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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第六章 句朗
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6-5

 帰りがけに、入に連れられ、機械用品の店に寄った。

 何に使うのか分からない部品が、小さな籠に盛られており、その籠が壁を埋めている。


 入は目的のものの場所を把握しているらしく、狭い店内をまっすぐに歩いて行った。いろんな籠を覗きながらそれについて行くと、入はゴム管を吟味していた。


「いろんな種類を買ってみて、味見させてみようか」


 句朗はゴム管を適当に手に取ってみた。白いゴム管、橙のゴム管、細いゴム管、長いゴム管、柔らかいゴム管、薄いゴム管。いろんなゴム管がある。


「塗装がないやつが美味しいらしい」


 店主が訝し気にこちらを覗いている。

 二人は塗装のないものを三種類選び、購入した。


「今日も、何に使うのか教えてくれないんだろうね?」


 背中の曲がった店主が上目遣いで入に尋ねると、入は笑ってごまかした。


「今日、伝えておきたいことがあるからさ、握って寝て」


 その日の晩、句朗は鼓童と史紋と同じ部屋で、早めに床についた。


「俺、鼻が良いんだけどよ、蒼羽隊には一人も腋臭のやつがいないんだよ」という、鼓童のくだらない話を聞いているうちに、眠りに落ちた。


 紫の空間だ。


 竜胆は、すでに椅子に座っている。意味ありげな目配せをするので、握っていたゴム管を差し出した。


「今日は三種類用意しました。気に入ったやつがあれば教えてください」


 竜胆はそれぞれのゴム管を注意深く眺め、匂いを嗅ぐと、「これだ」とそのうちの一本を示した。それから口に運ぶことなく、三本とも服の中に収めた。


「入からの伝言だ。頭の上に、何かが見えると言い出す蒼羽隊がいるそうだが、その話だ」


 句朗は、思い当たることがあった。

 白紙に返ってから目が覚めた時、事務員にそれを尋ねられた。入にも、頭の上に何かが見えるかと尋ねられたことがある。

 竜胆は椅子に身体を預け、気怠そうに話し始めた。



「頭の上に何かが見えると言い出した蒼羽隊は、なぜかその後、すぐに白紙に返るらしい。だから、頭の上に何かが見えるというのは、白紙に返ることの前兆とされていたんだ。

 しかし、名法師たちが故意に白紙に返しているのだとしたら、話は変わってくる。

 その、頭の上に見えるものだが、入にもまだよく分かっていないようだ。

 それが名法師たちにとって都合の悪いものであり、見られると困るので、記憶が消えるように呪術がかかっているのかもしれない。


 また、もっと話がすっきりする可能性も挙げられる。

 頭の上に見えるそれは、蒼羽隊の正体自体を示すものという可能性だ。それが見えたことにより、自分の正体を悟り、白紙に返るんだ。

 そして、それが見えるようになるのは、なぜか決まってトアリスなのだそうだ。だから、甘依の術が関係しているのかもしれない。ここからはお前の話だ」



 竜胆が体勢を変えた。ふわりと魅惑的な香りが漂う。


「お前は白紙に返る前、トアリスだった」


 それは青い手記にも記載されていたので、知っていた。


「お前もまた、頭の上に何かが見えると言っていたそうだ。ただ、お前たちはそれを隠していた。知っていたのは、入と古井だけだ。

 お前は、古井が捕まったあの日、入のすぐ傍で白紙に返った。その白紙に返る瞬間、お前はその頭上の何かを見たらしい。少なくとも、入はその何かを見たせいで、お前が白紙に返ったと思っている」


 いったい、何が見えるというんだろう。なんだか不気味に感じてきた。少なくとも、見ただけで白紙に戻ってしまうようなものが本当にあるのだとしたら、まだ呪術を解呪していない以上、非常に厄介だと思った。


「当時、お前は積極的にそれを見ようとしていたそうだ」


「積極的に…?完全に見えていたわけではなかったのでしょうか」


「入の話だと、初めは気のせいかと思うほどらしい。時間が経つにつれて、その存在が濃くなっていくようだ。どんな見た目なのかを私も尋ねたが、とても言葉では説明できないらしい」


「ちょっと待ってください。つまり……」

 句朗は目を見開いた。


「ああ。入にも見え始めているらしい」


 目の前が暗くなった気がした。


「それが見えていることは、口外無用とのことだ。自分なりに、なるべく見ないように気を付けているらしいが、なかなか難しいだろう。普通にしていても人の頭の上のそれがどうしても目に入るし、仰向けになれば自分のものが見えるらしい」


 句朗は何かできることはないかと頭を働かせたが、何も思いつかなかった。


「伝言は以上だ。何か食べようか?」


 句朗は、自分が白紙に返る前の話を、食べてもらうことにした。その代わり、入が頭の上に見える何かに困っていることや、それが見えると白紙に返る可能性があるという話は、残しておくことにした。


「いいだろう。その記憶を辿りながら、『獏にあげます』と言うんだ」


「獏にあげます」


 次の瞬間、竜胆の顔が視界を埋めた。思わず目を閉じ、その閉じるまでの一瞬で、竜胆の黒々とした巨大な口が見えた。そしてそのまま、自分をすっぽりと飲み込むのを感じた。あまりの恐ろしさに身を縮め、短い叫び声をあげた。


 さらに次の瞬間には、竜胆は椅子でくつろいでおり、自分はその前に突っ立っていた。よろめく句朗を、竜胆は少し笑う。


「可愛らしく叫ぶじゃないか」


 腹を立てる余裕もなかった。まだ心臓はどきどきしている。


「そうだ、私がいなくても、いつでもここへ来てゆっくり考えると良い。ここへ来れば、私が食べた記憶も戻ってくるんだ」


「わ、分かりました」


 目が覚めると、手に握っていたゴム管はなくなっていた。

 あとで入に獏から伝言を聞いたことをこっそり伝えると、「三種類ともいっぺんにあげちゃったの?ばか、お人よしだな」と本題とはずれた点で呆れられた。

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