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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第六章 句朗
62/124

6-8

 死が頭の中を占め、目の前が真っ暗になった。


 羅愚来は二、三歩ふらつくように後ずさりすると、次の瞬間には憑き物に飛び掛かっていた。

 顔付きの頭頂部に、武器を深く刺す。

 顔付きはそれを叩くか、抜くのかと思ったが、両手を使って羅愚来を掴もうとした。

 羅愚来は身をひるがえしてそれを避ける。


「入と二人で逃げろ。荷物と、俺のことは諦めろ」


 羅愚来はあっさりとした口調で、句朗に呼びかけたが、句朗の身体はどうしても動かなかった。


 その顔付きは、大きな頭から腕と足が生えているような形だった。中央の口は大きく裂けていて、それとは別に頭頂部にも大きな口がある。鼻と思われるところには穴があいている。皮膚は木の幹のような不思議な文様で覆われており、とても硬そうだ。木の節のようなものは、よく見ると目玉の形をしている。


 顔付きには、知能がある。羅愚来より句朗の方が与しやすいと分かったのか、句朗の方へ向かってきた。

 羅愚来は素早く、顔付きの腱の部分を切り裂く。顔付きは少し体勢を崩したが、這うような姿勢でなおも句朗を狙う。

 句朗は必死に考えながら、顔付きの手から逃れた。


 全員が助かる方法はないのか?顔付きを破壊することはできなくても、逃げることさえできれば、その機会はあるかもしれない。ただ、どうやって逃げる?


 顔付きは、たやすく句朗の足を掴むと、ずるずると引きずりながら近くへ寄せた。地面に叩きつけようと、手を振り上げたところを、ぎりぎり羅愚来が切りつけたことで、なんとか逃れる。


「命令だ!さっさと逃げろ!足手まといなんだよ」


 羅愚来は声を荒げる。句朗は思うように体が動かない。

 羅愚来の身体に憑き物の拳がまともに入り、彼は地面に叩きつけられる。

 句朗の歯の隙間から、叫び声が洩れる。そのまま、羅愚来は顔付きに何度も踏みつけられている。


 もう終わりだ。句朗は羅愚来が死んでしまったと思い、何が何だか分からなくなって叫びながら憑き物に掴みかかった。


 しかし、羅愚来はすぐに身を起こすと、口から血を流しながら、顔付きの背中に斬りかかった。そこが顔付きの急所だったのか、身体をのけぞらせる。


 ふと羅愚来の顔が見え、句朗は驚いた。

 笑っていたのだ。


「俺一人で十分だから、入を連れて逃げろって言ってるんだ。お前、言葉が理解できないのか?」


 羅愚来は馬鹿にしたような口調でそう言った。

 顔も服も、血で真っ赤だった。


 自分がその場から離れたら、すぐに羅愚来は死んでしまうだろう。自分がどれだけ役に立つか分からないが、句朗は命を懸けて、二人で倒すしかないと思った。

 その決心をする間に、句朗は顔付きに殴られ、吹き飛ばされた。足に嫌な感覚が走る。骨が折れたのかもしれない。

 頭をかばい、無様な受け身を取る。


 句朗は持ってきた荷物に小さな火炎放射器があったのを思い出し、荷物のところへ向かおうとした。

 自分の意思に反し、くたくたと足が折りたたまれる。

 手と膝をつき、獣のような恰好で荷物のところへ這う。

 その間、羅愚来は顔付きを引き留めるため、大胆な煽り方をする。


 荷物は顔付きに踏み荒らされていたが、それはすぐに見つかった。

 火炎放射器が有用かどうかは分からない。ただ、いつも通りに戦って勝てる相手ではないことは確かだ。


 句朗は素早く火炎放射器を組み立てた。感覚が麻痺しているのか足の痛みはなく、ぎこちないながらもなんとか立ち上がる。


 顔付きの元へ戻り、必死で火を吹きかけた。枯れた背の高い草はすぐに燃え、炎が広がっていく。

 羅愚来は声を上げて笑う。

 顔付きは火におびえた様子はなく、執拗に羅愚来を狙い続けたが、やがて顔付きの足に火が燃え移った。

 顔付きは手で自分の足を抑え込み、火を消す。


 感心している場合ではなかった。

 句朗は顔付きの周りを移動しながら、その周りの草を燃やす。炎は、あっというまに顔付きと羅愚来を取り囲んだ。羅愚来は顔付きにしがみつきながら、笑い声をあげている。

 炎に照らされた顔付きは、羅愚来によって思ったよりも破壊されているようだった。

 しかし、羅愚来はもう腕に力が入らないのか、振り落とされてぐしゃりと地面に落ちた。


 羅愚来は、死ぬつもりなんだ。

 句朗にはやっと分かった。


 そして、なんとしてでも助け出さなければいけない、とも思った。

 句朗は恐怖を忘れ、炎の中へ突っ込んだ。どこにそんな力が残っていたのか、羅愚来の両腕を掴み、自分の肩の上に担ぐようにすると、また炎の中を突き進んだ。

 もう、まともな思考はできない。


 火のないところまで引きずってくると、燃えていた羅愚来の服を脱がし、自分の服も素早く脱いだ。

 運が良かったのか、服の素材のおかげなのかは分からないが、火は消えた。

 それから、さらに遠くまで羅愚来を引きずって離れた。


 炎の方を振り返る。憑き物は見えない。眩しくてよく見えないが、草よりも背の高い何かが、燃えているような気はする。荷物なのか、近くの木なのか、憑き物なのかは分からない。顔付きは燃え尽きただろうか。


 まず何をすべきだろうか。句朗は必死で優先順位を考えた。

 火湯や羅愚来が元気でいたら、てきぱきと最善の策を出してくれただろう。


 羅愚来は句朗の膝に頭を預けている。顔は煤と血で真っ黒だ。

 指一本も動かせない様子で、このままだと、すぐにでも死んでしまいそうだった。


 それでも、彼は何かを伝えたいらしく「句朗」と名前を呼んだ。

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