的地はまだ先だ。暗くなった頃、また巣穴の中へ戻った。


「にゃんすー」

 暗闇の中へ戻ってから、どれほど経っただろうか。茶々が、また何か言った。


「音がするらしい」


「にゃんすー」


「後ろからだ」


 三人は穴の端へ寄ってしゃがみ、耳を澄ませた。

 確かに、わずかな音を耳で捉えることができる。ただし、まだ遠いのか、音の種類が分からない。


 嫌な想像が頭をよぎる。この巣穴はもう何十年も使われていないと聞いたが、万が一、イクチがやってきたのだとしたら、どうしよう。

 六鹿は巨大な生き物が迫ってくる様子を想像し、身震いした。私たちはどうなるだろうか。押しつぶされるか、すりつぶされるか、食べられるか。


 三人が緊張したまま身体を寄せ合っていると、茶々はなぜか、前足で横壁を掘り始めた。


「私たちも掘ろう」


 鞄の中から、掘りやすい形状の工具を適当に見繕い、土を掘り始める。四蛇は固い手袋をはめて、手で掘り進めた。湿っているためか、土は案外柔らかい。


 掘り始めてすぐ、向こう側へ突き抜けたので、三人は驚いた。掘っていた方向に、空間があったのだ。

 蓑火の入ったカンテラを差し入れると、そちらもイクチの巣穴のようだった。二本の巣穴が、すぐ近くで並んで通っていたようだ。


 穴を少し広げ、三人と一匹は向こうの巣穴をよく見た。音は、向こうの巣穴でするようだ。右手、つまり一行が歩いてきた方向から、何かが近づいてくる。

 やがてうっすらと輪郭が見えたが、それは生き物ではないようだった。とても速い。

 あれは、大きな台車だろうか。


 それが通り過ぎる瞬間、三人は身を乗り出して、それを見た。台車の上には、細長い何かが並べられていた。

 六鹿が思わずぱっと口を覆い、はずみで口に入った土を、慌ててぺっぺと吐く。


「人?」

 四蛇が短く確認する。


「子供だった」

 又旅が言った。


「死体かしら」


 そう思うのも無理なかった。あれが生きている人間なのだとしたら、もう少し乗り心地が良い工夫がしてあるはずだった。敷物や布団のようなものもなく、窮屈な荷台に、物のように人が並べられているように感じた。


「まて、あれが蒼羽隊ということか?」

 又旅が言った。


「庵霊院で集めた人間を、こうやって地下から煙羅国の本部に送っているんだろうか。少なくとも、あの台車は、名曳が動かしていると思っていいだろう」


 又旅はそう言って、自分の言葉の意味を考えるように黙り込んだ。


「とんでもないもん、見ちまったな」


 四蛇が片頬を上げるようにして笑った。


「この通路を南へ行けば、もしかしたら煙羅国の、蒼羽隊本部に着くのかな」


「この場所は覚えておこう」


 一行は旅を続け、どんこからあらかじめ聞いていた、目的の出口を見つけた。

 本当に長い旅だった。

 出口となる穴の付近は、地面が踏み固められていた。足を滑らさないようにお互いに手を取り合って、地上へ出る。

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