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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第六章 句朗
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6-10

 本部へ帰り、二日が経った。

 桂班は特別に休暇をもらったが、入と史紋は比較的軽傷だったため、近場に現れた憑き物退治に、駆り出された。


 任務を終えた入が、見舞いのため名法師の屋敷を訪れると、病室には三つのベッドが並んでいた。

 傘音と鼓童はまだ横になっているが、句朗はベッドの脇に立っている。


 句朗は、怪我だけではなく精神的な疲労や煙を吸ったことが災いし、しばらく目を覚まさなかったが、回復は早くすでに自分の部屋に戻れる状態だった。

 傘音は腹を裂かれ、一時は絶望的だったが、治療が間に合い、今では安定した様子だ。

 鼓童は、足を怪我したまま無理をしたのが良くなかったらしく、歩行がしばらくぎこちなくなるそうだが、今ではぴんぴんしていた。横になっているのは、彼がただ怠けているだけだ。

 鼓童は怪我の苛立ちを隠そうともしなかったが、傘音が鼓童に優しくなったことには、戸惑っている様子だった。


「木偶、あの時知らせてくれてありがとう」


 窓枠に乗った句朗の木偶を、入が指でちょこんとつつくと、木偶はカタカタと揺れた。それがまるで笑っているように見えて、二人は顔を見合わせた。


 入は句朗を連れ、病室を出た。隣の部屋に入ると、そこには火湯と、羅愚来がいた。


 羅愚来は、一命を取りとめた。

 そして、白紙に返った。


 火湯が、ベッドのすぐ傍に座っていたので、句朗は意外に思う。

 普段の二人の関係であれば、羅愚来が火湯を近づけないよう不機嫌な顔をして、火湯が腕を組んでベッドからなるべく遠くの壁にもたれかかっている光景が思い浮かぶところだ。

 羅愚来は全身を包帯でぐるぐる巻きにされており、大人しく横になっている。


「桂班の、句朗と入だ」

 火湯が羅愚来に紹介する。


 羅愚来は、じっと二人を見つめ、何も言わない。不機嫌なのではなく、本当に口を開くのが苦しいのだろう。

 羅愚来はかすかに頷いた。


 句朗は、どんな顔で会えばいいのかと、勝手に思い悩んでいたのだが、本人にあの時の記憶がないので、置いてけぼりにされたような気分だった。

 火湯と羅愚来が静かに言葉を交わしているのを見ると、嬉しいような悔しいような、形容しがたい気持ちになった。


 句朗は、羅愚来の驚愕の表情を思い出す。

 あの時、句朗の膝の上で、白紙に返ったのだろう。

 羅愚来は、何かを見たのだろうか。それとも、何かに気づいたのだろうか。これ以上の思考は危険だと思い、今度夢の中へ行ったときに考えることにした。


「迷惑をかけて、ごめんなさい」


 羅愚来が火湯に呟き、火湯はその顔をじっと見つめ返す。彼は視線をそらして「いや」とだけ言った。


 二人は病室をあとにした。


「羅愚来はもう、十何回も白紙に返ってるんだ。いつも、その直後はあんな風に素直なんだけど、時間が経つにつれてなんと言うか、狂暴化して、無茶な戦い方をするようになるんだ。それからいつも、爆発するように白紙に返る。いつか死んじゃうよ」


