6-9
憑き物を破壊できているなら、まず、憑き物が復活しないように、入を呼んで、なんとしてでも甘依の術をかけてもらう必要がある。そして、助けを呼ぶ必要がある。
このままだと羅愚来が死ぬ。
火湯か本部に連絡して、早急に迎えをもらわなければいけない。憑き物がまだ生きているのだとしたら、もう終わりだ。
「句朗」
また羅愚来が名を呼んだ。
「大丈夫。必ず助けます」
「違う、句朗、聞いてくれ」
句朗は逡巡したが、話を聞くよりも先にすることがあった。
それに、彼が遺言を口にしようとしているような予感がして、思わず聞くのを拒否した。
入を呼ぶにも、助けを呼ぶにも、木偶が必要だ。
句朗はポケットや服の中など必死に探したが、なぜか見つからない。燃えてしまったのだろうか。
「羅愚来、すぐに戻ります」
句朗は羅愚来を地面に横たえ、入のところへ走ろうとした。
「句朗!頼む!」
羅愚来が口から血を飛ばしながら、叫んだ。
句朗は足を止める。
「頼む。聞いてくれ。頼む」
句朗は羅愚来の必死の訴えに、心が揺れ動いた。
「声が、出しづらい。こっちへ来てくれ」
句朗は、引き寄せられるように羅愚来の元へ戻り、頭を膝の上に乗せて、耳を顔に近づけた。
「生きているのが苦しくて苦しくて、耐えられないんだ。もう、死にたいんだ」
句朗は口を挟まずに、黙って首を横に振った。
「愛していたんだ」
聞き間違いかと思い、句朗は彼の口に耳を近づける。
「俺は、愛していたんだ。でもそれが苦しくて苦しくて耐えられないんだ。死んだ方がましなんだ。愛してしまったんだ。あいつを、愛して……。たぶん、何度も、何度も、俺は同じことを繰り返している。もう、自分が可哀そうなんだ。耐えられないんだ」
句朗は困惑した。
いったい羅愚来は何の話をしているんだ。
「火湯、あいつのことを愛してしまったんだ。楽になりたいんだ」
句朗は言葉を失い、羅愚来の顔を見つめた。
「聞いてくれて、ありがとう。これで死ねる……やっと楽になる……」
羅愚来はそう言うと、ほっとしたように表情を緩めた。
「羅愚来、死なないで」
句朗は必死で呼びかける。
すると、羅愚来は閉じかけていた瞳を大きく開いた。
状況にそぐわないその表情に、不気味ささえ感じる。
彼は、何かに驚いている。
「私は……」
羅愚来はその呟きを最後に、全身から力を抜いた。
「句朗!」
その声に、句朗は安心のあまり涙がこぼれそうだった。
駆け寄ってきた入は、二人の姿を見て、言葉を失う。
句朗が素早く顔付きのことを説明すると、入は口を挟まず、荷物のところへ向かった。上着に水をかけながら戻ってくると、それを着て炎の中へ飛び込んでいく。
燃え盛る炎の中から芯石を見つけられるはずがないような気がしたが、入はどういうわけか芯石を握りしめて戻ると、甘依の術を始めた。
「木偶が知らせに来てくれたんだ」
いつのまにか、句朗の木偶が戻ってきており、肩の上でじっとしている。
そうか、こいつが入を呼んでくれたのか。
「火が上がっているのを見て、すぐに火湯に連絡した。だけど二人がどこにいるのか見つけられなくって。遅くなってごめん」
入が浮文紙を確認し、まもなく援護の部隊が到着すると読み上げた。
句朗はやっと体の感覚が戻ってきて、怪我の痛みに何度か嘔吐した。緊張の糸が切れたことで、指先さえ動かしたくないほどの疲労が身体を襲う。
心配そうに覗き込む入の頬を、炎がちらちらと照らした。
戻ってきた火湯は、羅愚来の姿を一瞥すると、駆け寄り、壊れ物を扱うように抱きかかえた。
それから戸惑ったような顔をすると、彼を翠羽隊に引き渡した。




