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シャグに常駐していた蒼羽隊はいったん煙羅国へ帰り、桂班はその任務を引き継いだ。
何度か街に近づいてきた憑き物が現れて仕事をしたが、幸い顔付きやノウマは現れなかった。
数日が経ち、慰問会の日になった。慰問会には、煙羅国から来た忍冬班も合流した。
そんなに人を割く必要があるのだろうか。忍冬班の二人に尋ねてみると、羅愚来には無視され、火湯には「知らん」と言われた。入は「勇気あるな」と忍冬班に話しかけたことについて感心し、「政治的な建前かなにかあるんじゃないの」と持論を述べた。
句朗には多少の好奇心があったが、入と鼓童はこの仕事を嫌がった。
入は「傷を舐めあうよりもやることがある」と愚痴をこぼし、鼓童は「静かな場所だってだけで苛々する。暴れだしたくなるよな」と不穏なことを言い、傘音と句朗をひやひやさせた。史紋は、鼓童の言動に慣れっこなのか、涼しい顔をしていた。
会場は予想していたよりも、遥かに広かった。会議室のようなところで行われると思っていたのだが、予想に反し、数百人は入ると思われる会場で行われた。
すでに参加者は続々と集まってきている。蒼羽隊のために、会場の脇に席が設けてあり、一同はそこに座った。好奇の視線を感じたが、半数以上が不機嫌な顔をしているので、とても感じが悪かっただろう。
参加者は会場の三分の二を占めるほど集まった。この街で暮らしている、ノウマや憑き物の被害者の遺族はこんなにいないだろうから、ただ興味があって参加した人もいるのだろう。
開会の挨拶があり、来賓と蒼羽隊の紹介があった。それから遺族の人が壇上に上がり、話をした。
その女性は、娘をハカゼで亡くしたそうだ。彼女の娘は生まれつき腕に痣があり、他の人と自分が異なることをとても気にして、幼い頃は非常に臆病だったらしい。
彼女の娘は、周りの人間に上手く紛れられるように、周りの様子を伺いながら、ゆっくり振舞うようになった。孤立している人や人間以外の生き物に、とても優しかったらしい。それで、あらゆる人に公平に接し、よく考えてから行動することで、多少のことでは動じない性格に育ったらしい。
腕の痣など、他の人は気にしていないということが分かってからは、彼女の包容力は人を惹きつけ、いろんな年齢の幅広い友達ができたのだそうだ。気が利いて優しくて、困った人がいたら一番に傍にいてあげられるような、そんな娘だったそうだ。
話は、その娘がハカゼに罹ったところにさしかかった。
句朗はいたたまれなくなり、壇上から目を反らす。
正面をぼんやり眺めていると、いろんな人が目に入った。男性もいるが女性の方が多い。子供も老人もいる。みな深く同情する顔で壇上を眺めている。
ちょうど正面にも、初老の女性がいた。彼女は背筋をぴんと伸ばして壇上を見つめている。ぼんやり彼女の手元を眺めていると、左手の指輪をくるくると触っている。
初めの女性の話が終わると、その正面の女性が立ち上がった。彼女は交代で壇上へ上がると、夫が憑き物に連れていかれた時の話をした。
この会への参加を気軽に考えていた句朗だったが、気持ちが暗く沈んでいくのを感じた。
朧と夜味のことを思い出す。ただ、苦しい気持ちと同時に、使命感や覚悟といった、じっとしていられない気持ちも、ふつふつと湧き上がってきた。
退屈だったのか、途中で木偶が襟元から出てきて、また襟の中へ戻っていった。
数名の遺族が順番に語り、来場者のハンカチが濡れた頃、火湯の名が呼ばれた。
彼はいつもの無表情でさっと立ち上がると、ゆっくり壇上に上がった。それまで話していた遺族と比べて体がひと回り大きく、彼の元々持っている迫力もあいまって、句朗はしびれるような感覚がした。会場の参加者たちも、この男なら自分たちを救ってくれるかもしれないと、感じたのではないかと思った。
こういう場合、まずは遺族に対して深い同情を示す言葉をかけるべきなのだろうが、火湯はそのような気配りをするつもりはないようだった。
はじめから、朧と夜味の話をした。その言葉に怒りや悲しみは現さず、火湯は淡々と、経緯と事実を述べた。それから蒼羽隊の仕事について説明し、全力で憑き物を打ち倒し、安心して生活できる油隠を作っていくつもりだと力強く述べた。
最後にシャグの首長が挨拶をした。まず遺族に哀悼の意を表し、人の命が奪われ危険にさらされていることは非常に悲しいことだと述べた。それから憑き物とノウマがシャグ及び煙羅国に及ぼしている影響を説明し、最後にそれらを人類の敵と称した。
慰問会は無事終わった。
始まる前はあんなに文句を言っていた鼓童と入だが、慰問会を通じて感じることがあったのか、すっかり黙り込んでしまった。