 句朗の部屋へ向かいながら、入は句朗に説明した。

 彼女の顔は暗い。


「あとね、頭の上のあれだけど、憑き物の上にも見えるようになったんだ。私がそれに気を取られていたから、傘音に怪我をさせてしまった」


 自分のせいで傘音が怪我をしたことが、悔しくて仕方がないようだった。

 しかし、憑き物の上にも見えるとは、どういうことだろうか。


「憑き物の場合は、その身体じゃなくて芯石の上に見えるんだ」


 燃え盛る炎の中で、入が顔付きの芯石を素早く持ち帰ってきたのを思い出す。


「だから、顔付きの芯石もすぐに見つけられたのか」


「うん。これが見えちゃいけないんだとしたら、私には時間が残されていないと思う」


 早急に解呪の必要があるということだ。


「もし白紙に返っても、僕と竜胆で全部説明するよ」と慰めたが、自分が白紙に返った時、説明しようとする入のことを信じられなかったのを思い出し、急に自信がなくなる。


 自室の扉を開けると、随分久しぶりに帰ってきたような気持ちになった。

 はじめは他人の部屋のように感じて、どこか遠慮するような気分になったこの部屋も、今では自分の部屋だと思えるようになった。


 まず初めに例の、青い手記に挟まっていた浮文紙を取り出す。

 新しい方の浮文紙には、やはり返事は来ていない。

 古い方の浮文紙を確認すると、ヘビから、解呪の呪師と合流したとの知らせが入っていた。ヘビのことを信用してしまえたら、どんなに楽だろう。

 入と相談しながら、その本音を素直に伝え、なんとかして古井の身内で、かつ味方であることを証明してもらえないかと伝えた。


『分かりました。古井の身の上のことを話しても、あなたたちには真実かどうか確認が取れないので、古井の性格と、古井から聞いたあなたたちのことを説明します。まず古井ですが、一見しっかりしているようで、他人に甘く、お人よしで臆病なところがあります。誠実で、感謝や謝罪の気持ちを大切にしています』


「合ってる」

 入が言った。


『入は慎重な性格ですが、意外と幼い反応をする時があります。栗色の髪の女の子だと聞いています。句朗は人を笑顔にするのが得意で、のんびりした性格です。二人とも行動力が抜群で、驚かされると言っていました』


 句朗は、はたして自分はそんな性格だろうかと思案したが、入は少し興奮を滲ませて「当たってる」と言った。


「少なくとも、古井と私たちのことは、本当に人柄まで知ってるみたいだ」


「でもそれだけじゃ、まだ信用できないよ」


 句朗はその旨を記す。

 次の返事に、二人は驚いた。


『古井と、あなたたちしか知らないことを書きます。どうか、古井が私たちに話したことを、責めないであげてください。もしかしたら、既に白紙に返っているかもしれませんが、句朗さんは、魂が見えますね』


 二人は顔を見合わせる。


「魂?」


 何を言っているのかと思ったが、もしかしたら、と思い当たることがあった。追って『人や憑き物の頭の上に、何かが見えているはずです』の文章が浮かび上がった。間違いないようだ。


「これ、魂なんだ」

 入は青い顔で呟いた。


 句朗は相手を信用すると伝え、屋敷の地下に古井がいるという可能性と、そこへ入る黒い扉に、呪術による鍵がかけられていることを説明した。

 侵入することになるかは分からないが、その点でも、解呪の呪師は役に立ってくれそうだと思った。


 入が青い顔をしたまま部屋を出ていくと、句朗はベッドに横になり、思考を巡らせた。

 頭の上に見えるものとは、魂だった。

 魂は、どんなものなのだろうか。

 魂が見えると、白紙に返るということは、自分の正体のようなものが、そこに描かれているのだろうか。

 いったい、蒼羽隊の正体は何なのだろうか。

 例えば、実はどこからか攫ってきた子供だとか、実は人間そっくりの別の種族だとか、そういうことが分かったとして、記憶を消す必要があるほど、名法師らにとって不都合なことなのだろうか。

 何か後ろ暗いことがあるのだろうか。


 いや、このことを考えすぎるのは、危険かもしれない。何かに気づいたり思い出したりして、白紙に返る可能性がある。

 しかし、寝返りを打つと、句朗の思考はまた同じところに戻った。


 そういえば、憑き物にも魂があると、入やヘビは言っていた。憑き物は誰かが作った傀儡のようなものだと思っていたが、本当は、命のある生き物だった……?


 句朗は気味が悪くなってきた。

 布団を肩までかけ、足を布団の中へ引っ込める。

 助けを求めるように木偶に視線を向けると、それは机の上でカタカタ揺れた。

 まるでこちらを見下ろして笑っているように見えて、句朗は思わず手を伸ばし、その動きを止めた。


 ゆっくり手を離すと、木偶は身じろぎもせず、こちらを見下ろした。

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